第35話


 「アルフレッドさん…… その女の子は何?娘?」

 「何って言われても…… 」

 「アル兄さん…… この失礼な胸脂肪の女は何者だい?」

 アルフレッドは王都の拠点に戻ると直(す)ぐにリリィに迎えられたのだが…… キュッと仲良さそうにアルフレッドの手を握る魔女マリスカを見て怒りを露(あら)わにした。

 まあ、率先して握るのは魔女マリスカでアルフレッドは諦め顔なのだが…… リリィは何かを感じたのか、兄妹とは思わなかったようだ。


 「あなた…… エルフよね?って事はババアじゃないの?」

 魔女マリスカのエルフ耳を見ながらフフンと鼻で笑うリリィに魔女マリスカはニヤリと笑う。


 「…… いいね、こんな風に私にケンカを売る人族なんて久しぶりだよ」

 「やっぱりババアなのね…… アルフレッドさん、私の方がいいわよ?ほら、あの…… あの…… ぴちぴちしてるわよ…… あうぅ…… 」

 一重瞼ひとえまぶたを気にするリリィは目を隠そうと何度も前髪を手で撫で下ろしながら、自分の良さをアピールしようとして羞恥心で赤くなってしまった。

 そんな2人を見てアルフレッドは(めんどくさいなぁ…… )と心から思った。


 王都の拠点のキース一派は冬の間に人数が増えていて30人を超えていた。


 アルフレッドとキースが帰還して案内された新しい拠点用の賃貸物件は超大家族向け1の広さがあった。

 アルフレッドもキースの拠点を利用するので冒険者報酬とポーション煙草の売り上げの数パーセントを拠点の資金に入れていたので資金は多く、また魔女マリスカの生存確認の報酬も事の他多かったのが幸いして冬場の食料の備蓄と拠点の移転の両方が果たされていた。


 「そうか…… 今年の冬は寒かったからか」

 「うっす…… 他の派閥の孤児らを凍死させるのも何なので迎え入れましたが良かったっスか?」

 キースはロンの報告に笑いながら頷(うなず)く。


 「人数が増えたなら増えたで仕事はあるからな、なんとかなるさ」

 「うっす…… ところでキースのアニキ…… 何でアルはロリコン路線に行ってるんっすか?」

 「…… それは言わない方がいいぜ?」

 「う、うっす?」

 キースは疲れたような顔でギャーギャーと口喧嘩をするリリィと魔女マリスカを見ながら溜め息をついた。



*****


 新拠点に旅の荷物を置き、アルフレッドとキースは魔女マリスカを連れて冒険者ギルドに向かう。

 生存確認は達成しているので仕事としては終了しているのだが、ボーナスとして多めに報酬を包んでくれていたので顔見せはしておいた方がいいと判断したためだ。


 「あら〜いらっしゃいアルフレッドさん♡今回の依頼、ご苦労さまでした〜♡」

 「…… アル兄さん、おぬしはどれ程まで女を侍(はべ)らす気なのだ?」

 冒険者ギルドの新人受付嬢はいつも・・・通りに猫撫で声でアルフレッドを迎える。


 冒険者ギルド貸し出しの寝袋をカウンターに返却しながらキースは苦笑しながら「アルを好きな女はたくさんいるぞ?」と余計な事を言うので受付嬢は笑顔を深め、魔女マリスカは眉間にシワを、アルフレッドはキースの頭を叩(はた)いた。


 「…… で、アルフレッドさん今日はどうしました?」

 「報告に来た」

 「もうちょっとニッコリできませんか?サービスですよ?」

 「なんなんだよ、もう…… キース任(まか)せた」

 キースはアルフレッドに憐れみの目を向けて魔女マリスカの生存確認と同行を説明し始めた。


 「いいかい?アル兄さん」

 「ん?」

 魔女マリスカがアルフレッドの袖(そで)を引き寄せて耳元で囁(ささや)く。

 「いいかい?アル兄さんはどうやら知らずに魅了(チャーム)を振り撒いているようだ」

 「魅了(チャーム)?」2

 「…… いい、匂いがいいねアル兄さん…… いや、今はいい、危ない。アル兄さんは様々な特殊魔法を得ているね?」

 「…… ああ、そうだが?」

 「いいかい?例えば権力者や富豪なんてものは存在自体に一流の雰囲気オーラを宿(やど)すものだ」

 「…… それが俺に?」

 コクリと頷(うなず)く魔女マリスカに驚きアルフレッドは考える(未来視・神罰の魔法・聖女の魔法・重力の魔法・死霊魔術ネクロマンシー・魔女の飛行術…… 確かに色々と覚えたな…… )


 アルフレッドはそれに加えて、火風水土の四属性の魔法が使える。

 それらが知らずに体から溢れて異性を惹きつける魅力となっていると魔女マリスカは当たりをつけた。


 「…… いいかい?アル兄さん、実験をしてみよう。これは今後に必要となる事だ」

 「実験…… いるの?え?いいよめんどくさい」

 「いいからいいから」

 そう囃(はや)し立てながら魔女マリスカが指差す方には女傑アンボニー3がパーティーの部下を怒鳴(どな)り散(ち)らしている場面があった。


*****

 「アンタら!マジで殺すよ!なんでこんな簡単な依頼が達成出来ないんだい!!?」

 女傑アンボニーは若く美しいがその体は筋肉がしかとつき、ボディービルダーのような太腕で部下の1人を拳骨する。


 「あたたたた…… そりゃ無いっすよ姉(あね)さん」

 「うっさいわ!ボケ!」

 女傑アンボニーは、わなわなと拳を震わせて怒りがおさまらない。

 美しく強い彼女を慕い冒険者が集まって氏族(クラン)4が結成されたのだが…… やはり女目当ての男どもは柔(やわ)で冒険者の仕事を途中で投げ出したりと女傑アンボニーを憤怒させている。


 「全く…… 男ってのはどうしようもないね…… はぁ…… 」

 「「「「すんません姉(あね)さん」」」」」

 女傑アンボニーのため息に部下の男どもが謝る。

 そこへ、スタスタと魔女マリスカに連れられアルフレッドが近寄る。


 「…… なんだい?あんた…… ウチの氏族(クラン)|に入りたいのかい?もういっぱいだから…… ム…… リ…… 」

 女傑アンボニーは言葉の途中で息を呑んだ。

 アルフレッドの輝く瞳に吸い寄せられ、心臓が高鳴り顔が熱くなる。


 「いいね?アル兄さん、やはりそうだよ」

 「あまり…… 嬉しく無いなぁ」

 魔女マリスカはアルフレッドに「瞳に魔力を注いで好意を持って女冒険者を見てみろ」と指示していた。


 アルフレッドは言う通りに、おっかない女冒険者アンボニーを瞳の魔力でジッと見たのだが…… 効果は覿面(てきめん)で彼女は腰をくねらせて尻餅をつきアルフレッドを恋する乙女の顔で見つめる。

 

 魔女マリスカとアルフレッド本人も気付いていないが、アルフレッドの中にある【未来視】などの特殊魔法が魂と絡まり瞳の奥でまるで宝石のように輝き異性を魅了してしまっているのだ。

 女傑アンボニーはアルフレッドの自分を見つめる瞳が、いつか幻のように消えて無くなるような恐怖を覚えるまでになっていた。


 「私を…… アンタの女にしてくれよ!!!!」

 「えっ!?ちょっ、テメー!姉(あね)さんに何しやがった!」

 女傑アンボニーはアルフレッドに叫び、アンボニーの氏族仲間クランメンバーは怒りながらアルフレッドを睨む。


 「いいね、アル兄さん…… やはりアル兄さんは素晴らしい。私の夫に相応しいよ」

 「…… 女関係での面倒は命に関わるから嫌なんだけど?」

 「いいかい?どんな世の中でも『何か』を持つ者は異性に惹かれてしまうものだ。アル兄さんはそれが分かりやすい形になっただ…… あぅ…… 私に魅了をかけて…… ど…… どうするつもりぃ…… 」

 「…… マリにもかかるなら相当だな…… 」

 「実験は成功だよ。アル兄さん愛してるよ…… これは…… 素晴らしい…… 股が疼くとは…… うぅ。」

 

 この喜劇をギルドの受付カウンターで呆れた目で見ながらキースは「まぁ、アルはイケメンだからしゃーないよな」と考えるのを止めて次の仕事を探しだした。



*1

 地球の中世ヨーロッパは大家族の割合が低かった。

 核家族世帯や独身者が多かった。

 成人した子が親世帯から離れるのがロシア等より早かったし、また、若くに親元から離れて結婚する者も多かった。

 それに1346年から始まるペストの蔓延も核家族化の原因となっている。


 異世界においては仕事としての冒険者があるし、防壁から外には人を襲う魔物がいるので、親から子に戦い方や遺伝的に魔力があるなら魔法の使い方のレクチャーをする期間があるので、子はそのまま家に留まり二世帯、三世帯と家族を増やし共同に住むなどして大家族化する傾向にある。



*2

 魅了(チャーム)

 サッキュバス、インキュバス、セイレーンが使う魔法であり、また魔法の道具や薬品にも魅了(チャーム)効果のあるものがある。

 サッキュバスは人の死体に憑依して男性から精液を搾り取り、男性体(インキュバス)に変体して人の女性を襲い子供を産ませるという変態悪魔であり、セイレーンはオデュッセイアに登場する魔物で海上て魔力の乗った歌を歌い船乗りを呼び寄せ食べてしまう4〜5匹の姉妹の魔物である。


 サッキュバスといえばリリスを思い浮かべるが、リリスは子供の内臓を食べるという血生臭い言い伝えもある。

 古ユダヤではリリスはアダムと結婚していたが裏切られ、悪魔に堕(お)ちるとアダムの次の妻イブに対して蛇に化けた姿でリンゴを食べさせアダムに復讐したという話もある。


*3

 アン・ボニー

 実際に存在した女海賊がモデル。地球のアンはおっぱいペローンとして男を馬鹿にするのが趣味。


*4

 クランClanの言葉はゲール語のクランcrann…… これは子供childrenから来ている。そのぐらいに結束の強いもので血縁や人種、宗教などの元に集まる集団。

 1996年のクエイクというゲームで『集団』というカテゴライズで使われた今のゲームや小説のクランClanという概念の多くはここから来ている。

 異世界の女傑アンボニーが氏族長クランリーダーとして活動する偶像崇拝(アイドルおっかけ)集団パーティーだが依頼の成功率は低い。


 地球の秘密結社である北方人種至上主義(クーKuクラックスKluxクランKlan)のクランKlanは英語の綴りは違うがクランClanを変化させた物で意味合いは同じと思っていい。

 彼らは白人こそが神が作りしアダムの子孫と考え行動しているので根本には宗教があるクランClanなのだ。

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