第7話
アルフレッドは夜の冒険者ギルドに着くと、ぐるりと周りを見回しある人物の所で目を止めると呟(つぶや)いた。
「よし、今夜はいてくれた…… ラッキー…… 」
またギルドにいる人々も夜に子供が訪ねて来たので目をチラリと流した。
「お、アル!?なんでこんな時間にギルドにいるんだ?」
「…… やあ、ナシム兄ちゃん」
アルフレッドは孤児院を出て冒険者になったナシムを訪ねていた。
彼、ナシムはアルフレッドより五つ上の年で成人したばかりだが、その才能は高く孤児院の子供には人当たりの良い快活に笑う黒人の少年だった。
「夜に孤児院から抜けたら怒られるぞ?…… 何か用事か?」
「…… あのね、ナシム兄ちゃんを何時間か雇いたいんだ」
アルフレッドは商人ギルドから下ろしてポケットに隠し入れていた銀貨でナシムを雇うと。
ギルドの訓練所で打ち合いの稽古を始めるのだった。
[補足]
冒険者ギルドとは
商人ギルドとは微妙な関係ではあるが仲間意識は無い団体。荒事をこなし魔物の素材を売るというこじ付けでツンフトの仲間として存在する事を許されている。
「おいおい!アル、筋がいいなぁおい!」
「…… ありがとう!」
アルフレッドは暮夜(ぼや)の頃にこうして戦う為の稽古をしていた。
対するアルフレッドが兄と慕うナシムはまだ若い。しかし能力があるので
同世代より羽振り良く、散財。
いつも金銭的にカツカツでギルドに屯(たむろ)している時には報酬を提示すると必ずアルフレッドの稽古を引き受けてくれていた。
だが、これはあくまで【未来視】の中の話なので、実際のナシムには一切の金銭的な取得に繋がっていないのが悲しい所ではあるが。
「よっとほっと!」
「やるな!」
アルフレッドがナシムに目を付けたのは、噂である。
「アル、おまえその辺の大人より全然に強いぜ?」
「…… まだまだ!」
ナシムは感情的な所があり、喧嘩もよくしてしまう。ナシムは冒険者の大人にも剣や棒やで何度か勝利しているという事を聞いてアルフレッドは稽古を受けていた。
「おいおい、アルもうやめとけって…… 」
木剣の当たり所が悪く顔面に水平に入ったのでアルフレッドの前歯がボロリと割れて落ちる。
だがアルフレッドは立ち上がり、肩で息をしながらナシムに挑み続ける。
「現実で殺されたら終わりなんだ強くならなきゃ死んじゃうんだ…… 」歯が抜け、呂律はおかしいがアルフレッドはハッキリと言葉にする。
「何を言ってるんだよ…… アル?おまえ狂ってるぜ?」
「ダメなんだよ!せやっ!」
ナシムはアルフレッドが振り下ろした木剣を避けると、掌底でアルフレッドの体、レバーの部分を打つ。
アルフレッドは突き抜けるような痛みに痙攣しながら膝を折った。
「なぁ、アルなんでそんな無茶をするんだよ!?」
「…… 強くなりたいから…… 死にたく無いからとにかく強くなりたいんだ」
アルフレッドはギッとナシムを睨みながら立ち上がれない不甲斐なさを感じながらも強く木剣を握りしめた。
(この思いは誰にも理解されないかもしれない…… 強くならないといけない。死にたくない。未来視でも怖いんだ実際に死ぬとどうなるんだ。誰にも負けない強さ…… 自分を守れる何かが欲しい)アルフレッドは心の中で何度もそう思った。
様々に殺され続けたアルフレッドは生きる為に強くなろうと精一杯だった。
*******
「おはようございます
「はい、おはようアルフレッド」
かわたれ時に孤児院の窯に火が付く。
朝早く、夜は燃料の節約の為に早く寝るのがこの孤児院のサイクルである。
夜、未来視が解けて早々に就寝したアルフレッドは今日はどうしたらいいか年長の孤児とミーティングをしながら朝の空気を肺いっぱいに吸い込む。
朝は孤児院の運営を教会より委任された老齢の修道女、マザーがお祈りをしている間に孤児院で働く女達が水を沸かす。
孤児達は年幼い子は惰眠に耽り、それ以外は水汲みや調理。力ある子は割り振られた仕事をしに外に出たりをする。
こんな平和な一日の始まりがアルフレッドは好きであった。
朝から昼から【未来視】を使わないのは理由があった。
【未来視】を早々に使ってしまうと、いざという時の分岐点で答えが欲しいのに未来が見れずに詰んでしまう事があるからだ。
「アルフレッドは、今日は外で仕事をして夜まで帰らない事。いいわね?」
「…… はい」
聖職者であるマザーの冷たい声音にアルフレッドは、その言葉の意味を理解して低い声で返事をする。
不浄な血を流した魔物であるホーンラビットを教会の査察がある日に孤児院に持ち込んでしまった事がアルフレッドにはあった。
その日は運悪く、朝から調子に乗って【未来視】を使った為、2度目の起動をするのに魔力が足りなくて【未来視】を使う事が出来なかった。
また教会の査察団の威圧をもった睨みにより、焦り恐れから失敗を挽回する為の行動や言動を間違えてしまい心象が悪くなってしまった過去がある。
取り戻せない失敗した現実の時間をアルフレッドは消費してしまったのだ。
だからアルフレッドはその日の終わり…… 寝れば魔力を回復できる夜にしか
「今日は教会の方達が来られるんですね?」
「そうよアルフレッド、孤児院の資金繰りにも関わるの。あなたがいたら…… 」
「いえ、すみません。分かりましたマザー…… 」
(今なら【未来視】を2回使えるから、あんな間違いはしないのに)とアルフレッドは悔しくて心で愚痴を零(こぼ)した。
[補足]
教会の孤児院訪問と査察は善行の宣伝(プロパガンダ)を含む。
祭服は白く、穢れの無いものが聖職者に好まれる。
そこに魔(・)の物である血が付着するのはプライドが許さず、この地域を宣伝担当する聖職者にアルフレッドが嫌われる原因となった。
「ねえねえ、アル今日は何するの?」
「ん?ん〜…… 何の仕事をしようか?」
「サボってデートしない?」
「え?ダメだよマザーに怒られるよ」
アルフレッドはとりあえずフラフラしていても仕方ないので1日仕事を見つける為にスラム街から町の中心部へと向かっていた。
孤児院にお金が無いわけではない。
教会と領主から払い下げられる孤児院の資金は提出する書類の諸々の支出に紛らわせマザーが遊休資本(ゆうきゅうしほん)としてプールしている。
所謂(いわゆる)、もしもの時の資金というものだ。
スライムに面している為に清貧である…… と思わせている側面もある。
子供達はそれを知らないので生きる為に働くし、
つまり子供でも金が無い生活であるならば働けるならば働くのが当然とされている……
「えー?アルとデートしたいなぁ ♡」
「はいはい、仕事、仕事」
「ちぇーっ」
「…… べつについてこなくていいよ?ミーナ?」
「いやよ!一緒に行くわ!」
アルフレッドに付き添うのは孤児院の仲間である。
このしの少女はアルフレッドと同年…… とミーナは語っているが孤児院と実は本人自身も、生まれが分からないので定かではない。
地球でいうトルコ、アナトリア人種の特徴をもつ顔で、髪は黒で整って将来美しくなるだろうキリリとした顔をしている。
彼女はアルフレッドの日々に強くなる戦力を町の外回りでの魔物の肉集めで知り、また、孤児院での言動や心根を知りアルフレッドに将来的に扶養されるかもという打算もあるが恋心としての想いも寄せていた。
「とりあえず…… 仕事はないみたいだし…… 外回りしようか?」
「うん、2人だけど大丈夫かな?」
「…… ミーナがいるし無茶はしないよ?」
冒険者ギルドの前には、ギルドを通さない日雇いの仕事情報が広告屋(サンドイッチマン)により知らされている。
安価な労働力を手に入れるのに加えて、冒険者ギルドの仲介料を払うという事をすると被雇用者・雇用主ともに儲けが出ないような雑務仕事などがあるからだ。
今日は子供が働けるような雇用情報が無かったのでアルフレッドはミーナと手を繋ぎ町の外へと歩き出した。
…… ここからまた、アルフレッドの人生は変わっていく。
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