第23話


 アルフレッド再度、古城に辿り着き今度はじっくりと観察をしてみる。


 「おい、アル…… 帰ろうぜ?」

 「キースちょっと待って」

 アルフレッドは、入ると死ぬならば入らずにどうにか出来ないかと思考を巡らす。


 アンデットであれば【聖女の魔法】で広範囲に回復魔法を使ってやれば、回復魔法とは神に模した人の姿に戻すという解釈があるのでアンデットモンスターは人に戻り普通の朽ちた死体となる。


 これならば城の中を浄化できるだろう。


 (でも、それをするとロンあたりが言いふらしそうだな)とアルフレッドは教会に伝わった時の事を想像して使用を断念する。


 【神罰の魔法】は大気中に魔力が満ちている状態ではないので、自力で戦闘に使えるぐらいにはアルフレッドの魔力は強くなったが、ダンジョンが生まれるのを止めた時のような高火力を放てる期待すら今は持てない。


 (というか、これもロンが言いふらしそうだな)とアルフレッドはチラッとロンを見るとリリィを口説こうと必死になっていた。

 「チッ…… いいきなもんだ」とアルフレッドは目線を古城に戻す。


 (【重力の魔法】は…… まだ実験中だしなぁ…… )アルフレッドはミーナと共に教会の宝物庫で得た【重力の魔法】を使いこなせずにいた。


 これは前代の聖職者の知識により得た情報だが、重力の魔法を使うと『暗黒の点』が表れ、次に大爆発が起こり人々どころか自然環境にも大被害が及んだらしい。


 この『暗黒の点』はブラックホールの事だ。


 前代の聖職者は【重力の魔法】を攻撃魔法として使おうとしたのだろう。

 しかし、この世界にも地球のように摩訶不思議ではあるが重力があるし、物理現象が存在する。


 ブラックホールの発生は恐ろしいもので小さな点であっても、それが刹那に消滅した時には原子力爆弾を遥かに超える大爆発が起こるのだ。1


 もちろん、質量が大きなブラックホールは少女が気にする小さな肌のシミ程度の大きさでも発生すると、辺りを吸い込み人が生きる事が出来ない。人間どころかそのサイズの大きさのブラックホールを魔法で召喚すると、この異世界の惑星が消え去る可能性もある。



 前代の聖職者は階位高い者だったので、魔法により防御となる結界を張り巡らせた状態での実験をした。


 しかも『点』と呼ぶ程の小さなブラックホールだったので命拾いしたが2、禁忌としてこれを封印したのだ。

 聖職者は大量虐殺をしたとして奴隷の首輪をつけられ反抗もできないようにして教会地下牢に幽閉。

 死後に魔法の宝石が摘出された。


 教会の外部機関は、ブラックホールで起こった件(くだん)の大災害が聖職者の責任とは知らないので悪辣な噂話も市民には流れていない。


 そのため、今も彼(・)は宝石の姿となり教会により聖人とされ人々に崇められている。


 (やっぱり…… 【聖者の魔法】しかないか…… )

 アルフレッドは今も怯えるキースに「自分が様子を見てくる」と告げると古城に歩みだした。


*****


 「リリィ…… 着いてこないでいいよ?」

 「…… あ、あ、あ、、アルフレッドさん、そんな事言わずに…… ね?♡」


 城の探索には、なぜかリリィが付いてきた。

 やはりアルフレッドの顔を直視出来ないのか、顔を真っ赤にし汗を流しながらも絆を深めようとアルフレッドの腕に絡みついて歩く。


 「ロンの方が、逃走する時に便利なん「そ!そそ、そんな事!言わずに…… ね!?♡」」

 覆い被せるようにグイグイ来るリリィに、アルフレッドは頷(うなず)くしかなかった。


 (1人の方が楽なんだけどもねぇ)とアルフレッドは考えながら【未来視】を発動させて、靴でズリズリとコンパスのように円を地面に描きながら歩いて行く。


 毎度、正円を描く必要はない継ぎ足して前方に範囲を広げながら【聖者の魔法】で光の円で結界を作りながら進んでいるのだ。


 「アルフレッドさん、何してるんですか?」


 アルフレッドはこの自分の奇行をどうして説明しようかと考え、めんどくさくなった。

 「ん〜ウチの村にあった御呪いおまじないかな?この円の中は安全みたいな…… ?」

 「なんで疑問なんです?…… でもアルフレッドさんでも、おまじない信じるんですね。かーわいい♡」


 可愛いという言葉で疑問が消し飛ぶのだから若いとは素晴らしいとアルフレッドはリリィの目を見て優しく微笑んだ。


 「ふわぁぁぁぁぁ!うわぁぁ!♡」

 「え?」

 「…… あ、アルフレッドさん、その笑顔、仕事中禁止で…… 」

 リリィは真っ赤になりアルフレッドから目を逸らす。

 リリィはアルフレッドの整った笑顔に参ってしまったのだ。


 アルフレッドは眉目秀麗(びもくしゅうれい)で、どの未来でもファンが付くほどだ。

 古い言葉で言うならなら肉体関係をも望む熱狂的ファンといった者がアルフレッドには付いて回った。


 アルフレッドは、もう慣れたと言った風にため息をついてリリィの頭をポンと優しく叩く。


 「…… あのさ、仕事中なんだよ?」

 「あ、すみません」

 さすがに拙(マズ)いと分かったのかスッとリリィはアルフレッドから離れて古城の入り口まで歩き着いた。


 城の中から光の円をスタートしても良かったが、城に入る前に何か・・されていたかもしれないと、ここまで【聖者の魔法】を使ってきたが…… リリィは微笑ましくアルフレッドを見ている。


 「えっと、リリィこの円の中から出ないでね?」

 「おまじない、ですもんね?」

 (うーん、なんか揶揄(からか)われているなぁ…… )と思いながらも【聖者の魔法】を説明も出来ないしと諦めて古城の中へと探索を再開した。

 

 (さて、皆が城に入って少ししたら死んだから…… もう少し歩いたら原因がわかるかな?)アルフレッドは古城のエントランスホールに入り改めて辺りの環境を見回す。


 (カビ臭い…… 一度目は目に留め無かった所々をよく見るとら所々に血の滲(にじ)み跡があるな…… )

 これは同業者冒険者の子供達の死の跡かもしれないとアルフレッドは眉間に皺を寄せる。


 一度目に気付かなかった事を反省。死に慣れすぎて弛んでいると自分の心に喝を入れて進む。

 「アルフレッドさん…… あれ」

 「うん、血の跡だね」

 「…… かなりべっとりついてますが…… あの、私達で対応できないんじゃ?一度出ませんか?」

 「よし、分かったリリィは外に出ておくといい。おまじないの上を歩いて外に出るんだよ?」


 「はい」と先程までの意気は消沈してリリィはトボトボと【聖者の魔法】の円を描いた足跡の中を歩いて戻る。

 リリィの心中といえば、落花流水(らっかりゅうすい)3の深い仲に陷れなかったという悲しみがあった。

 

 しかし、まぁ、ここまで来たのだからと帰りなさんなとするのは悪しき者の常套である。


 「ギャ─────!!」

 凡(およ)そ乙女に相応(ふさわ)しく無いリリィの叫び声に驚きアルフレッドが振り向くと、しっかりと【聖者の魔法】の中で腰を抜かすリリィと、それに取り憑こうとする人とは違う皮膚の色をした魔物の姿があった。


 (ちゃんと聖者の魔法は効いている!!?)

 アルフレッドは光の円の結界に阻まれてリリィへと兇刃(きょうじん)が届かず動きを止める魔物へ向け、慌てて魔法を唱えた。

 

 


*1

 ベッケンシュタイン・ホーキング放射(またはホーキング放射)という現象。

 スティーヴン・ホーキング(1942〜2018)が提唱したものでブラックホールは長く維持が出来ずに蒸発する。

 その蒸発する時に熱をもち大爆発を起こす(説明がしにくい)。

 WW2の原子力爆弾等はこれに比べると可愛いものだろう。



*2

 魔法で生成したなんちゃってブラックホールであるから助かっただけであり、科学が発展した後の地球でブラックホールの発生を意図(いと)して実現させたなら『点』サイズであっても地球は滅ぶ可能性がある。


 そしてブラックホールの生成実験をしようとした人達は実際に存在している。

 (テクニオン・イスラエル工科大学のジェフ・スタインハウアー准教授の擬似ブラックホール実験)


*3

 落花流水

 衰えてダメになる事と、仲の良い男女がイチャイチャして流されていくという例えの言葉でもある。

 綺麗な言葉ですね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る