Episode:2 神故に神

「ようこそ、


 そう言って少女は握手を求める。

 流されるままにフィリヤも手を差し出す。


「会えてよかった。あなた達が訪れていることは分かっていたけど、まさかこんなに早く会えるとは」


 掴んだ腕を上下にブンブンと振り、興奮した様子で少女は言う。


「私達が訪れてる事は分かっていた、ってどういうこと?」


「えっ?あぁ、そりゃ誰でも分かりますよ。出てきたあなた達には見えなかったのかも知れないけど、空にあんなに大きなが開いたんですから」


「……私達と同じ、とは?」


 何となく予想はできるが確認を取っておく。本当になのか。


 ファリアの言いたいことが伝わったのか、コクリと頷いた後に少女は左手を横に伸ばす。


「我が『名』に応じ、其の姿を現せ。我は神、イリミス・ミシェール 汝、我が剣と為れ。」


 簡単な詠唱と共に、イリミスと名乗った少女の腕に剣が現れる。

 明らかに人の為せる業ではないは、フィリヤにベリトロームや鎧の騎士達の姿を思い出させた。


「私はイリミス・ミシェールです。これからよろしくお願いしますね…、失礼ですがお名前を聞いても?」


 丁寧なお辞儀は、礼節を重んじる様子を感じさせる。

 武装した状態でなければ、綺麗で長い白髪や整った顔立ちも相まって、良いとこのお嬢様のように見える。


 そんなイリミスに見惚れているフィリヤを肘で小突いてファリアが応える。


「私が…ファリアで、こっちはフィリヤ。よろしくねイリミス」


「ほうほう、ファリアさんはやっぱりその…」


「ええ、君のご想像の通り。…そういう君はリュズーの娘さんかな?」


「…ご存知でしたか」


「こう見えて知識は結構ある方でね、同じ役目を与えられた者同士、知っていて損はないだろう?」


(そういえば、ファリアはベリトロームの事も知っていたな)とフィリヤは思い出す。

 そのついでに、積み重なった疑問をまとめてぶつける。


「結局のところ、神とかなんとかってなんなの?」


 二人の話に割って入るような形になってしまったが、両者ともにフィリヤを咎めることはしない。

 イリミスが「どうぞお話しください」と微笑む。

 前回ほど切羽詰まった状況ではないため、より詳しくファリアは説明する。


「前に話した通り私達は"神"と呼ばれる存在で、その目的は決まって。ここまではいい?」


 コクリ、とフィリヤが頷く。


「私達は、人々にが語られる…所謂"神話"の存在する者、或いは、史実として文献によってその存在が描かれている者。大まかに分けるとこの二種類の神が存在する。」


 うんうん、とイリミスが頷く。

 イリミスが歩き出したので、二人も続く。

 ピクニック日和のような穏やかな気候に身を包み、和気藹々わきあいあいと歩き出す。

 吹き抜ける風は草花をゆらす。

 それは果てしなく広がるようにも見えた。


「そして、これが最も重要な部分なんだけど、その神話や文献の情報に加えてその者の生きた証を、本人の記憶・技とともにコピーした存在であるのが私達代替者なのよ」


「コピー…??クローンみたいな?」


 理解が及ばなかったのか、頭の上にハテナを浮かべてフィリヤが問う。


「厳密には違うかな。理解を深めるためであればそういった風に認識してくれても構わないけど…」


「なんと説明したら良いだろうか…」そう言ってファリアは頬をかく。

 振り返ってその様子を見たイリミスが、笑顔を向けて口を挟む。


「クローンと私達とじゃ、根本的に違う部分があるんですよ。クローンは、それに対して私達はなんです」


「良く似た…本人?」


「まぁ、引っ掛かりのある言葉ですよね。……当然、声に応じる存在私たちは既に役目を終えて消滅を果たしています。人間で言う『死』ですね。なのでどう合ってもではありません。消滅の瞬間、すべての生涯データをコピーされ、文字通りんですよ。」


 淡々とイリミスは語る。


「まぁ、結局のところ、世界を救うというの為に生まれたなんだよ。私達は」


「世界の崩壊の予兆が現れたとき、選ばれし人が選ばれし神と共に歩む。それがこの世界の仕組みです。」


 話が纏まったようだが、フィリヤの根本の疑問が解決していない。


「……結局ファリアはなんでイリミスの事を知ってるの?」


「あ〜、それはね、私が単に物知りだからということもあるけど、契約に応じていない、神世の世界での状態は割と暇でね、所謂神として振る舞えるんだよ。世界を覗き見たり、記録されたデータを漁ったりね」


「私は比較的そういうのが好きだから」と、ファリアは言う。


「なるほど」と表面的には納得したようだが、一度に情報が詰め込まれたので上手く整理できていない。


「この話はこのくらいにして」と言って、イリミスが手を叩く。


「難しいお話ばかりで疲れたでしょう。なので昔話しを一つ

『昔々あるところに、神の力を失った人と、人でありながら神の力を手に入れた者がいました。神であった者は、たった一人の人間を救うために自身の全ての権能を放棄してしまいまう、優しいなのでした。人であった者は、その恩返しのため無窮むきゅうにも等しい時間をかけて神の力を手に入れました。

 こうして、新たな神によって、世界には再び平和が訪れました。』

 この話が私達…代替者オルタナティブの大元になっていると言われてます」


 フィリヤはふーん、と相槌を打つ。


「……そろそろ目的地みたいね、フィリヤ、あと一踏ん張りよ」


 おう!と声を上げて走り出す。

 どうどう、とファリアも続いて走り出す。


 その様子を、イリミスは眺める。その目に先程の笑顔は消えていた。


(今話したのは、ファリャ神話の序説……は、何処までをフィリヤさんに隠すのですが?)


「イリミスー!早く早くー」


「……はい!只今!」


 こうして三人は一先ずの目的地へと歩き出す。


 イリミス率いるの本拠地、サベーレへと。

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