第34話
「晴れた!」
キースが喜びから大声を出したのは仕方ないだろう。
魔女マリスカの住む場所から雪嵐が去ったのだ。
まだ積雪はあるが、これから雪解けに向かうだろう力強い太陽の陽の光が降り注ぐ。
「やった!帰れる!」
キースは確かに魔女マリスカのおかげ様で土魔法の力は大幅に上がったが、もうこれ以上の勉強は嫌で早く王都に帰りたかった。
朝食前なのに騒がしいキースは足を縺(もつ)れさせながら、まるで囚人が慌てて脱走するように外に飛び出した。
「総括ぅ!!」
「うぁ!?」
「へっ?どうしたマリ?」
魔女マリスカは家の開け放たれた扉から、腕を組みながら犬のように外で騒ぐキースと、晴天の中で周辺確認をするアルフレッドに叫ぶ。
「いいかい?この冬に点数をつけていただろう?その総括をするよ」
「え?マリ、あれって何かのノリじゃなかったの!?」
アルフレッドは驚き魔女マリスカを見るがどうやら真剣なので、しどろもどろになりながら魔女マリスカの説明を聞く。
エルフの国では
これは現代の地球で言うなら中国の社会信用システム
「アル兄さんは最高得点!キースは…… まぁ45点」
「…… えぇ、魔女様…… 低く無いっスか?」
(上限は何点なんだろう?)と疑問を頭にアルフレッドは雪原に膝をつくキースに苦笑する。
「いいかい?キース、キミは肉体労働はアル兄さんと同程度していたが料理と勉学が全くだったじゃないか?」
「…… うぐ…… だって…… 勉強は難しいし…… ってかアル!!なんで
「…… センス?」
「うぐ…… チクショー!」
アルフレッドは魔女マリスカから料理を習っていた。魔女マリスカは調理による火の調整や調味料の計測を通して薬学の熟練度を高めさせようと、食事の度に各地の料理を残り僅かな備蓄食材
「いいかい?では、キース!45点のキミには魔笛(まてき)を与えよう!いいかい?喜ぶがいいよ!」
「…… 魔笛?」
「いいね、まさに疑問と言った顔だ!」
「笛っスよね?」
「いいかい?バカたれキース。魔笛とはその名の通り魔法が付与された笛だよ」
「はい、笛っスよね?」
「…… いいかい?バカ?」
「とうとうバカだけになってもた…… 」
「バカ、魔笛はねアンタのような仲間思いの人間にピッタリな物なんだよ?」
魔女の薬と魔物の骨から抽出した膠(にかわ)を魔力を籠めながら何層にも塗り固め作られた、小さなパンパイプ
「魔女様、オレ笛なんて吹けないっス」
「いいかい?バカな子だね、その魔笛は吹けば一音ずつに精神の安定を与える魔法が発動される魔道具だよ…… アンタは仲間思いな子だ、皆を守るための道具としてしっかり練習おしなさい」
「…… うす」
キースは魔女マリスカに頷(うなず)くと試しに手に持つパンパイプを♪ピューッと音階に沿って横に吹いて行く。
「いいかい?キース魔力を込めるように吹くんだ」
キースは目礼して、さらにパンパイプを吹くと音色を聴いているアルフレッドは不思議と心が穏やかになるのが分かる。
「なるほど…… マリ、これは凄いな」
「いいね…… やはりキースのようないい子にはピッタリな道具だね」
「どう言う事?」
「いいかい、あの魔笛は奏者の心により音色が変わる陽気であれば陽気な音色に、闇の心であれば歪んだ汚く落ち着かない音色になる」
「…… なるほどね、キースにはピッタリだわ」
音程や曲調なんてあったものじゃないが、キースの奏でる音色は暖かく気持ちの良いものだった。
魔女マリスカは寂しがり屋である。
だから、仲間となり良い人間と判断したキースには長生きして欲しいので良い物を渡したかったのだ。
魔笛は集団生活をするキースにとって、これからの人生で必要不可欠なものとなるだろう。
「マリ…… ところで、俺は何かもらえるのか?」
「…… いいかい…… いいかい?えっとだね」
「なんだよ、熱でもあるのか?」
魔女マリスカは首から顔まで赤くして、モジモジとしながら上目遣(うわめずか)いでアルフレッドを見つめる。
「いい、違うのだよ、アル兄さん、えっとだね…… アル兄さんの私の過去最高点の統括の、えっと…… 点数の商品は…… わ、私ではどうかね?」
「…… はい?何て言った?」
「…… 私がアル兄さんの…… その、いいかい?えっと…… 商品というわけにはいかないだろうか?」
「えっ…… ?」
「いいかい?乙女の返却は無効だからね?」
「まだ貰うとは言ってませんが!?」
「…… もらう…… いいね…… 実にいい、妻とすると言う事かい?アル兄さん?家族になれるのだね?嬉しいよ…… 私に家族が…… ふふふ」
そう弾むような声で魔女マリスカは言うと、アルフレッドにギューっと抱きついた。
「…… イケメンのアルは幼女にもモテモテ」
「ちょいまて!キースゥゥ!」
「実際にモテモテじゃねぇか…… ロンより手に追えねぇ」
「キィィィスゥゥゥゥ!」
「…… アル兄さん…… 幼女に
「マリスカ!?痛い…… え?何でこんな力強いの?え?魔法?魔法でなんかしてる?痛い!痛いって!」
ギュッと魔女マリスカの抱きつく手に力が入り、アルフレッドは鯖折りになりながら叫んだ。
「ぷぷぷぷぷ…… モテモテへの天罰じゃぁぁ!」
「キース!テメェ助けろ!マジ痛いから!」
「アル兄さん…… 正妻は私、いいね?」
「ちょっと待て!マリ!何で話が進んでるんだ!?」
アルフレッドの絶叫は雪山に木霊(こだま)して麓の漁師村にも聞こえたという…… 。
[補足]
地球の魔女も結婚をしていた例がある。
彼女は結婚をしており夫の名前も記録に残っている。魔女として1572年に処刑された。
この異世界では魔女は宗教対立を教会としていないので、アルフレッドとの結婚は祝福をもって認められる。
「マリ…… 」
「いいかい?アル兄さん…… 私はもう寂しいのはゴメンだよ。エルフの寿命からしたらアル兄さんとの一生は一夏の恋という所だろう。しかしね、その恋だけで生きられる命というものもあるのだよ?」
「マジで痛いので助けてくださいごめんなさい」
「いい…… いいかいアル兄さん…… エルフは家族思いの種族なのだよ…… つまり嫉妬深い…… 私にこんな嫉妬心があるなんて知りはしなかった…… 」
「ちょ!マジ、魔女様!アル死ぬから許してあげて!」
─────こうして、冒険者ギルドの『生存確認の依頼』は救助予定者の王都同行という結果になり依頼の終了となった。
*1
社会信用システム
中華人民共和国が作ろうとする評価システム。
キャリアや収入、貢献度に見合う点数を人民に与えてランキングするというもの。
共産主義なのにランキングをつけるというのは、理解に難しいがAIやコンピュータシステム、インターネット速度が拡充される現在、共産党名簿上位の人々が中国人民を制御し、現在の中国を大国として継続させるには必要な事なのかもしれない。
*2
肉は定期的に吹雪の中でも動き回る魔物を討伐して得ていたので主に備蓄食材で使用したのは小麦などの穀物と乾燥野菜だった。
地球の魔女には善なる者、悪なる者に別れている。
善なる魔女は神が一番上である宗教を信奉し、白魔術とされた。
悪なる魔女は魔(サタン)を一番上として崇拝し、黒魔術とされた。
白魔術を使う善なる魔女は神に身を捧げる信奉者で宗教を作り社会に役立ち利益を齎(もたら)した。
創作物の魔女はほとんどが悪なる魔女であり黒魔術師であろう。しかし2月と5月の聖燭祭りの前日であるワルプルギスの夜に部外者を呼び裸で暴食と姦淫(かんいん)に喜ぶ場面はないだろう。ヤギとの獣姦などはもっての外で描写はされない。
また男性の魔女(魔術師)も存在していてギルス・ガルニエ(処刑は1573)は人狼(ライカンスロープ)として子供達を襲った、人狼になるきっかけは幽霊が現れて『軟膏」を彼に渡し、それを塗布してから人狼となり人を襲ったという。
*3
魔笛 まてき
オペラで有名な魔笛であるが、ドイツの伝承であるハーメルンの笛吹き男が持つのも魔笛である。
オペラの魔笛を書いたモーツァルトはオーストリアの作家であるがオーストラリアはドイツに面しており公用語もドイツ語である。
ドイツ近辺、魔笛好きすぎ疑惑。
*4
パンパイプ
パンの笛と呼ばれる笛で、神であるパーンが持っていたものとされる。古代ギリシャ時代から存在する楽器で、*3にあるモーツァルトの魔笛はパンパイプである。
モーツァルトの魔笛もハーメルンの笛吹き男でも魔笛による魔法の音色は精神作用を聴者に与える。
ゲームで言うなら「魔笛の音色が聞こえる!なぜかヒロインが現れた!」とか「魔笛の音色で子供が仲間になった!」とかそういう感じ。
ドイツ近辺、精神操作好きすぎ疑惑。
音色は演奏者の腕によるがビブラートを効かせた非常に豊かで落ち着いたものである。
*5
他にもシャツを使い井戸にて水の精霊魔法を呼び出し鍛冶屋の夫を癒した話もある。しかし鍛冶屋夫婦は一度目で指示された方法で濡れた水魔法を付与されたシャツを使わなかったので、数年後に鍛冶屋の夫は死んでいる。
権力者を暗殺すると故意に悪意を持って嘘を吹聴されて逮捕され処刑された。
年齢は不明。夫の名前はウィリアム
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