第6話


 アルフレッドが孤児院で生活をして半年が経過した。


 今、住んでいるのはダウゼンという町で、経済的に下層の住人が住む場所に孤児院はある。

 酒焼けの男の叫び声や、何かが壊れたのに大笑いする不気味で精神の消耗を強いられるのが日常の悪環境。


 そんな場所で孤児院長と実質的な経営権を持つ聖職者であるマザー、それにスラムで安価に日銭で雇われた女達と、25名の子供が暮らしている。


 資金は領主と教会が出資しているが、やはり貧困のそれで、在りあわせの廃材で補強した隙間風のあるバラックでの生活は厳しい。


 冬場では、間違えて孤児院家屋にある隙間の前で寝てしまった子供が凍傷になり指を落とすという痛ましい事故もあるぐらいだ。


 「アル!狩りに行こう!」

 「ああ」

 「アル今日は肉を持って帰ろう」


 アルフレッドは孤児院で幼いながらに魔物や動物を狩りながら皆に貢献して暮らしていた。


 この世界には魔石という体内機関を持つ魔物という人間を襲う生物が存在する。


 町の外で人を襲う魔物は同時に人に恵みを与えてくれている。

 アルフレッドと4人の子供は町の門から外に出て、林に面した町の防御壁を手でザーッと音を立てて摺(す)りながら歩き続けると人への攻撃性の高い魔物が現れる時がある。


 大きさ小型なら石を投げて、近づいて来るなら皆で木の棒で殴りかかり殺して肉を得る。


 大きさ中型から大型の魔物なら攻撃など考えずに、そのままに逃げる事を選択しているが、町に近いので巡回する兵士が大きな敵影があると対処に回るのでアルフレッドは孤児院に来て魔物から逃げた事は2度しかない。


 「お腹へったねぇ」

 「ねぇ」

 「アル頑張って」

 「お肉欲しい」


 次々とアルフレッドに声が飛ぶのを苦笑で答える。


 孤児院のお肉狩り部隊は5人1組で2編成。

 残りの孤児は町中でドブさらい等の仕事をして糊口(ここう)をしのぐ為の僅かなお金を稼いでいる。


 「…… !来たよアルっ!」

 「ホーンラビットだ!」

 「やった!お肉だ!」


 子供達はわーっ!と声を出しながら手に持ち歩いていた石をホーンラビットという魔物に投げる。

 「ギギギ…… !!」

 頭に石を受けた魔物は怒りながら頭に生えた角(つの)をこちらに突進してくる。


 大きさ25キログラムほどの魔物は素早く、その角に刺さると子供などの皮膚や筋肉は容易に貫(つらぬ)かれてしまうだろう。


 「よっと!」

 飛び込んでくる魔物の斜め前にアルフレッドが躍り出て手に持っている木の棒で斬るように殴り落とした。


 その速度は早く、子供の目には追って見えない程だった。

 魔物の首延髄に振り落とした木の棒は、骨を折る音を鳴らし体はゴロゴロと地面を転がり

 「ギギギ…… ギギギ」

 と小さな呻き声の後に痙攣して命を奪う事に成功した。


 「凄い!やっぱりアルはすごいよ!」

 「うんうん、肉を回収しよう」

 「アルありがとう!」


 アルフレッドのこの力はもちろん【未来視】によって得たもので、それはそれは困難な日々を持って獲得していた。

 

[補足]

 孤児院の運営に関しては領主3:教会7の資金で運営されている。予算配分は宗教会議で制定されたものでこの国の孤児院では規約に従い遂行されている。

 宗教会議とはクレルモン宗教会議の異世界版である。魔(・)物が居る世界なので神への信仰は強く民衆も決定された聖職者の言葉のそれに強く従う傾向にある。


 

 「ふーっ、疲れた」

 アルフレッドは1日の終わりの神へのお祈りの後にベッドに入り溜息をつく。

 同衾者ではなく、狭い施設と限られた物品の為にアルフレッドのベッドにはもう一名、一緒に寝ている子供がいる。


 「疲れたねぇアル」

 「うん、そうだね。」

 女児はアルフレッドの手をニギニギとして熱い目をおくる。

 アルフレッドは顔良く、また強くそして優しい。

 孤児院を出る時にこれ程に優良な人物はおらず、女児達はローテーションを組んでアルフレッドと寝る事を楽しみまた、狙っている。

 

 「ははは…… 」

 とアルフレッドは苦笑してベッドに横になり布団に包まると【未来視】を発動した。


 暫くして寝息が聞こえるとアルフレッドは布団から抜け出し、そのまま部屋の窓から外に抜け出す。


 スラム近くに孤児院はあるので、夜の通りは酒に酔い倒れる男や喧嘩する声が何処(どこ)かから聞こえている危ない道を歩き出す。


 「今日こそ決着をつけよう」

 

 アルフレッドは孤児院の子供を虐める男の家につくと拳でドアノックをする。


 「ああ、誰だ?」

 「…… やあ、夜にすみません」

 「てめぇは…… 孤児院のガキか、夜に何のようだ?」

 「それ…… は!」


 アルフレッドは言葉の最後に力を込めて、持って来ていた棒を男の腹に突き立てた。


 「ぐっ…… 何しやがる!」

 「アンタの退治だよ」

 「〜〜〜!何ほざいてる!テメェ!」


 男の拳をアルフレッドは避けてまた木の棒を振るう。

 「っっ!よし、よ〜し!殺したる」

 「…… っ。」


 アルフレッドは【未来視】でこの男に孤児院を放火された事がある。すぐに現実に戻り放火を未然に防ぐ為に水をばら撒いて孤児院の仕事の一つである手芸の残り藁屑に火が着かないようにして難を逃れた。


 何度かの男の殺意ある行動に、アルフレッドは恐れ、心を決めてこうして倒す為の訓練を始めたのだ。


 「俺は元冒険者だ!ガキなんか すぐに殺したる!」

 男はそう叫ぶと、腰からナイフを引き抜き斬りかかってきた。


 その攻撃を、アルフレッドは木の棒を刃の腹に当て受け止めるとそのまま弾き返した。

 だが、男はすぐさま体勢を整えて次の攻撃へと移る。

 (…………強いな)

 先ほどまでとは違う男の真剣さを感じながら、アルフレッドは再び攻撃に集するが……


 「────へへへっ、惜しかったな」

 「ぐっ…… 」

 何合かの打ち合いの後にアルフレッドは男に腹を刺されて殺されてしまった。

 

 

 「────────────────────はぁ、はぁ、はぁ、」

 【未来視】が解けたアルフレッドは孤児院のベッドで息を荒くする。

 「もうちょいなんだ…… せめて剣でもあれば…… 」そう心で呟き、また【未来視】を発動した。


 アルフレッドは孤児院で暮らす中でも【未来視】を使い続けてその魔力量は村にいた時より倍以上になっていた。

 一度途切れた【未来視】を再度使えるぐらいに……


 「もっと…… 強くならないといけない…… 」

 アルフレッドは再び夜の町へを拾うた。

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