第一部第四幕 仁義の墓場Ⅲ
一台のバイクの後ろに、幾つもの黒塗りの車とバイクが続いた。住宅街を抜け、大通りに出る。バイクの男とはスロットルを開き、一気に加速して行った。一般車の間をするするとすり抜けていく。後に続く男達も、アクセルを踏み込み、或いはスロットルを開き、男に追いつこうと必死である。彼らの速度は既に法定速度を超え、百キロにまでなろうとしていた。
東堂会の先頭を走る仙谷は、追っていたバイクの真後ろまで来ると、一息つき、そのまま加速させ、車体ごと体当たりしようとした。しかし、バイクの男は急に右によれて躱すと、そのまま仙谷に蹴りを入れた。よろけた仙谷はそのままガードレールに突っ込み、歩道に投げ出されてしまった。
東堂会若衆仙谷義人 死亡――。
続いて、二人のバイカーが男を挟んだ。東堂会若衆神田洋一と神田次郎の兄弟である。神田兄弟は交互に男に蹴りつけた。その度男はよろけるが、どうにか堪えた。そして、洋一が4度目の蹴りを入れようとした時、男はブレーキをかけた。男の姿が瞬時に消え、洋一の蹴りが空振り、そのまま姿勢を崩して路上に顔面を擦りつけることとなった。
東堂会若衆神田洋一 鼻骨骨折、裂傷多数――。
――兄貴!!
しかし、兄に気を取られた弟もまた、一瞬のよそ見の結果。道路のカーブに気付かず電柱に突っ込んでしまった。次郎はそのまま頭を電柱に打ち付けた。
東堂会若衆神田次郎 頭蓋骨陥没骨折――
一方バイクの男はそのまま二人の傍を走り去って行く。
再び男に追いついたのは、東堂会若衆真島剛。彼は黒塗りの車に乗り、逆走上等で車線を跨ぎ続け、ここまでやって来たのである。バイクの男は加速を続けながら、バイクのケツを振って揺さぶろうとするも、真島は決して離れない。段々距離が近付いて行く。
――よっしゃゴルァ、死ねオルァ。
真島の歓声。
しかし、次の瞬間、バイクの男はポケットから何かを取り出し、真島にそれを向けた。
――あ?
連続する銃声。
フロントガラスは砕け散り、真島は血を吐いた。
――そんなんありかよ……。
男が取り出したのはイングラムM10であった。
意識を失った真島の車は、ゆらゆらとふらつきながら、反対車線にはみ出し、やって来たカタギのトラックと衝突した。
東堂会若衆真島剛 死亡――。
十字路に差しかかったところで、バイクの男の前に一台の車が入り込んできた。乗っていたのは、東堂会若衆松田浩平である。松田は別の道から先回りしたのである。松田はゆっくりブレーキをかけ、速度を落とさせていった。前に出られたのでは、銃を使う訳にもいかない。追い抜こうにも、松田は巧みにブロックしてくる。
気付けば後ろにも、車が追いついてきていた。東堂会若衆村田太一である。前後を挟まれ、次第にその間隔が狭められていく。
バイクの男は、村田に向かって発砲した。村田はハンドルを握りつつも頭を伏せ、弾丸を躱す。
――これで終いやクソが。
村田はアクセルを踏み込んだ。しかし、次の瞬間村田は車体が傾くのを感じ、さらに次の瞬間、ガリガリと何かが削れる音を聞いた。
――野郎、パンクさせやがった!!
それでもなお、村田はアクセルを踏み込んだが、思う様に速度は出ず、車はそのまま減速していった。
松田はその様子をルームミラーで伺いながらも、男に抜かれないようにハンドルを切り続けた。
――ようし、ここまま止めたろうやない……ん?
しかしバイクの男は松田が減速し切る前に、急ブレーキをかけ停止した。そして、バイクから降りて、手押しでUターンさせると、そのまま走り始めた。
――野郎ふざけてんのか、そっちには仲間が山ほどいるんだぞ。
松田の叫びは虚しく車中に響いた。
バイクの男は弾丸のように走って行く。やがて、東堂会の車列が反対車線に現れた。すると、男は手にした小機関銃を出鱈目に撃ち込んだ。
――向かってきやがった。
――舐めやがって。
――逃がすな。
しかし、男が放った弾丸は、車を運転していた東堂会若衆吉沢浩明のこめかみを撃ち抜いた。絶命した瞬間、吉沢はブレーキを踏んでしまい、後続の五台の車が突っ込んでしまった。
東堂会若衆吉沢浩明 死亡、他東堂会若衆五名 重傷――
この玉突き事故により生じた一瞬の混乱をつき、バイクの男は車列からぐんぐん離れ、やがて横道に逸れ、追手の多くを撒いたのである。
しかし、一人の男が付かず離れず、バイクの男を追い続けた。東堂会若衆頭田中始である。田中は車列の少し後方で待機しており、怪しいバイクが走って行くのを見逃さなかったのである。
バイクの男は中心街を抜け、案の定西に走っていた。やがて、田中の鼻腔に磯の香りが満ち、バイクの男が降車し、停泊するフェリーの中に入って行くのを田中は目撃することになる。
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