第19話


 アルフレッドは更なる軌道修正を脳内でしていた。


 アルフレッドが今回手に入れた魔法はやはり、程度のおかしなものばかりだった。


 教会が、聖者の魔法の宝石を代々と吸収して引き継がずに保管していたのは、もしもの時にソレを使い難所を切り抜ける為に用意されていたものだから、教会という巨大組織を救済できる程のものとなれば壊れた性能なのは当然なのかもしれない。


 なら、何故スタンピードの時には教会は蹂躙されたんだろうかと首を傾げるがアルフレッドにはその答えは分からない。


 大集団組織となった教会は、スタンピードの際に残念な事に人間の悪い部分が出てしまった。

 『もったいないので使わない派』

 『会議により誰に使うか決める派』

 『教皇領に聖女と共に聖人達の宝石魔法を避難させる派』に別れるという愚かな争いをしていたので、宝石を使用する前に壊滅してしまったのだ。



 「これいけるんじゃね?」

 アルフレッドは強大なる魔法を一遍に得た後遺症からか、色素が抜け白い髪、白い肌と変化した容貌で腕を組み考える。


 【重力の魔法】

 【神罰の魔法】

 この2つをアルフレッドは得ていた。

 文字の通り、重力魔法は世界にある重力を操る事が出来る魔法。


 しかし、重力といってもニュートンが発表しアインシュタインが論文で重力を証明したものではなく、ルネ・デカルト(1596〜1650)が唱えた渦動説に近い。


 特殊相対性理論に加筆し、変則的で観測が難しい計算式を加えなければならない『魔力』がこの異世界には確かに存在して大気や宇宙を満たしているのだから地球とは違うのだ。


 そして、もう一つの得た魔法は神の光により神罰のように光線を空から撃ち下ろす魔法。


 この【神罰の魔法】は空気中に漂う魔力を圧縮して打ち下ろすもので人が考え得る威力を大きく超えている魔法の一つである。

 

 室内で使う事も出来るだろうが、小さい空間にある気体の中の魔力で放つ光は精々せいぜいに人を失神させ火傷(やけど)を与える程度の物だろう。


 まあ、アルフレッドの場合は【聖者の魔法】により光の円を作れば、そこから魔力を引っ張ってこれるのでこの制限は解除されてしまうのだが。


 「これは、光の円をたくさん作って魔力量を上げてみないといけないな」


 アルフレッドはスタンピードに向けて、未来視の魔法の中のある一つの人生で王都を【聖者の魔法】の光の円で囲って防御できないかと試した事がある。


 しかし、まだ成人もしていないアルフレッドの魔力量は少なく、ダウゼンの町で少しずつに囲んだ魔力量を加えたとしてもスタンピードから守に足る範囲をカバー出来なかった。


 王都はそれ程に大きいのだ。


 その光の円の閉じれなかった隙間から魔物は王都ミッドランドに灌漑(かんがい)の水路の裂け目から流れこむ濁流のように入り込み結果やはり滅びた。


 【聖者の魔法】はつまりコストパフォーマンスが悪い大器晩成型の魔法なのだ。


 「少しでも魔力量を上げておいたら、神罰の魔法でなんとかなるかも…… キースも育っているし」

 アルフレッドは、【聖者の魔法】でカバー出来なかった部分をキースに任せたらどうかと考え、膝をパチンと叩き動き始めた。


 …… アルフレッドがなぜ、スタンピードで起こる事をこれ程に詳しく知るかというと、自分だけが【聖者の魔法】の光の円の中で守られて助かり、人々が死んでいくのを一部始終を見ていたからである。


*****


 「よう、キース」

 「あ?ああ、久しぶりだなアル!二週間ぶりぐらいか?顔色と髪の毛の色が違うから一瞬、分からなかったぜ!?」


 アルフレッドはミーナが聖女教育を受ける日を見計らいスラム街に足を伸ばしていた。


 衣服は汚れているが屈託なく年相応に笑うキースを見て、勉学で疲弊するミーナとどちらが幸せなのだろうか?と考え小さく頭を振る。

 (教会には飢餓や犯罪がないんだミーナはきっと幸せだ)と心の中で思い込み、キースと話をする。


 アルフレッドが顔を知るストリートチルドレンの数人は、与えた魔法により魔物を狩れる力を得ていた…… と言ってもアルフレッドが「使えるようになるかも?」と思える子供は少ない。


 スラムにはたくさんの子供が増えては減るを繰り返しているが、キースが目をかけるグループはアルフレッドのおかげで人数を減らす事なく、また、生活の質QOLが明らかに上がっていた。


 「…… キース、それ剣じゃん」

 「ん?ああ、研いでるんだけど難しいな」

 「…… 盗んだ?」

 「ば、バカ言うんじゃねえ!稼いで買ったんだよ!」

 「…… やるじゃん」

 「お、おう…… へへへへ」


 キースはドワーフとのハーフなので、鍛治の神の恩恵でも受けているのか、難しいと言いながらも器用に皆の分の剣やナイフを研いでいく。

 「なあ、キースはちゃんと土魔法の練習はしてるのか?」

 「もちろんだぜ!どうも具合がいいからよ、魔法の練習が楽しくて仕方ないんだ!」


 キースの弾む言葉に、周りの子供らも頷(うなず)き笑顔で話に加わる。


 「アニキは凄いぜ!魔法でさ、ドドーって岩山を作るんだぜ!」

 「うんうん、キース兄ちゃんは凄いよ」

 「俺なんてキースのアニキが魔物を岩で挟む魔法を見たぜ!ありゃあ凄かった!」


 キースは慕われているのだろう。遺伝子的にどう見ても血の繋がりのない髪色の子らに兄と呼ばれ恥ずかしそうに笑う。


 「どうやら『育っている』ようだね」

 「ああ、アルのおかげさ!いつか必ず恩返しするからよ!何かあったら言ってくれよ!?」

 「…… 言質(げんち)は取ったからね?」

 「げんち?なんだそれ?」

 「約束って事さ」アルフレッドは苦笑しながら、キースの肩を軽くグーで叩く。


 「なんだ!そんな事か!もちろんだ!」とキースは当然のように笑うのだった。

 アルフレッドは、どうせならキースに育って来ているだろう魔法の宝石を【未来視】の世界で取り出してみようかと考えて今日はここに訪れて来たのだが、キースの気風(きっぷ)の良さに毒気を抜かれて手をかけるのを辞めた。


 「キースとは友達でいたいからね」

 「何言ってんだアル?親友だろ!?」

 「…… ああ、そうでありたいよ」


 アルフレッドは、久しぶりに力を抜いて笑う事ができた。


 そして、幾らかの托鉢の金を寄付してもらうと、魔法の授業を久しぶりに行う為に王都の外へと出る。

 「ナゼだ?」と聞くとキースの魔法が強くなり過ぎて、王都内だと逮捕される可能性があると子供らは笑う。


 「じゃあ、自信あるみたいだし…… 見せてくれる?」


 王都から外れにアルフレッドと魔法を使えるスライムの孤児がキースの魔法を見るために並ぶ。


 「おうよ!アル!見て驚け!ふんぬぅー!」


 キースの土魔法は凄かった。

 彼が何度か手を上下にしたと思うと、魔力が土に伝わり微震だが地震が発生する。


 ゴゴゴゴ…… という地鳴りに着いてきたスラムの子らも驚いているのを見ると、このキースの全力だろう魔法を見るのは初めてのようだ。


 「ぬ…… ぬ…… ぬぬぬぅぅぅ…… !!」

 まるで神を崇めるかのようにキースが天に手を伸ばすと、地面が隆起して10メートル以上はある土山が目の前に現れた。


 さらにキースは魔力を込める。

 その顔は赤く、汗が滝の様に噴き出している。

 「キース!もういい!やめるんだ!」

 いくら天才でもキースは子供である。


 体力もまだまだ子供なので、魔力欠乏から死に至る可能性がある程の魔法を発動するのでアルフレッドは彼を止めようとするが、キースは苦しく歪んだ顔を無理矢理に笑顔にして振り向き、意思の強い眼でアルフレッドを止める。


 「ふんぬぅぅぅ!!!」

 キースの最後の掛け声で、土の山は凝固して岩山へと変質した。

 まるで剣のようにそそり立つ、その岩山の大きさと存在感にアルフレッドは言葉が出ない。


 「なぁ、アル、俺って凄いだろ?」

 「…… ああ、オマエ凄いよ」

 「へっ、ちょい寝るわ」

 「おつかさま」

 自分のように貰い物の力ではない天才の技を見てアルフレッドは、孤児らに介抱されるキースを見て嫉妬する。


 (しかし、彼は仲間だ)

 心強いと嫉妬心を払い除け、自分も友人の元に駆け寄ったのだった。

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