第二章 分裂島サマノエル

Episode:1 邂逅

 小高い丘の上から、周りの景色を見渡す。

 ヒュオオオと、風が横を過ぎ去っていった。

 の到来に気づき、空を見上げる。


「この世界は私のものだ。誰にも、奪わせやしない。」


 ニヤリ、と笑みを浮かべて踵を返し、自信に満ち溢れた足取りで城への道を闊歩する。







 フィリヤ達は街を目指していた。

 フラフラと自由に歩き出そうとしたフィリヤに、「何をするにも情報から」とファリアが口を酸っぱくして言ったからだ。


 不思議なことに、綺麗サッパリと怪我は消えていたが、度重なる連戦で確実に精神はダメージを受けている。

 明るく振る舞っているフィリヤもただの空元気。

 ファリアには隠しきれない疲れが見て取れた。


 二人は街道を沿って歩いていく。

 運良く商人にでも会えたならラッキーという思いで進む。


「なんと言うか…随分と田舎、って感じよね。こう…自然溢れるって言うか…」


 言葉を濁してフィリヤが言う。

 フィリヤ達が飛ばされたのは高原の真っ只中。

 見渡す限りの大自然からは、街の気配を感じられない。


「えぇ、そうね。ここがどのような世界かは分からないけど、君のいた世界より繁栄してるといった様子ではなさそうだ。」


「最も、ここだけに限った話かもしれないけど」とファリアが答える。



 随分と長い距離を二人は歩いた。

 連戦の疲れも相まってヘトヘトだった彼女らは、木陰で少しの休息を取ることにする。


「大丈夫?ここには生きてる人いる…よね?」


 不安そうにフィリヤが呟く。

 もしかしたらこの世界も滅んだ後ではないのか、と。


「大丈夫、その心配はないよ。微弱だけど、人の反応がある。ここから10km先くらいかな…」


 10kmという言葉がどれくらいかピンと来なかったフィリヤだが、「だいたい2時間くらい歩いた先」と説明され納得する。

 同時に、「人の反応…?」とも思ったがあまり深く触れないようにした。



 休憩のあと、目的の方向に歩き出す。

 少し休んだからか、人がいると分かったからか、フィリヤの足取りが少し軽い。

 ファリアが、「調子に乗ってけたりしないといいけど…」と心配する。


 悪い予感とは当たるもので、ファリアが危機を察知する。

 前方から複数の魔物。

 一般的に魔物とは、魔力によって影響を受けた生物の事だ。

 フィリヤ達が最初にあった悲しい生き物もこれに該当する。


「ギャー!」とマヌケな声を上げてフィリヤが引き返してくる。


 極力戦闘は避けようとしていたファリアだったが、やむを得ず臨戦態勢をとる。


 拳に魔力を集中させ、いざ戦闘開始と行こうとしたその時、魔物達の背後、つまりフィリヤ達の前方から一人の少女がやってくる。 


 彼女は腰にかけた剣を抜くと、華麗な動作で魔物達を一掃し、「大丈夫ですか?」とフィリヤ達に声をかけてきた。


 ポカンとしているフィリヤを横目に、ファリアは臨戦態勢を続ける。


(私の感知に引っかからなかった…?この子、ただの人間じゃなさそうね…)



 何も言わないフィリヤ達に少し戸惑い、やがて合点がいったように手を叩く。


「あぁ、あなた達が!」


「そうですかそうですか…」と言って、グルグルとフィリヤ達の周りを回る。


「ようこそ、この世界へ!私も、あなた達と同じです!」


 そう言って少女はフィリヤ達に握手を求めるのだった。

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