第33話
アルフレッドは魔女マリスカと夜に酒を飲みながら
昼は白熊の魔物の肉が塾生していたので大はしゃぎしながら暴食して贅沢をしたので、夜はサパー
少し空きっ腹だった事もありキースはいつもより酒に弱く、夜の早い時間から暖炉の前に置かれた
「キースは、酒を飲まさない方がいいかもな」
「いいね、その注意はしておくべきだ。いずれ酔って寝ている時に悪さをされてしまう」
アルフレッドはキースをロッキングチェアに深く座らせ、暖炉の輻射熱で火傷しないように椅子ごと少し暖炉から離し火傷しないように毛布を膝から胸にかけてやる。
「いいね…… キースはアル兄さんの弟のようだ」
「こんな暑苦しい弟はゴメンだけどね」
魔女マリスカはスプーン一杯のベリージャムをワインに溶かしながら寂しそうに目を伏せる。
「いいじゃなか人との繋がりは結局の所、自分に返ってくる。良い人脈なら後に良い影響を…… 悪い人脈であれば後々に自分の人生に躓(つまず)くような悪さをする可能性がある」
魔女マリスカの「キースはいい人間だ」という呟(つぶや)きは暖炉の火が弾ける音に邪魔され、暫(しばら)くの無音が2人の間に訪れる。
「マリ…… ちょうど良い機会だし、仲間としてドゥームはどうだったか教えてくれないか?」
「…… いいけど…… 楽しい話ではないよ?いいのかい?」
返答として頷(うなず)くアルフレッドを見ると魔女マリスカは手元にある本の間から栞(しおり)にしている薬草を取り出して、握りつぶし、キースの元に行くと顔に「ふっ」と吹きかけた。
「睡眠効果のある薬草…… だね?」
「いいね、しっかり観察していて偉いよアル兄さん」
キースはさらに深い眠りについたのだろう、鼾(いびき)少なく深く、深く体を椅子にあずけた。
ドゥームの話をするにはアルフレッドの【未来視】に触れるのだからキースに聞かせるわけにはいかない。殺すか眠らせるのが今は手っ取り早いのだ。
さてさて、どこから話せばいいものか…… と魔女マリスカは席に戻り手元の本を指で遊びながら考えた。
*****
魔女マリスカは故郷であるエルフの里で両親が死ぬと、その才能に嫉妬され迫害された。
彼女が里から持ち出せたのは両親の少しの遺品と洋服だけだった。
手に持つバッグのあまりの軽さに、自分の人生を呪うより両親の思い出をあまり持ち出せなかった寂しさの方が強かった。
そこから、習慣や文化の違う人種族の国で成り上がるのだから魔女マリスカの才能は確かなものだった。
彼女は多くの場合、ひと匙(さじ)のスプーンで簡単に魔法薬を調合していくので『杓子(しゃくし)の魔女』として二つ名を持っている程だ。
魔女マリスカと【未来視】のドゥームが出会ったのは、魔女マリスカが人種族の間で名声を高めだした頃だった。
「いいかい?物事には順序がある、少し昔に話は戻ったが…… ここまではいいかね?そして、王都で私はドゥームと出会う」
「この家で出会ったんじゃないんだな」
うん、と魔女マリスカは見た目は可愛く頷(うなず)きワインで喉を湿らせ昔話を続ける。
ドゥームもアルフレッドと同じ冒険者だった。
彼は粗雑であるが、笑顔はとても親しみを持てる細目の壮年の男だった。
「いい男とは言えない顔だったね、いいかい?アル兄さんのように男前では無かった…… でもクシャリと笑顔になるのがよかった」
「…… なるほど」
ドゥームは薬草の調合依頼で魔女マリスカを訪ねた。
魔女マリスカは訪ねて来た者に敵意がないのなら率先して会話を楽しむ寂しがり屋で、調合の間にもドゥームの笑顔が良のでそれを引き出そうとドゥームに話を振り楽しんでいた。
ドゥームと話をして知ったルーツ…… 彼は異民族
魔女マリスカは何度か仕事をドゥームから受け、2人は友人となっていた。
「ある日…… いいかい、本当になんて事ない日だった…… 私はドゥームの依頼を受けて魔法の道具を作っていた」
「…… 話が飛ぶね?」
「いいかい、心に仕舞(しま)いたい良い思い出と言うのは人に話せば話す程に劣化するのだよ?」
「…… なぜ?」
「いいかい?話題とする人が
なるほど、とアルフレッドは頷(うなず)く。亡き両親の事を誰かに端的に評価されたくはない。
「いいね?良い思い出は色々な感情を含めてその期間で纏(まと)め覚えているものだ…… 二度と会えない人との会話は、一つだって誰かにより変えられるのはたまらないのだよ。」
アルフレッドは再び深く頷(うなず)き、「いい子だ」と魔女マリスカは目を細めてアルフレッドを褒めた。
「いいかい?逆に悪い思い出はキースのようないい子に聞いてもらうんだよ?良い風に改変してくれるからね?」
「…… 分かった」
うんうん、と魔女マリスカは可愛く頷(うなず)き、その為に良い人脈は必要なのだよと笑うと、ドゥームの話を続けた。
「…… そう、なんて事がない日だった。魔法の道具の作成の詰めになって私は下を向き、また、ドゥームを見た」
それは5分も無い時間だったと魔女マリスカは目を瞑り思い出しながら話す。
「その間に私は、【未来視】の中で、ドゥームに殺されていたんだろう…… 目の前にいるドゥームは私の薬草やらを関心するように見回していた…… 彼は【未来視】で私の魔法を手に入れていた」
魔女マリスカはその時からいきなりドゥームから魔法の匂いがしたという事はアルフレッドに伏せて話した。
「…… なんかすみません」
アルフレッドは今では魔女マリスカを【未来視】で殺害した事を後悔していた。
この見た目幼い魔女は【未来視】で殺された事を知っても自分に対して変わらぬ好意を向けてくれているのだから。
「いいかい?アル兄さん【未来視】で殺された側からしたら、それは知らない世界で起こった事だからね…… 気味悪がる人族もいるだろうが私は違う」
魔女マリスカは、あなたから感じるエルフの匂いに出会えて私は嬉しいという言葉は飲み込んだ。
「夢の中の出来事を情報源(ソース)にして人を責めるみたいなものだよ、いいね?アル兄さん、私に対しては罪悪感を持ってはいけない」
「…… うす」
「いいね、キースの影響は良い」
フフと魔女マリスカは笑い、その笑顔に「持つな」と言われた罪悪感がアルフレッドに増えた。
「…… 私はドゥームから【未来視】の魔法について聞いて…… 私は、彼と旅に出る様になった。2人で空を飛び…… 各地を回った」
楽しかった…… と言葉を過去形にした時に魔女マリスカは悲しそうに顔を変えた。
「ドゥームは…… 力の行使を楽しんだ…… 様々な問題を解決する英雄である日があれば、気に入らない貴族家に対する鏖殺(おうさつ)者になる事もあった」
「おうさつ?」
「皆殺しという意味だよ」
「…… 。」
「私の、空を飛ぶ魔法を使い、手の届かない場所から、貴族家を魔法で火の海にする…… いいね?これは私は肯定していない」
ギュッと握る拳は、魔女マリスカがこの行為を拒絶している証だろう。
その拳にアルフレッドは手を添えて頷(うなず)くと、フッと魔女マリスカは力を抜く。
「ドゥームは、会う度に新たな魔法を、手に入れていた。恐らく私の知らない所で【未来視】で人を殺して回っていたのだろう」
アルフレッドは自分も同じような事をしているので言葉が無かった。
また魔女マリスカもアルフレッドが似た事をしているだろうと推察していた。
なぜなら、自分を【未来視】で殺した次の朝にアルフレッドは頭痛はあるが普通に食事をしていたのだから…… 人を殺すのに慣れているのだね?と理解をしていた。
「私は…… 止められなかったよ。いいかい?私にとってはねドゥームは寂しさを埋めてくれる友人だったのだよ。だから拒否して去られるのが怖かった」
「…… そうか」
「そう、そしてドゥームは国により殺された…… 彼は狂ってしまっていた…… 誰かから得た【未来視】の力に副作用があったのかもしれない…… 私に暴言を吐き去って行った後の事だったよ、それから彼は各地で空を飛び回り様々な魔法で人を殺し回っていた。」
アルフレッドはドゥームも【
「私は…… 私は…… 止めようとしたのだよ?しかし…… 私がドゥームの死刑と執行を知ったのは…… 遅かった…… 全てが…… 」
魔女マリスカは、ドゥームを殺した人種族の王都から逃げるように移住をした。
そして…… この冬には雪深くなる場所で静かに、1人で暮らしだした。
「私はね、いいかい?寂しくて仕方ないのだよ」
寂しくて寂しくて仕方ないのに、ドゥームを殺した人種族が許せずに籠るしか無かったのだよ…… と話す魔女マリスカの声は震えていたのだった。
アルフレッドはそんな彼女を静かに抱きしめて、ゆっくりと背中を摩り…… (ここまで悪い思い出なんてどう言葉をかければ良い思い出に塗り替えられるんだ?)と、難問に頭を悩まされていた。
*1
サパー
異世界では一日、朝昼夕と3食を食べる事が多い(魔物がいて食料として流通している為)。
地球の中世では2食が基本で、昼に重いものを食べると夕食は軽く食事をして済ました。
軽い夕食をサパーと言う。
現代でブレックファースト(ブレックファスト)を朝食と翻訳しているが、これは本来は夕食(ディナーは断食という言葉からきている)から朝に断食を破るという意味である。
*2
地球でのロッキングチェアが我々が知るインダストリアルデザインされたインテリアとしての形で多数登場するのは比較的に近代からである。
異世界のこの世界では自然との調和の中で生きるエルフが森の中の手頃な木に腰掛けていた所、座り心地が大変に良く、その木を伐採して持ち帰り家具にしたエルフの女性がいて、そこから時間をかけて世界に広がった。
この世界ではエルフの眠り椅子とも言われている。
*3
魔女マリスカは本を読みながら寝落ちをするのが好きである。
本の物語の中では魔女マリスカは自由で幸せなので、その余韻のまま眠りにつきたいのだ。
その為、本の栞(しおり)に睡眠薬草を挟んでいる。
彼女は物語の良い所までくると睡眠薬を少し吸い込み微睡(まどろみ)の中から深く眠るまでの間、幸せに浸るのだ…… 彼女は睡眠導入剤として栞を使用している。
魔女マリスカの読んでいる本の場面は…… もう何十年もの間、物語の主人公が家族と幸せに夕食を摂っているという部分で読むのが止まっている…… ずっと、その本の前半から読み終わる事がないままだ。
本の表紙は経年劣化の為に当て布を何枚も重ねて貼り付け、本のタイトルさえもう分からない。それ程に何度も手に取り愛おしく読み続けている。
*4
ドゥームは地球で言うならケルト人。
異民族(ケルトイ)の中でもアジア人のように彫りの薄い顔の血が入っていた。
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