第15話


 「アル、今日もやってくれんのか?」

 「ああ、もちろんだ。ただ…… 」

 「分かってるさ幾分かの金…… だろ?」


 アルフレッドはストリートチルドレン達の中で魔力が微量にでもある子らに魔法を教えていた。

 彼等の中で、心根の良い者をキースが選んで…… という条件がつくが。


 一応、アルフレッドも托鉢(たくはつ)として街に出ているので少しでも儲けを出して教会に提出する必要があったので、金というワケだ。


 彼等の多くは生まれながらに家がないのではなく、親が死に残された資産がないので零落(れいらく)した子が多い。


 教会への寄進を親がしていたら、数名は教会付きの孤児院に行けた者もいる…… と言ってもその子らは農家の子で寄進する金など頑張っても無かったのだが。


 「今日も土魔法の基本の勉強をしようか」

 「よろしくだぜアル!」

 なぜアルフレッドが【土の魔法】が使えるかというと…… 教会の布教の際に【未来視】を使い日々、王都の生活を謳歌していた事に関係する。


 教会の孤児院から退院した子は、教会に行く者と平民として暮らす者に別れる。

 アルフレッドはダウゼンの町での【聖者の魔法】を獲得する際の司教や聖職者の態度、王都の聖女による死刑と良い記憶がないので教務に就かずに市民に紛れた未来を見ていた。

 

 そこで、ある時は冒険者に、ある時は商人にと職を転々として金が貯まると高価である魔法の本を購入してその習得に努めた。

 結婚を考えず、食費や将来への蓄えなど人としての生活を度外視したこの方法はアルフレッドにしかできない方法であろう。

 ちなみに、この未来の全てでミーナは教会付きとなっているので未婚のままである。


 王都の他、人の住まう都市や町などの場所では、なかなか買う事すら難しい魔法の本も、王都では金さえあれば手に入るのだから強さに憧れる彼が集めない訳にはいかなかった。


 そうして…… アルフレッドは火、水、土、風の魔法を修める事になる。

 といっても、同じ事を何度もして本を買い、読む事は精神的に辛かったので火魔法以外は熟練度はさほど高くはないのだが。


 魔法を修める毎にアルフレッドは強くなり、また、強くなるにつれて冒険者としての金策に優れと未来を楽観視していた。

 

 これから未来、五年後を知るまでは。


 アルフレッドは、知っている。

 2年後に王都近くに地下迷宮であるダンジョンが出来る事を。

 アルフレッドは、知っている。

 五年後にダンジョンから魔物が溢れて王都が壊滅となるのを。

 その時に、初めに軍隊を指揮していた絶対的な独裁者である国王が、状況の判断を怠り軽視していたために魔物の氾濫により死ぬ事を。


 そして、混乱する人々の生き残りを率(ひき)いて王都から脱した英雄が、目の前にいる孤児キースである事を。



[補足]

 独裁者の死とは、酷い混乱や戦争などの悲劇を生む事がある。

 1番の被害者は民衆なのだが、歴史の年表と共に簡単な言葉で片付けられてしまう。

 地球の歴史で辿るとらユーゴスラビア内戦のトリガーとなる独裁者チトーの死を見ても分かる様に、国家の緊張した場面で、1人の独裁者の束縛から至る解放は酷く悪い運命の道筋を照らす可能性がある。



 ミッドランド国王の死と魔物の群集事故スタンピードが合わさる事の悲惨さを知るアルフレッドの心は魔法を多数も得てもまだまだ暗い。


 何度とやり直しても失敗してしまい、5年後の魔物の群集事故スタンピードでこの国は終わってしまうのだから。


 ここで、逃げ出せたのなら楽だろう。

 しかし、アルフレッドは【未来視】で未来に自分の前に訪れる友人や、掛け替えの無い平和な日常と人々の生活を見知ってしまった。


 そして、教会にて過ごすミーナもいつの未来でも、人々への祈りという言葉遊びで魔物に侵入され破壊された教会の中で死んでしまうのだ。


 聖女や司教などの上位聖職者が逃げる為の時間稼ぎとして幼馴染であるミーナが散ってたのだが、それは悔し過ぎるとアルフレッドは思ってしまう。

 2人で、逃げようとした事もあるが、教会のネットワークは広く、どの町、村でも異端者として教会に捕まるのだからたまらない。



 王都の市民を巻き込み、パニックを起こして住民の避難をさせる事も考えたが無理だった。


 同じ平民である地球の聖女ジャンヌダルク*のように民衆を扇動出来るならいいが、孤児であり能力を隠しているアルフレッドの言葉など誰が聞くだろうか?

 答えは、ペテン師としてリンチにて撲殺された未来のアルフレッドが物語るだろう。


 そうして色々と未来を変えようと捏(こ)ねくり回している時に、孤児キースとアルフレッドは運命的に出会うのだ。


*****


 「やっぱりキースは筋がいいよ」

 「そ…… そうかな?へへへ」

 魔法の世界には、確かなる天才がいる。

 それはアルフレッドが知識をもって知っている。


 キースは、土魔法の天才だ。

 もしかしたら精霊に愛されているのかもしれない。

 地球で誕生していたら旧約聖書の士師であるサムソンやオニエル、エフドホデ達のように英雄として名を残しただろう。


 それ程にキースの土魔法の力は凄まじい。


 「…… ねぇ、アル…… 教会に言わないでいいの?」

 「ミーナ、お願いだからそれは止めてね?」

 「くすくす…… 手を繋いで帰ってくれるならお願い聞くよ?」

 「…… いいよ。」


 ミーナも、もちろん教会の布教の体裁で同行しているのでキースの能力を目の当たりにしている。

 楽天家のミーナでさえ顔が引き攣るようなキースの魔法はアルフレッドのおかげで教会に伝わる事はなかった。


 普通、魔法は教育で得ようとするなら年単位の修練が必要となるがキースは、土魔法をすぐに使えるようになった。

 

 本人が言うには、死んだ両親のうちの父の種族が半精霊ドワーフであったらしく「とーちゃんの血をひいたので土魔法が上手いのかな?」と同意と回答に困る疑問をアルフレッドに投げかけていた。

  

 ドワーフと人間のハーフであるキースによりスラム街の、隠れて魔法練習をしていた場所の路面は土魔法により凹みや泥濘(ぬかる)みが無くなり、コンクリートで平面にしたようになっていた。


 (これなら、もっと未来が変わるかもしれない。)

 アルフレッドは短時間でここまでの結果を出すキースに畏(おそ)れと共に希望を抱いた。




ドワーフ(Dwarfs)

 ノームと似た一族または精霊である。

 ノームは人から見たらの大きさは小さいが普通の人のようであるが、ドワーフは頭でかく髭をはやし顔はシワが多い。


 地球の物語で語られるアイテム、オーディンの指輪や、武器である聖剣エクスカリバーも彼等の作品である。

 金属(貴石や魔法の金属も含む)の中の神秘なる力を大地の魔法で引き出す事に優れている。




*1920年にジャンヌダルクは当時の教皇により、カトリック教会により聖人として列聖した。

 教皇勅書bullaによりジャンヌダルクは列聖されたのだが、イングランドがアイルランドへと戦争をする事に触れたのも、エルサレム遠征へと動かしたのも教皇勅書bullaだった。(勅書=偉い人からの命令書)《エルサレム遠征に関しては歴史家の意見が分かれている》。

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