第5話
【未来視】での受け答えがダメだと、それを踏まえたアルフレッドは、騎士への応答に隠れて見ていた、実は村人には虐められていたと言葉を紡ぎ難を乗り越えていた。
「このまま、村で過ごすか?」
「…… いえ、悪い記憶しかないので他の場所に移りたいです」
そう伝えると騎士はフイと村人のまだ折り重なり埋まる墓を見て頷(うなず)いた。
どうやら父母もそこに入ったと勘違いしてくれたようだ。
家の売買に関しての事、遺品である金品の持ち出しにサインをすると「気を確かにな」と労われた。
騎士は「兵の支持をするので残る」と領主からの書類を眺めながら答え、追加の調査に加わる兵士が到着するのを待ち、村に初めに来ていた兵士2人と共に馬でアルフレッドは村を出た。
馬の背に乗り、馬を操る兵士にギュッと抱きつきながらふと遠ざかる村へ振り返り目礼をした。
[補足]
寒村ではあるが住居もあり、手の入った畑もあるので開拓者を募集すればこの村はすぐに埋まるだろう。
多くの人が死んだ忌み地であったとしても働けて建設が済んだ家があるだけ幸せなのだから。
アルフレッドの寒村からの馬の旅は3日で終わった。
途中、野宿もあったが兵士2人が代わる代わると見張りをしてくれていたので大した疲れは無かった。
「凄い人の数ですね…… 」
「そういえばアルは村から出た事が無かったと言っていたな」
「はい、まだ成人していないので村外に出る事は禁止されていましたから」
3日間、一緒にいたので兵士とも緊張せずに会話ができるようになっていた。
むしろ、哀れみから優しくも対応されていたとアルフレッドは感じていた。
「さて、アル商人ギルドに行こうか」
「…… ギルド?」
兵士は一般的な教養があるようで、アルフレッドのその後を憂いていた。だから生きて行く事に少しでも有利になればと動いてくれていた。
またアルフレッドもその兵士の握られた手と心の暖かさとを感じ言われた通りにギルドに向かう事にした。
馬を番屋に預け、商人ギルドへと向かう。
「ギルドというのはお金を預かってくれるんですか?」
「ああ、アルはちょっとばかり金持ちだからな…… 正直言って危ない」
アルフレッドは今、両親が残してくれた木箱の中のお金と、騎士を待つ間に村の空き家で集めた金貨……急ぎ働きの盗賊が時間的な余裕が無く見つけられ無かった金貨をアルフレッドは暇がある時に探し出していた。
それに加えて「せっかくだから一番大きな家の子だったと書類にしてやろう」という騎士の計らいで村頭の大きな家を国に売ったと証明になる契約書類を持ち歩いている。
これは合計すると町で物販をする4人家族が3年は贅沢な事をしなければ食べていける金額だった。
アルフレッドは両親や頼りになる親族はいない。
親族もいないので大人に保護されずに過ごす事は、この世界では難しいので成人するまでの間は孤児院に入る事はもう決定している。
そこに大金を持ち込めば、悪ければ成人を迎える孤児院を出る直前の人間に殺されてしまう可能性があると聞いて彼は顔を青
「大丈夫、アルその為のギルドだからね」
「はへぇ…… ギルドって凄いんですね」
眼を丸くして驚くアルフレッドに兵士2人は暖かい笑顔を向けた。
商人ギルドに到着するとその広さにアルフレッドは驚いた。
金や貿易を支配する事をイメージした看板には金貨と船が彫刻され、建物は厳かな様式の白亜の神殿のよう、その入り口にはまるで動き出しそうな位に精巧な彫像が飾られ訪れる者をギロリと睨み見ていた。
「村の家が3軒スポッと入りそうな程、大きいや…… 」何度も目をキョロキョロとするアルフレッドの頭にポンと優しく手が乗り
「さあ、行こう」という兵士の声に従い中に入っていく。
兵士に連れてられ受付カウンターへと案内されると、そこには金髪を後ろで束ねた少女が居て、彼女は笑顔でアルフレッドに挨拶をした───────。
[補足]
異世界のギルドでも商人ギルドと他のギルド間で闘争が起こっている。地球のツンフト闘争より苛烈な争いで多くの死者を出している。
その為、ギルド間の仲は頗(すこぶ)る悪い。
アルフレッドは首に麻紐でネックレスのように括り付けられたカードをキュッと一度指で擦り、胸元に入れながら歩いている。
このカードは商人ギルドの会員証である。
商人ギルド内での手続きは、アルフレッドには学がないと兵士に思われているので代わりに行ってくれたので見ているだけ。
村頭の家の売買書類も商人ギルドが換金してくれ金庫に入れてくれた…… 自分のお金を保護する事には成功したのだとアルフレッドは胸を撫で下ろした。
商人ギルドを辞して歩きながら兵士はアルフレッドに声をかける。
「…… アル、これから君は大変な人生を歩む」
「大変…… ですか?」
村での生活や未来視での苦難を思い浮かべてアレより辛いのかなとアルフレッドは唾を飲む。
「ああ、孤児院というのはやはり搾取される側の生活だ。親無しとして人にも疎まれる…… かもしれない」
「…… はい、」
「でも、アルは商人ギルドに所属して、元手となる資金もある。まだ恵まれているんだ」
優しく語りかける兵士の目を見てアルフレッドは大人の優しさに涙が溢れてくる。
「将来的にあのお金は、絶対に身を立てるに必要となるから騙されたり無駄遣いしたりせずに精一杯に生きるんだよ」
「…… はい」
兵士に頭を撫でられ、そんな話をしながらスラム街近くの孤児院にアルフレッドは辿り着いた。
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