第2話
未明頃にアルフレッドは目を覚まし慌てて厚手の服に着替えて畑に出る。
幸いまだ陽は開けておらず、いつものように農具を取り出して畑を耕す。
薄っすらと雪が乗っている土は程よい湿りとなって畝(うね)を作るのによかった。
雲はあるが寒さは昨日ほどじゃない。今日は暖かくなるかもしれないと嬉しくなりながら作業を続ける。
にんじん、かぶ、玉葱と畑を用意しないといけとない。夏になったらジャガイモを違う面の畑で耕してとアルフレッドの労働は無くなる事が無い。
「せめて大人になったら状況が変わる…… かな?」
この国の成人は15歳、このまま働いていて5年…… そう思うと気が重い。
黙々と作業を続けていると笑いながら大人が作業に入る。アルフレッドは怒られないように率先して仕事をこなして昼、女衆が昼飯を持って来てくれやっとの休憩となる。
「おいアル!」
「はい、なんでしょうか?」
今日は凄く機嫌の良い大人の1人がアルフレッドに言うには明日の昼に商人が村を訪れるという。
なるほど、買い物や珍しい話が聞けるかもと嬉しいようだ。
村の収入は平等に分けられる、もちろんアルフレッドは貰えないが。大人達は久々の散財という娯楽に浮かれていた。
[補足]
村での作物は消費する分を除いて、徴税に来た役人に買い取ってもらう。
個々別の家庭での食事ではなく皆で消費するという概念があるのでおおよその予測がつく。買取金は大人に平等に分けられる。
いつもより雰囲気の良い村人に怒られる事なくアルフレッドは一日を終えた。
むしろ、浮かれているのだろうスープの具も量が多く満足できた。お腹くちくなりながら体を清め布団に入る。明日の朝も早いからだ。
「でも買い物を大人がするから畑は昼までなのは嬉しいなぁ」
共に働くという理念があるので、労働が終わる時は一斉に終わる。
朝にアルフレッドが働いているのはあくまで、アルフレッドの善意として。両親が亡くなり大人衆と働かなければならなくなり1日目、まだ子供の体力で弱く遅い。
そんなアルフレッドを怒鳴り殴りした村の男はこう言った。
「仕事が遅いなら、同じ仕事量になるように考えろ」
終わる時は終わる仕事なので、アルフレッドは朝早くから働くしかなくなったのだ。
ふぅと溜息をついて、布団の中でアルフレッドはまた、[未来視]の魔法を使用した。
目の端にまた文字と数字が浮かぶ。
畑を耕しふと、手を止め汗を拭く度に昨日得た知識を反芻し理解できるように頑張っていた。
どうやら、このゆっくりと減り続けている数字はアルフレッドの魔力で、死を体験するか魔力が無くなると気絶する寸前で目覚めるようだ。
「だから昨日はもう一度、使おうとして魔力が切れて気絶した…… のかな?」
寒村の子供の知識では理解出来る部分がまだ少ないのだから使って覚えるしかない。
「ここで行動した事は現実ではないけど、限りなく未来である…… か。」
ならばと、両親の残した物を閉まった納戸を漁る。
平等主義の村では家や財産をアルフレッドから取り上げなかった。それは回り回って自分に還ると知っているからだ。
アルフレッドはそれは助かったと思う。
亡くなった後に部屋を掃除していると鍵のついた箱を見つけた。
壊して開けてしまうと、両親の思い出も壊してしまうような気がして隠してあったのだ。
両親は倹約家であった。
アルフレッドは改めて思う。
鑿(のみ)を当てて木槌で壊して開けて見ると。大人に配られるお金を貯蓄していたのだろう銀貨や銅貨が何枚も入っていた。
「あなたは、街の学校にいきなさいね」
そんな母の優しい声を思い出し、1人で涙を流した。
[補足]
文字、漢字、数字を知って基礎教育を受けても一般相対性理論、特殊相対性理論の本は読めるが理解は出来ない。光の速さは等しいなどの取っ掛かりしか分からないだろう。
寒村に生きるアルフレッドはまだ10歳であり、特殊な魔法の理解を深める事は今はまだ不可能。
翌日、昼過ぎに商人が来村した。
大人達は仕事を止めて笑顔で迎え、子供は走り回り、年嵩の男の子は枯れ木に登りワイワイと騒いでいる。
農具を片したアルフレッドは商人が馬車を広げて商品を並べるのを目にすると声を出した。
「すみません、このお金で僕を町まで連れて行って下さいませんか?」
母の願いに応えるように、アルフレッドは数枚の銅貨を皮袋から取り出し商人に願い出た。
シンと静まる大人衆、おやおやという顔をする太った商人。
そこからは早かった。
皮袋の中に銀貨が入っているのを見た男が「どこで盗んだ!」と叫び出した。
取り上げられていくお金。
殴られ引きづられていくアルフレッド。
村の中で盗みは重罪。
村の広場で椅子に括り付けられ身動きのとれないアルフレッドを殴る蹴る。
「お母さん」
そう呟きアルフレッドは死んでしまった。
「───────────はぁ、はぁ、ぜぇぜぇ…… 」
【未来視】が解けて昨晩…… つまり両親が残してくれた箱を壊す前まで時間が戻っている。
「あんな、あんなに簡単に、この村の人達は僕を殺せるんだ…… 」
項垂れるアルフレッドはまた、涙を流した。
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