第22話


 さてwell…さてwell…さてwell……… アルフレッドはキースと組んで冒険者として生活をしていた。

 

 ミーナはまだ教皇領から帰って来ておらずに3ヶ月の月日が経過している。



 地球での教皇選挙会議(コンクラーベ)は長くても三週間かからない。教皇が善終(ぜんしゅう:良い死に方)した後、20日の間に決議し終えなければならない。

 異世界での聖女に推戴(すいたい)するに教皇選挙会議(コンクラーベ)より時間はかからなかった。


 しかし長期間の移動と、毎夜のように教皇庁にて開催されている新たな聖女のお披露目パーティーでミーナは身動きが取れない状態にあり王都へと帰る事が、まだまだ叶わなかった。



 アルフレッドは帰らぬミーナを心配しながら「どうせ王都で待つのだから」と、時間を潰すように強さを求めて戦いの中にキースと共に身を置く事を決める。


 あくまでも、ミーナに会いたいのではなく聖女帰還のパレードを見て彼女が無事だったら王都を離れるつもりでいた。


 「よーし!今日も金を稼ぐぞ!」

 「「お─────────っ!!」」

 「…… 遊びじゃないんだからなオマエら」

 キースの掛け声に孤児上がりの2人が応えて、アルフレッドが首を横に振る。


 キースと共にいたストリートチルドレン一派が20名、全員が冒険者ギルドに登録して皆で固まり生活をしていた。


 その中で戦闘に魔法を使えるのはたったの2名であり、彼・彼女の2人はアルフレッドがキースに土魔法を教えた時に他の孤児より少しは筋が良かった者だ。

  

 後の孤児はキースを抜いて17名、彼らはキースとアルフレッドを補助するという名目で戦闘組から離れ、戦闘組の生活の扶助(たすけ)や、動ける者は冒険者ギルドで雑務である薬草の採取等を受け日銭を稼いで4人に恩を返すという関係にある。


 「アルフレッドの兄ぃ、今日もよろしく!」

 「あ…… アルフレッドさん、その、よろしく」

 「ったくリリィは何をモジモジしてんだよ!?」

 「っ、うっさいわね!ロン!あ、アルフレッドさん、これはその…… えへへ」


 アルフレッドに向かいモジモジする少女リリィは15歳、アルフレッドと同じ年齢で金髪に近い茶髪の少女。

 一重まぶたにコンプレックスがあり前髪を垂らし、一見大人しそうに見えるがキース一派の中でアルフレッド、キースの次に火魔法において瞬間火力DPSが高い武闘派である。




 ロンは調子物。

 ネズミか鷲(ワシ)のような顔をしているし、肌色素が特徴的であるが人種族である。

 あまり見かけない顔つきであるが民族浄化1により多くの若者まで散華(さんげ)2した種族の生き残りであるとは本人の談話。

 

 元々、小柄な民族であるので斥候に向いており使える魔法は水魔法。オッサン顔だが年齢は16歳である。




 リリィはどうもアルフレッドが好みのようで、テレテレと目が合うと面映(おもはゆ)い感じになり可愛らしい。

 そして、リリィが顔を赤らめながら会話をするとロンがバカにするという手順(ルーティン)である。


 一歩引けば理解できるが、ロンはリリィが好きなのだ。

 

 (めんどくさいなぁ…… )とアルフレッドは思いながら仕事の為に装備を整えた。



[補足]

 小集団の形成とは、現代日本の感覚で言うならサークル活動などが分かりやすい。

 馴れ合いのように見えるが、きちんと社会測定法(ソシオメトリー)などの学問が存在している。

 これは、役割分担の演技(ロールプレイング)により個人が能力を見つけるのに役立つ事もある。


 キース一派の小集団は、力ある者と養護される者の差があるが、この狂った異世界を精一杯に生きる彼等にとって少々の集団内の差別は寛容という言葉で流される。


 明日、飢えて死ぬより集団内での相互作用の一員として生きるのを選んだ彼等は強い結束3を持っている。


 「今日の当番のメシうめぇ…… 」

 「マジっすよねキースさん」


 キースの呟(つぶや)きにロンが頷(うなず)き言葉を返す。

 キース一派には少女もリリィとは別に3名いて、彼女らは炊事洗濯をこなしてくれている。


 中でも1人、抜群に料理が上手い娘がいてアルフレッドは彼女の作る食事を楽しみにする程となっていた。


 「確かにこれは美味しい」とアルフレッドは携帯食である堅パンのサンドイッチを食べながら、冒険者ギルドで受けた仕事の目的地である廃墟となった古城へと歩みを進めた。


 (生活や冒険に関しては仲間がいるのはやはり効率的で精神的にも肉体的にも強みになるな)とアルフレッドは考える。

 彼は何年も何回も【未来視】により冒険者として生きた記憶がある。


 何度かは裏切りに遭ってはいたが、やはり仲間は良いものだと心の中でフフと笑う。


 今は現実なので引き返す事も、やり直す事も出来ないが此(こ)の仲間に巡り会えて良かったとアルフレッドは信心深くは無いが、この時は教会の教えにある幸運を運んでくれる神とやらに脳内で伏し拝んだ。


*****


 アルフレッドとキースが冒険者ギルドから受けた仕事は王都より一日という近場にあるもと貴族家の別邸(マナーハウス)4である。


 どうやら悪さをして大金を得ていたという前情報は本当のようで、別邸でも敷地面積を含めてかなりの大きさの支城であった、下位貴族である元持ち主が建てるには相応しくないとアルフレッドでも分かる。


 さぞ、当時は綺麗だっただろうと思える城。

 しかし今は経年変化をして蔦(つた)が壁を這い、苔(こけ)がむした古城は気味の悪い魔宮のようである。

 

 「うわー…… 」

 リリィが思わず嘆息(たんそく)をもらす。

 「これ、ぜってーアンデットいるじゃん…… 」

 キースの呟(つぶや)きにロンが「ですね」と冷や汗をかきながら返した。



[補足]

 異世界での話だけではなく、地球においても中世初期の下位貴族の城はとてつもなく汚い。

 まともなトイレの清潔さなどは望むべく無く、城下の川や庭に糞尿やゴミが捨てられており現代の日本人からしたら不潔のそれである。

 城の床には藁(わら)といぐさが敷き詰められ、清掃を簡素にする代わりに藁の中には虫や蚤(のみ)やネズミや糞やらが……


 この藁敷にハーブなどを混ぜこぜにし匂いを誤魔化そうとしていた話もあるが…… そのような家主が居(お)らぬ維持管理が望むべくもない下位貴族城はどのように腐り落ち、穢(けが)れながら蝕(むしば)まれているか想像に容易い。

 

 魔法がある世界なので、その力で清掃や補修する手もあるがそれはとても金がかかる。下位貴族ではとても掃除するだけの魔法使いを雇う事はできなかった。



 異世界では、しかもそれに加えて魔物が存在している。


 悪しき場所、人が寄らぬ暗所、朽ちた建造物…… そして人の憎しみがある場所はアンデットが存在する可能性がとても高い。


 この支城の持ち主はしている事を隠蔽したかったようで、城に不要な人物を入れる事をしなかった。

 その為、清掃や補修は最低限だったようだ。


 外観は…… 昔は美しかっただろうが近寄るとその粗が見えてくる。

 庭先や建物から異臭が漂ってくるのだ。アルフレッドは咽せて顔を顰(しか)めながら仕事を始める。


 ちゃっかりと、アルフレッドの腕に絡みつくリリィはご愛嬌。


 「なぁ、アルここって悪さをして処刑された貴族の城なんだよな?」

 「ああ、そう聞いたな」

 ぶつぶつと言いながらアルフレッド達は城に入っていく。


 キースはどうも、幽霊(ゴースト)が苦手なようでいつもの覇気がない。

 リリィはいつでも魔法をぶっ放せるようにアルフレッドの隣で杖を構えて、ロンはチラチラと出口扉を確認して逃げる準備をしている。


 (これは仕事どころではないな)とアルフレッドは憂色(ゆうしょく)を隠せない。


 アルフレッドは金回りが良いし、ギルドからの推薦で受けた仕事だったのだが後悔をする。

 何度も人生を繰り返して、こういう調査依頼は意外にも儲かる可能性があるからと皆を説得したのだが間違えていたようだ。


 今回の仕事は、この古城の調査3だ。


 3と割り振りナンバリングされているのは、前回、前々回と依頼を受けた少年少女の冒険者が帰って来ていないので失敗をしている為である。 


 おそらくは死んだのだろう、前回までの子供の冒険者の生存情報がこの古城に入ってから存在していない。

 なぜ冒険者ギルドが身元も定かでは無い孤児上がりを何度も使うか?


 それは、死んでも数がいるので問題ないからだ。


 上手く新人の冒険者が成長すれば、それは儲けもの程度で見ているので今回のような難度も定かではない調査依頼を子供にしては実績があるアルフレッド達に出したのだ。


 「ヤツらが戻らなければ、孤児らぐらいでは対応できないという判断材料にもなるしな」とはアルフレッドとキースを送り出した冒険者ギルドの事務員の言葉だ。

 それほどにアルフレッド達の命は、まだまだ軽い。


 (これは良く無いな…… )


 廃村の建物や、壊滅した盗賊の根城の調査依頼の場合は報奨金に加えて調度品や金になる物を横領する事も出来る。


 今回は元は貴族家なのでウマい仕事と思ったのだが。

 壁に飛び散る糞尿の形跡……

 床に散らばる枯れ果てた藁……

 何年も、人が居らなくなって時間経過しているはずなのに漂う汚物の異臭……


 (やはり、良く無いな)そう考えアルフレッドが違約金が発生する仕事の依頼失敗でも良いので、皆に退避を伝えようとした所で4人は死んでしまった。


 まさに率爾(いきなり)の出来事だった。


 「─────────、、んんん!?どうなったんだ?」

 成長したアルフレッドは【未来視】を使用しても差して問題ないぐらいに魔力量が増えたので、冒険者としての仕事の中で魔法による戦闘があると予想される時でも【未来視】を発動していた。


 「死んだ…… のか?」

 アルフレッドが【未来視】を使用したのは調査依頼を受けた古城に向かう途中の堅パンのサンドイッチを食べる前。


 (もし何かあったら二度食べられて得だな)とサンドイッチを見つめて発動しておいた事が良かった。


 「アル?どうした?」

 「あ、ああ、キースなんでもない…… 」

 「そうか?顔色が悪いぞ?」


 これは、いけないな…… 迂闊(うかつ)に城に入れない。

 

 アルフレッドはここで退避を促すと【未来視】の事を仲間に匂わせる結果になると考え、一応は古城の外観を確認して退避しようと決めサンドイッチを頬張った。


 せっかくの美味しいサンドイッチも、緊張で砂を噛んでいるような気分であった。



*1

 民族浄化、エスニッククレンジングとも。

 例えば、極論・暴論の解釈で言えば、自国または人種にとって消えて欲しい人々を殺し尽くそうとする行為。


 ナチスのユダヤ人や障害者、セルビア人の大虐殺や、ルワンダのツチ族の虐殺などが挙げられる。

 現代でもミャンマーのロヒンギャ難民の例もあり、世界には脈々とそのような歴史が続いている。異世界でも人が怒りや嫉妬や信仰をもつなら起こり得る事である。


*2

 散華(仏教用語)

 戦って若く死ぬという意味もある。



*3

 集団凝集性

 キースとアルフレッドを筆頭に、リリィとロンという構成員、その下へと上下関係が確立されている。



*4

 マナーハウス

 下位貴族が過ごす別邸。地球上での歴史は古くからあります。



 色塗りは画材も時間もないのでpetalica-paintというサイトでAIに塗ってもらっています。

 ロンの顔色が悪いのはAIさんの判断です。

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