第3話


 アルフレッドはお金を取り出す事なく眠りについた。

 翌朝【未来視】で見た通りに働き、全く同じ陽の高さ頃に商人が来村した。


 全て変わっていない。

 変わったのはアルフレッドが村の人達を見る目だけ。


 喜びながら走っていく大人衆を見ながらアルフレッドは初めて「チッ」と舌打ちした。


 昼は食べ終わっているのでそのまま家に帰ってもいいが【未来視】が本当なのか確かめたくて一応、商人の顔を確認する。

 「あの太った商人で間違いない。」アルフレッドは心の中で呟き睨む。引きづられて殴られている時にニヤニヤと笑いながらエールを飲んでいたあの顔だと。


 人の死を物見遊山した商人に対して怒りをグッと噛み締めてアルフレッドは自宅に戻って行った。


 身を清め、時間をどうして潰そうかと考える。


 大人達は商人を持て成すだろう夕食は早い時間になる。グツグツと煮えるような怒りの中、ここで生きなければならない自分にも苛立ちを覚えギッギッと座る椅子の音を鳴らしているうちに【未来視】について思考が移る。


 「一晩寝て…… 翌日の夕方に殺されるまで魔力はもった…… 」すごく効率の良い魔法だとアルフレッドは考える。


 以前見た魔法使いの自慢話や、両親から聞いた魔法の話からしても長時間維持出来る魔法なんて聞いた事がない。

 世界は広いのも知らないアルフレッドは、もしかしてこの魔法は凄いものじゃないのか?と思い出す。


 「まだ魔力の量を表示する数字は死ぬ時に残っていたし…… 死ななければあと一晩はもったかもしれない」

 もっと、この魔法をもっと知ってこの村から出ようとアルフレッドはこの時にしっかりと決めたのだが…… 村を出る時、その時は近い。


 夕食はとても豪華だった。


 豪華と言っても寒村のもて成しなので、たかが知れている。

 いつもより具の多いポトフスープに硬いパン、それに乾燥肉がついたのだ。

 いつもなら、スープに少し浮かぶぐらいの肉が食事として出たのだ。


 アルフレッドはその乾燥肉をポケットに仕舞い、スープとパンを頬張ると嬉しくなる。

 しかし、ドッと騒ぐ商人と大人衆の姿が目に入ると…… せっかくの肉だから部屋で落ち着いて食べようと食事を掻き込んだ。


 大人達は商人に勧められて酒を煽り、商人と護衛の人達はまだ仕事があるので明日いただきますと酒を固辞していた。


 家に帰り、コップに水を汲むと両親の寝室に入る。


 「肉だ…… 嬉しい」

 そう言いながら黙々と肉を頬張り塩気を水を数口飲み胃の中に流す。サイドテーブルに置いたコップを見つめながら美味しかったと感激してゴロリと寝転がる。


 「…… 【未来視】発動」


 どうせ練習するなら早くしようと早々に魔法を使う。

 「あれ?魔力の量が増えてる?よね?」

 【未来視】を使うと魔力量が増えるのかとアルフレッドはニンマリとしながら持って来た本を捲る。

 

 今まで、朝に差し障るからと出来なかった勉強をする。本は村の集会所にて貸付ている。と言っても子供が学ぶ物。

 寒村で生きるなら農業か狩人しかない。

 勉強をしたがる子供なんていないから、集会所で借りても良いですか?という問に首を横に振る者なといなかった。


 「領主様が確か置いてくれてるんだよね、ありがたい」

 本は領主貸付、徴税員が来る時に本があるかチェックされる。麒麟児が生まれる場合があるから…… というのは建前で一代前の領主が偽善の慈善家だったので気まぐれで村に本が置かれたという経緯がある。


 「しかし魔法についての本、難しいなぁ」

 普通は無駄になるから使わないロウソクで灯りを取りながら本を読んでいると、ドンドン!!とアルフレッドの家の喧嘩が叩かれて誰かが入って来る音がする。


 「誰かいたか?」

 「いえ、まだ部屋あるみたいですし探してみましょうや」


 「ヒッ」と喉の奥で悲鳴を鳴らす。

 大声が出なかった自分を褒めながらアルフレッドはロウソクを消してベッドの下に隠れた。


 程なくして部屋に男2人が入ってくる。


 「おい、いねぇな」

 「へえ、キッチン、リビング、子供部屋と調べやしたが…… おかしいですね」

 「いや…… 焦げ臭いし…… 見ろ、ベッドに本が転がっているならば」

 

 ゆっくりと…… 話をしていた男の足が屈むように動き、アルフレッドと目があった。


 「みつけた」

 引き摺り出されたアルフレッドは「ごめんなさいごめんなさい」と謝る。

 「へへへ、ガキか…… 奴隷に売るか?」

 「っ!待って下さいお金ならあります!助けて下さい!」


 震える手で納戸を指差すアルフレッド。

 「壁じゃねぇか!」

 「…… いや、こりゃ隠し納戸だ。暗かったから全く見えなかったぜ」


 アルフレッドは両親の残した木箱を男達に渡すと首根っこを掴まれながら集会所まで連行された。

 村の集会所はひどい有様だった。


 酔い潰れた村の男衆は簡単に制圧されたんだろう全員が首を落とされて地面に並べられていた。


 女衆は凌辱され、若い村の娘達は机に尻を出して並ばされ初物と笑われ順番に商人に貫かれていた。

 「大将!」

 「おう、なんだ?そのガキは?」

 「へぇ、家に隠れていやした!」


 ズイッと首を掴まれたまま、太った商人の前に押し出された。

 「商人さん…… ?」

 「おう、なんだ良い顔してるな?よしよし」


 アルフレッドの問いかけに、女衆を凌辱していた男の1人が笑う。嘲り罵られる言葉を繋ぐと、どうやら商人に化けた盗賊一味だったようだ。


 「俺はな、美男子ってのが大っ嫌いなんだ」


 商人…… 盗賊団の頭であった男はニヤリと笑いアルフレッドを暴行しはじめる。

 ああ、あの死んだ時に笑っていたのはこういう事か…… とアルフレッドは理解して気を失った。


 次に目を覚ましたのは、牢馬車の中だった。


 しくしくと泣く同じ村の女の子と、まだ幼い男の子。それに犯されて放心状態の娘達……

 男衆も女衆も成人近い男の子も全て殺されたようだ。


 じゃあなぜ?ボクは生きているの?


 アルフレッドは不思議に思うが、それはすぐに分かった。


 食事の時間に牢馬車から出されて暴行を受ける。

 それをニヤニヤと笑いながら食事をする盗賊団……


 余興に残された命…… それがアルフレッドだった。

 顔は腫れ上がり、みみず腫れからは液体が流れ出す……

 「早く、殺して下さい…… 」


 アルフレッドの懇願も爆笑の種でしかなかった。


 「さあ、出発だ!娘達とガキを奴隷商に売ったらパーッとやるぞ!」

 フラフラとする視界にアルフレッドは自殺しようと舌を思いっきり噛んで気絶した。




 「───────────あ…… あぁぁ、ひぃっ…… ひぃっ、早く、早くしないと」

 【未来視】が解けたアルフレッドは急いでロウソクを消して、窓を開け匂いを逃がしコップを窓から捨てる。毛布を納戸の中に、布団を隣の部屋に片付けて部屋で誰も過ごしていないようにベッドの骨組みだけにする。


 もう来る…… もう来る…… そんな悲鳴のような独り言を繰り返して魔法の本を持って納戸に身を隠した。


 ドンドン!という大きな音、「誰かいたか?」「いえ、まだ部屋あるみたいですし探してみましょうや」という体験した声。


 そして部屋に入って来た男2人の足音。

 

 「…… この部屋もなんもねぇな」

 「どうやら空き家みてぇだな」


 アルフレッドは心臓の音や呼吸の音が聞こえないようにジッとしていると男達は部屋を出て行った。


 ハッ…… ハッ…… ハッ…… 小さく息をする。


 ガチャ…… 「っっ!」また男が部屋に入って来た。


 「やっぱり誰も居ませんて」

 「いや…… いるような気配があったんだが気のせいみてえだな、よし!女抱きにいくぞ!」

 「うす!」


 声を出さなくて良かったとアルフレッドは自分の胸を撫でた。


 毛布を持ち込んでいたのは良かった。

 納戸の中でも寒い時期なので耐える事が出来る。昨晩に肉を食べられたのも体力に繋がった。

 アルフレッドはジッと隠れて過ごす。


 何度か金目の物を漁りに男が来たが、あるのは子供の服や農夫両親の服ぐらいですぐに出て行った。


 …… どのぐらいの時間がたったのだろう、アルフレッドは緊張の連続で隠れる中、失神するように二度ほど眠りについた。


 「魔力…… 回復してるよね?」

 小さく呟いてアルフレッドは【未来視】を発動した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る