第10話「沈没」
「んんんんんん…!!」
ウィレムが意識を集中させると、ウィレムを中心に怪しげな空気が回り始め、色褪せた小さな電撃がバチバチと音を立てる。
「何だ…?何をする気だ?」
「はぁっ!」
パッ!!
ウィレムが一喝すると周囲の気が吹き飛び、電撃がすべて吸収された。
「『魔法』を使うだけだァ」
ウィレムが勢いよく手を天にかざすと、まばゆい電光が空に向けて放たれる。
「何だ…?何を
ドンッッ!!!!!
ジョリオがウィレムに何をしたのか、そう問おうと口を開いた瞬間、海が真っ白な光に包まれ、その直後に耳が壊れんばかりの爆音が鳴り響いた。
ギオオオオオオオオオオオオオォォォォ!!!!
…一瞬の出来事だった。凄まじい咆哮を上げながら水上をのたうち回る怪物の胴体に放たれたウィレムの魔法は、確かに深い傷を刻みつけた。
「やったか!?」
「いや全然駄目だ!俺の魔法じゃ広範囲の破壊は無理だ!確かにダメージは受けただろうがこんなんで弱るはずがねェ!」
グラッ…!
水中に潜ったサメが船底に噛み付いたのか、船全体が激しく揺さぶられる。
「まずいっ!船が食い破られちまう!!」
ダニエルが太い柱にしがみつきながら恐怖に染まった声で叫ぶ。文字通り山のように巨大な怪物だ。このまま放っておけばダニエルの言う通り船はバラバラにされてしまうだろう。だがサメを狙って水場に落雷を打ち込んでしまえばサメのみならず船ごと黒焦げになってしまう。
「ジョリオ!お前もなんかできねェのか!」
「無理だ!!…俺は魔法が使えない…っ」
「…はァ?」
うろたえたまま何もしていないジョリオに檄を飛ばすウィレムは、その返答に愕然として表情を曇らせた。
「…生まれつきだ…なぜかは誰も分からない…」
「ちィ…!ジーナを呼んでくるか…ん?」
ウィレムは船酔いで苦しみ抜いたジーナを叩き起こすのは忍びない、そう思ってもなおそれしかやりようが無いと判断して船室のほうへ目線を移した時、ジョリオの背中にあった「伝説」と誰かが言った剣が淡く輝いているのを視界に捉えた。
「…その剣、光ってねェか?」
「えっ?ほんとだ!」
「あの化け物が現れる前は光ってなかった…ってことはその剣とあの化け物は何か繋がりがあるはずだ!やつをどうにかするのには間違いなくそいつが鍵を握っている!」
「でもどうすれば…!」
「うるせェ!ごちゃごちゃ抜かしてんじゃねェぞ!…このままじゃ俺やお前だけじゃない!お互いの仲間まで海の藻屑だ!…魔法が使えねェなら、使えないなりに出来ることを考えろ男ならァ!」
バギギギギギギギ…
…ついに船が真ん中から真っ二つに割れてしまった。竜骨を噛み砕かれたらしい。バキバキと凄まじい音が鳴り響き、足場が断崖のごとくに大口を開けた。
「やべぇ!やべぇぞ!!この船はもう駄目だ!!俺は小さい船を用意する!ウィレムもそこの無賃乗船野郎も連れをさっさと呼んでこい!人命が最優先だっ!!」
今までよりもずっと大きな声でそう叫ぶと、ダニエルは大急ぎで船の下の方に消えていった。
「ウィレムっ!!やばいゾ!船ガ…!」
「丁度いい所に来たな!この船から脱出する!そこで寝てる獣人も担いでやってくれ!獣人は俺やこいつじゃ運べねェ!」
「分かっタ!」
ジーナはむっと力を込め、気を失っている獣人を肩に担ぎ上げた。
「すげぇ力だ!女の子とは思えない!」
「男でもきついだろうが!とにかく急ぐぞ!!」
あっけにとられているジョリオを急かしながら甲板の下へ降る。サメが暴れたせいか到るところがボロボロで隙間から外の光が差し込んでくる。
「カリスタ!!逃げるぞ!!」
「ちょっ・・・待ちなさいよ!」
ジョリオの呼びかける声に、木箱に隠れていたエルフの娘も呼応して姿を表し、ダニエルの声の聞こえるほうへと走る一団に加わった。ダニエルの用意していたボートに全員が乗り込み、漕ぎ出したのを合図とするかのように、二つに割れた帆船は完全に海の中に沈んでいった。
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