「フィリヤ下がって!」


 庇うようにしてファリアが前に出る。

 今までの戦闘とは違う、フィリヤにも分かるほどの強敵。

 なにより、相手が喋りかけてきた。

 つまり、今まで戦ってきたような化け物ではなく、相手はということだ。


「おいおい、ちょっと待ってくれよ。何もいきなりそんな警戒しなくても…いや、まぁ当然か。こんな世界で生きてられるってことは、お前さんらもマトモじゃあねぇんだろ?」


 ファリアは既に、相手から戦闘の意思が感じられないと解っている。

 だが、一瞬でも気は抜けない。

 後ろには、フィリヤがいるから。

 1分にも満たない睨み合いが続く。


「あなたは…何者?」


 静寂に耐えきれなかったのか、最初に痺れを切らしたのはフィリヤだった。


「礼儀としちゃあ、先に自分のことから話すべきだろ?まぁ、嬢ちゃんの名前が"フィリヤ"だってことは聞いちまったし、こんな状況でそうも言ってられないわな。」


 男は槍の構えをとき、近くの岩に腰掛けて話し出す。


「俺の名前はベリトローム、しがない槍使いさ。」


 ベリトローム、と名乗った男は「アンタの名前は?」とでも聞くかの様に、ファリアへと手を傾ける。


「ベリトローム…セルムの戦士か…」

「おっと、俺みたいなマイナーな戦士を知っててくれるのかい?嬢ちゃん、相当な物知りだな!」

「まぁな…」


(本当にベリトロームには敵意はないようだ…)とフィリヤはとりあえず安堵していた。

 たが、それよりも気になることが一つ。


「二人は…知り合い、なの?」


 ファリアはベリトロームのことを知っていたようだし、ベリトロームもフレンドリーに話しかける。

 後者はただ彼がそういう性格なだけかもしれないが。


「いや、知らないな」


 即答

 何故か冷たくファリアは答える。


「ひょっとすると、そっちの嬢ちゃん…フィリヤがアンタの契約者かい?秘められた魔力量からもそうだと思うんだが…」


 契約者、という言葉に引っかかるフィリヤだが、ここで自分が割って入れば話が進展しないと思い口を紡ぐ。


「あぁ、そうだ。改めて紹介しよう。彼女がフィリヤ。そして私が……ファリアだ。」


 ベリトロームは、咄嗟に槍に手をかける。

 それに応じてファリアもフィリヤの前に左手を広げる。


「…あぁ!悪ぃ…とんだ名前が出てきたもんで驚いちまった。ファリア…ってのはファリャ神話の神サンで良いんだよな…?」

「…そうだ」


「だから名前は言いたくなかった」と若干ふてくされた様子でファリアが言う。

 ベリトロームも、槍から手を離してホッと一息つく。

 たが、フィリヤには、その話をそのまま流すことはできなかった。


「待って、ファリャ神話…?神…?ファリャ……本当に、あなたは神様だったの…?」

「おい嬢ちゃん、もしかして知らねぇで…」


「もしかして知らねぇで今まで一緒だったのかい?」

 と、言おうとしたベリトロームの前に、ファリアが手を突き出す。

「少し静かにしていてくれ」という合図だ。

 彼も、空気を読んで口を閉じる。

 事の顛末を見守るようだ。


「フィリヤ、さっき私は世界を守る神のような存在…といったでしょ?あれは少し言葉不足でね、私は…本当の神なの。彼、ベリトロームも同じ。根本的なところでは違うけど、同じ役割を与えられた神なのよ。」


 フィリヤは言葉を真剣に受け止める。

 彼女の目を見て、ファリアは続ける。


「私達が顕現するシステムは、世界の異常に対しその願いに呼ばれる。願う者…ここで言う君のような存在。その者の願いが、力を貸すに値するかを吟味し、私達が認めた存在だけが力を貸し受けることができる。そしてその、呼ばれる者とは…過去に存在した神々。世界を創った神という過去の存在が、今の世界を生きる君たちとともに世界を守る。それがこのシステムの大まかな仕組み。」


「とりあえずはこんなところかしら」とファリアは話を終える。

 フィリヤには、またもやスケールの大きすぎる話でなんと言えば良いか分かっていなかったが、これだけは言わなくちゃ、と口を開いた。


「ファリアは…私の願いを認めてくれたんだね…うん、ありがとう。」


 感謝を述べる。

「助けてくれて、ありがとう」と。


「あ〜、話は終わったか?」


 蚊帳の外であったベリトロームが話しかける。


「ちなみに補足するとだな、嬢ちゃんの相棒みたいにと、俺みたいに生きているうち、もしくは死後に"神性"を得た神の二種類が存在する。基本的に願いに応じるのは後者の方だが、まぁ今回はレアケースだな」


 と、今まで蚊帳の外だったのを取り返す様にペラペラと話す。

(寂しかったのかな…)とフィリヤは思ったが口には出さない。

(寂しかったのだな…)とファリアは思ったが口には出さない。


「…で、結局貴様の目的は何なのだベリトローム」


 一つ、フィリヤに疑問が生じる。

 では一体、、と。

 その疑問はこの質問への問で解消されることになるのだが。


「俺は、待ってたんだよ。嬢ちゃん達をな」

「……続けろ」

「見てもらった通り…俺にはフィリヤの様な契約者がいない。」


 きっとそうだろう、とフィリヤも思っていたわけだが、それでは先程のファリアの説明と食い違う。


「きっと世界が滅んだ異常故、なんだろうな。ともかく俺はイレギュラーとしてここに呼ばれた。そして、真っ先にこの世界の異常を把握して、あの塔ににいる奴を倒すため、ここで待ってたってわけよ。」

「私達が来ると…知っていたのか?」

「いや、知らなかったさ。あわよくば、で待ち続けただけさ、それが今はラッキーで二人の仲間に巡り合ったわけだ。」


 それこそ偶然。

 ベリトロームは来るはずのない未来の仲間を、ずっと待ち続けていた。

 いつ完全に崩壊するともわからないこの世界で。

 ファリアとしても、戦力が増えるに越したことはない。

 だが、守るべきものフィリヤがいる以上、判断は慎重に行わなければならない。


「OK!それじゃあよろしくね、 ベリトローム!」


 そんなファリアの悩みを掻き消す声が響き渡った。


「おいおい、俺が言うのもなんだが…こう言うのはもっと慎重にだな…」


「人を疑うってことを知らんのか?」と言いたげな目でベリトロームが言う。

 同時に、「お前からもなんか言ってやれ」とファリアに視線を向ける。

 だが、そんな視線無視するかのように。


「そうだな、私の相棒がそう言うんだ。よろしく頼むよ、ベリトローム」


 清々しくファリアが言い放った。


「はぁ…まぁ良いだろう。俺たちは時間が惜しい。今すぐにでも出発だ!」


 もうどうにでもなれ、といった投げやりな感じではあったが、3人の中には確実に仲間としての絆が生まれていた。


 そして、彼女らは最終決戦の地へと向かうのだった。

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