第14話



 王都には【未来視】でアルフレッドは何度か、行こうとした事がある。

 だが、馬車は値段が高く、田舎から王都への護衛依頼など熟練者にしか回らないので王都へと伸ばす足がなかった。長い旅路に対してアルフレッドは荏苒(じんぜん)として今日に至ったのだった。



 さて、王都の広さはダウゼンの町の数倍の広さで、人口はスラム街にいる租税不確かなホームレス等を合わせると35万人を超える。

 これは江戸時代の中期にあった宗門人別改帳に記された江戸の人口と同程度である。現代であるなら日本では埼玉県の川越市、世界の国で言うならアイスランドと同じぐらいの人口数である。


 それが一つの都市に集まり形成されているのがミッドランドの王都である。


 「うわー人が!人が多い!」

 「はい、これが王都ですよミーナさん」

 「…… 」

 アルフレッドは声を出さずに感動をしていた。

 旅に出たいと思い過ごした日々は長く。

 近場であれば町、村、小さな都市は訪れた事があるが王都は段違いに見るべきものがあった。


 建物は二階以上の物が多く、煉瓦(レンガ)だけではなく、田舎ではあれば生活の薪に使う木もデザインとして使用している。

 汚水の処理を魔法で行っているのか、衛生的な路地には砂埃はあるが糞尿は目立って存在していない。


 建造物が色とりどりに着色され、露店には生活に必要としない芸術の品が並ぶ。人々の被服も様々で表情も明るく、種族もエルフやドワーフなどなどと様々


 そして、遠景に見える絢爛たる王城…… 百花斉放(ひゃっかせいほう)の感が王都のそこらに溢れていた。


 (ここなら、【未来視】を使っても飽きないかもしれない)とアルフレッドは抑えられない笑顔で道を歩いた。

 

[補足]

 王都ミッドランドの総面積はかなり広いが、平民が住む居住区はその全ての面積の35%程しかない。

 江戸と先程に比較をしたが、江戸で総面積における武家屋敷の面積は63%以上あった。(自社仏閣を省く)

 それを考えると、この王都ミッドランドは比較的に平民に開かれた都市だと言えるだろう。


 

 アルフレッドはあまりに美しい白亜の殿堂の前であんぐりと口を開いて固まっていた。

 「さぁアルフレッド君、ミーナさんここが教会王都支部・・ですよ。裏に孤児院があるのでまずは教会で祈りと挨拶をしましょう」

 「あ…… あう、あの、私が入って良いんでしょうか?」

 ミーナが珍しく、小さくなりながら敬語を使う程に教会の建物は神々しかった。

 サッサとミーナは靴裏の砂を手で払うが、さてこれでも入っていいのだろうか?と不安になる程である。


 「ふふふ…… 2人とも驚いていますね」

 「はい、さすがにこれは…… 」

 「アルフレッド君、王都は教会の支部なんですよ?教皇領にある本殿はそれは凄いものです。将来、拝観(はいかん)する事をお勧めしますよ、ええ」

 「これで…… 支部…… 」


 地球で言う、教皇領とは今のバチカンの事である。

 

 ニマニマと笑う聖職者に促されアルフレッドとミーナは、まるでギリシャ様式の神殿、のような、教会へと足を踏み入れた。

 

*****


 教会内は外観とは違い、木材を使用した落ち着いたものだった。聞けば愛しき方・・・・と司祭、助祭までが生活をするので、即した物を用意しているという。


 「愛しき方とは、誰ですか?」

 「アルフレッド君、愛しき方へは敬称を使うのです。どなたですか?と問いましょう」

 「はい、すみません」

 今までの、聖職者の笑顔なのに、その目は狂気のような物が宿っていたのでアルフレッドは愛しき方の事を聞くのを止めた。


 考えを一旦、白紙にして(冷たい石造りの中での生活は嫌だろうな)とアルフレッドは聖職者の話に合点と頷(うなず)き、ミーナは顔色悪くすれ違う聖職者の全てに頭を深く90度に下げて歩いていた。


 「ア…… アルぅぅ…… 」

 「…… プッ…… ミーナ…… 大丈夫?」

 「笑わないでぇ…… なんでアルはそんなに落ち着いていられるの?」

 (それは教会に入る前に【未来視】を使ったから悪い事が起こっても対処出来るからさ)とアルフレッドは涙目で縋(すが)り付くミーナに苦笑しながら声に出さずに答えた。


 「では、私はここで」

 「はい、引き継ぎました」

 聖堂に到着すると、アルフレッドとミーナを今まで引率してくれていた聖職者は2人と別れる事になる。


 長い旅路の仲なのでミーナは涙を流し寂しがるが、聖職者の彼は教会の御用聞きであり、聖職でありながら運搬業をこなし金銭の調達に回る商人のような存在である。


 別れは辛いが、聖職者の仕事がある彼はいつまで子供に構う事は出来ないのだ。

 「あなた方お2人に祝福がある事を祈ります」

 「いままでぇ…… あ…… ありがどぅござぃまじだぁぁー…… 」ぐずぐずに泣くミーナと目礼にて返すアルフレッドにクスリと笑うと聖職者は2人の前から呆気なく去った。



 ミーナが泣き止むのを待ち、引き継ぎを受けた読師(どくし)という祈祷書を音読する聖職位階の者がアルフレッドとミーナに向き合う。


 (少女が泣き止むまで待ってくれるとは、心が広いのか何なのか?)とアルフレッドは胡散臭い読師(どくし)をジッと観察するが、恙無(つつがな)く流れ作業のように聖教の聖本(バイブル)を朗読され、孤児院へと案内された。


 アルフレッドは自分が間違いを犯していた事に全く気付いていなかった。


 孤児院へと案内される道筋で後ろから取り押さえられ、異端審問官の前へと首輪をはめられ引き摺(ず)られる。


 ミーナは泣き叫びながら、孤児院の中へ。


 教皇領には教皇が

 王都の教会には聖女愛しき方が常駐している。


 魔法封じの首輪…… 教会では奴隷の首輪という言葉は相応しくないという言い回しだが。

 それをかけられ、アルフレッドは見目美しい聖女が裁判官とする宗教裁判の被告人用の円座に座らされる。


 ここで【未来視】を切るべきかと、躊躇いながら自分のどこに非があるかを確認する。

 (まだ、魔力量はある)と目の端にてカウントダウンする魔力量を見て、帰趨(きすう)する所を伺おうと決め聖女や、ぐるりと囲む聖人達を見回す。


 「やはり…… 」

 「ええ、文献の通りですね」

 ざわざわと司祭や助祭、下位の聖職者の位階である門守まで詰めかけて噂話のように話をする。


 「アルフレッド、あなたは【未来視】を所持していませんか?」

 「…… !!!!!」

 聖女が初めて言葉を発した。

 その言葉はアルフレッドを酷く動揺させる。

 

 「なぜ…… ?そんなの知りません」

 「…… 文献に残っているのです。」 

 「え…… ?」

 「未来視を持つ魔法使いドゥームは、事あるごとに目を斜め下に動かし、物事の判断が必須となる時は特にそれが顕著になると」


 ドゥームがアルフレッドの前の【未来視】の所持者の名前だとアルフレッドは初めて知ったが、それより自分の癖がいつの間にかついていたのかと驚愕する。


 「口を封じなさい」

 聖女がそう言うと門守がアルフレッドの口に皮ごとの胡桃(くるみ)を詰めて、さらに布で口ごと頭を縛る。

 「未来視の魔法使いドゥームは、酒席で饒舌に語った事があります『未来視を止めるには言葉で「解除」と言わねばならんのだ』と」

 だから口封じなのかとアルフレッドは焦る。


 そこから、聖女はマザーが認(したた)めたダウゼンの町での生活記録と、王都までの道筋で聖職者が記録した内容を読み上げる。


 なるほど、たしかに子供ではありえない知識量だとアルフレッドは冷や汗をかく。

 「さて、未来視は未来を見て動く事と聞き及んでいます。この状態のアナタには逃げる事はもうできません」


 聖女はそう言うと、宗教裁判室を後にした。


 判決を読み上げるのは愛しき方ではダメという判断だろう。穢れなき聖女が死刑を判ずるには相応しくないからだ。


 アルフレッドはギロチンにて死刑の判断がされた。

 体内にある【未来視】の宝石は教会の宝として厳重に保管されるとまで、この場で決定する。


 そこまで観てアルフレッドは安心すると、【未来視】の魔法使いドゥームに感謝をする。


 未来視の魔法使いドゥームは、ワザと嘘(・)の弱点を流布したのだろう。

 未来視は死んでも戻る事が出来るの魔法であるし、解除には言葉は必要ないのだから。



 「──────。」

 「さぁアルフレッド君、ミーナさんここが教会王都支部・・ですよ。裏に孤児院があるのでまずは教会で祈りと挨拶をしましょう」

 アルフレッドは【未来視】を解除して、教会に入る前に時間を戻した。


 ここからは目線に気をつけなければと、ミーナのマネをして初々しく行動をする。

 いや、むしろ大袈裟な程に驚き畏怖してみせた。


 聖職者と読師の引き継ぎが再びあり、アルフレッドは1度目は気付かなかったが読師は確かにアルフレッドの目線を追っていた。

 ここで【未来視】の所持者であるか最終確認をしていたのだろう。


 アルフレッドは、おのぼりさんを装い、聖堂を呆気に見回してはしゃぎ、ついには読師に小言を言われるまでに達成した。


 「アルって可愛いトコあるのね♡」

 ミーナの微笑に、アルフレッドは顔を赤くした所で読師は2人を孤児院へと送った。


 どうやら、アルフレッドのダウゼンから続く記録は大袈裟だと判断したのだろう。アルフレッドは読師に気づかれないように小さくため息を吐いた。



[補足]

 教会は死刑の求刑に迷いはない。

 地球の歴史上で大量殺人をした人物にトマス・デ・トルケマダという異端審問所長官の職についたキリスト教の聖職者がいる。

 15世紀のスペインで彼は8000人とも言われる人々を火焙りで殺害している。


ただ、宗教が違うという理由だけで。


 アルフレッドのような孤児を、もし未来視を持っていなかったとしても冤罪にて殺す事など教会には容易いのだ。



 「ミーナ起きて」

 「うーん…… アルおはよう…… 」

 孤児院で生活を始めたアルフレッドとミーナは、仕事として教会の清掃や、街中で十字(クロス)を持ち聖書を朗読して布教して歩く等の教会の仕事を命じられた。


 王都の孤児院の児童数は多く、100人を超える。


 これだけの人口密度であり、医療が発達せず、外敵として魔物がいる世界なので100人でも少ないだろう。教会の孤児院に入れぬ子はストリートチルドレンとして物を漁り、食べ物を乞い、安い労働をして生きている。


 なぜストリートチルドレンの彼等は教会の孤児院に入れないのかは明白で、知識が足りない事や、魔法を使う事が出来ないまたは…… 金が無いからだ。


 アルフレッドは言わずもがな、ミーナもアルフレッドの教えにより教会の孤児院で暮らす事の基準に達していた。


 知識があると言う事は、疑念や嫉妬の深度が深くなる。

 孤児院の子供達は、いずれ教会にて職を得ようと蹴落とし合いをしている。


 アルフレッドは聖職者になるつもりは無いので飄々ひょうひょうとしており、ミーナは必ずアルフレッドと幸せになると信じて疑わないのでその行動に合わせ笑顔である。


 結果、2人は孤児らから浮いた存在になり、常に行動を共にする事になる。ミーナにとっては幸運だろう常に楽しく生活をしているのだから。

 


 「よう、アル」

 「おうよ、キース」

 アルフレッドは教会の孤児達から、スラムへの布教をお願い・・・された。

 街中での布教と違いスラムでの布教は人脈形成に役立たないと思ってアルフレッドに押し付けたのだ。

 目の前にいる黒髪の少年キースは、スラムにて生活するストリートチルドレンだ。


 アルフレッドはスラム街の布教の中で彼等ストリートチルドレンと無理矢理に友人の関係になっていた。

 なぜなら【未来視】で、5年後に重要な存在になると知っているからだ。


 特にこのキースはアルフレッドの人生を左右する存在になるのだ。

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