道中、少なくない数の戦闘はあれど、フィリヤ達の士気は高まり続けていた。

 本当に短い時間であったが、彼女らは親睦を深めあっていた。

 だが、楽しい自今も束の間。

 遂に、彼女らは塔内部へと侵入する。


「恐らく…最上階でしょうね。相場が決まってるもの」

「相場がどうかは分からんが、この魔力の発生源は確実に最上階だろう。隠しもせずに垂れ流しやがって…魔力量のアピールでもしてるのか?」


 塔を登る途中からフィリヤはファリアに抱えられている。

 ただの人間である彼女では、ファリア達の速度に付いていくことすらできないから。

 壁を蹴り、空を蹴り、ファリア達は塔を登っていく。

 塔の内側はボロボロで、下手に足を踏み外せば一階まで真っ逆さまだ。

 集中に集中を重ね、ファリア達は最上階へと辿り着いた。



 そこにいたのは、鎧に身を包んだ一人の騎士だった。


「お前さんがここのボス、ってことでいいんだよな

 ?」


 やぁ、元気してたか?とでも言うように気さくに、ベリトロームは話しかける。


「………」


 鎧の騎士は答えない。

 代わりに腰に携えた剣を構える。


「戦闘準備万端ってことか?良いねぇ、そっちがその気ならこちらもやりやすい」

「あぁ、気兼ねなく戦えるというものだ!」


 そう言って二人は走り出す。

 傍から見ると、2対1でファリア達が卑怯なようにも見えるが、実際はその真逆。

 数分前に初めて会ったばかりとは思えない、洗練されたコンビネーションの二人の攻撃は、なんてことの無いそよ風の様に受け流される。


「参ったな…手強い相手だとは覚悟していたが…これほどとは」

「弱音を吐いている暇はないだろう!意識を研ぎ澄ませ!……来るぞ!」


 超高速で繰り出される突き、ベリトロームが槍で防ぐが、威力を完全には殺せていない。

「ぐぁァ!」声を上げ、衝撃で吹き飛ばされる。

 ファリアは拳で技をいなしながら戦うが、何分リーチが違いすぎる。

 加えてこの土壇場においても、フィリヤから意識を逸らさずにはいられなかった。

 フィリヤは動けない。

 震えているわけではないが、ここで下手に自分が行動すれば事が悪い方向に転がってしまうと、自分で理解しているのだ。

 だからこそもどかしい。

 戦闘経験など一切ないただの少女であるが、仲間が必死になっている後ろで、というのがどうしようもなくもどかしい。


 この場にいる全ての者が、フィリヤの置かれた状況を理解していた。

 だからだろうか、彼の行動は誰にも予測できなかった。


「フィリヤ!」


 ベリトロームが、フィリヤに向かって槍を投げる。

 それは決して攻撃なのではない。

 


(フィリヤなら…フィリヤならどうする!?)


 この場において、最もフィリヤと関係の深い者。

 フィリヤが何をするか、予測できなければならない者。


(私は…相棒だ!彼女フィリヤの…相棒なんだ!)


 ファリアの頭の中には、ファリアと出会ったときから今までの、短い時間の記憶が呼び起こされる。


 どれもこれも、ファリアにとって楽しい思い出だった。


(助けてくれて、ありがとう…か)


 フィリヤがと信じて、あの時のフィリヤと同じ、覚悟をした目で、前を向く。


 フィリヤは走り出す。

 きっとファリアなら大丈夫だと信じて。


「ファリアーー!!!」


 槍を構え、鎧の騎士へと向かっていく。

 止まることなど考えない、全力の攻撃。


 騎士にとっては、他愛のない攻撃。

 たが、無視はできない。

 フィリヤに向かって、剣を振り下ろそうとした時、

 フィリヤは槍を後ろへと投げたのだった。


 待ってましたと言わんばかりに、ベリトロームは走り出す。

 空中に放り投げられた槍を掴み、最高の一撃を叩き込む。


「喰らえ!神跋の槍ヴィグレイド!!」


 当然、鎧の騎士は防ごうとするが、意識の外からの超高火力での攻撃、耐えきれるような攻撃ではない。

 加えて、


「させるかぁ!」


 ファリアが剣を弾き飛ばす。


 直撃!

 轟音を鳴らし、塔全体が揺れる。

 はぁ…はぁ…と息を切らし、3人は爆心地を睨む。




 結果から言えば失敗

 土埃を掻き分けて、フラフラになりながらも鎧の騎士は立ち上がった。


「まだ…立ち上がるの…!?」


 先程の様な脅威はないが、3人とも満身創痍。

 とても戦いを続けられるとは思わなかった。


 カラン、と音を立てて剣が放り投げられる。


「…構えろ」


 息を切らしながら、ベリトロームの槍を構えたファリアが言う。


「ファリア!」


 とフィリヤが叫び駆け寄ろうとするが、ベリトロームに止められる。


「大丈夫だ…ファリアなら、…信じてやれ」


 ベリトロームは倒れる。

 先程の一撃で、指一つ動かせない状態だったのを、無理して動いたのだ。

 フィリヤは対峙する二人を見つめる。

 一触即発の雰囲気に飲み込まれそうになったが、なんとか正気を保っている。

 外傷こそないが、この場にいる者の中ではフィリヤが一番

 慣れないこと戦闘を何度も続けたんだ。

 彼女だって立っているのがやっとである。


 決着は直ぐについた。

 二人の刃は交差し、鈍い音を立てた。

 どちらも一歩も引かない…が、ファリアは引けないのだ。

 後ろに、フィリヤとベリトロームがいるから。


「うぉぉぉ!」と声を上げて槍を振るう。

 その攻撃は騎士に重く突き刺さり、決定打となった。

 だが、尚も騎士は剣を手放さない。

 最後まで…倒れた後まで、騎士が剣を離すことはなかった。

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