Chapter 1.30 緊張

Chapter 1.30


緊張


「・・・あの、セイクス管理官に少し確認したいことがあったんです」

「なんだ?」

「管理官は、その、今回の異変は異能アナザーによるものだとお考えですか・・・?」

 か細い声のまま、カナデはセイクスにそう質問した。

「そうだな。今の所、それも視野に入れて考えている。だから監察者オブセクターの応援を頼んだという背景もある」

「あの、私の異能アナザーならそれを確認することができます」

「・・・それは本当か?」

 セイクスの声が急に真剣味を帯びたものに変わる。

「は、はい。直接被害者に会わないといけませんが、確認できます。ですが、問題があって、その・・・」

「カナデ、ゆっくりで大丈夫です。言いたいことを言ってください」

 キルティスは背中を押すように穏やかな口調でカナデに声をかける。

 カナデはゴクリと唾を飲み込むと、意を決したように口を開いた。

「時間制限があって、あまり期間が空くと確認することができなくなってしまうんです」

「それがカナデの持つ異能アナザーの特性ということか?」

「は、はい。私の異能アナザー残香レジセンスというもので、異能アナザーが使われたところであればその異能アナザーの匂いをたどることができるんです。ですが、それは期間が空くと消えてしまって・・・」

「どれくらいの期間が空くと痕跡は消える?」

異能アナザーにもよりますが、経験上、早いものだと三日、長いものだと一週間程度です。今までは直近の被害者が確認できてないので役に立たないと思っていました。でも−−−」

「なるほど。確かに今日、被害が確認できた者がいたな」

 セイクスの言葉を聞き、ルクスはあっ、と思い出す。

「そうです。集会所管理人のロイドさんが今日、異変の被害にかかったと思われる状態になりました。今なら、私の力で異変が異能アナザーによるものかどうか確認することができます」

 その言葉を聞き、事態が急激に好転したとルクスは感じた。

「すいません。もっと早くに報告するべきだと思ったんですが・・・」

「いや、このタイミングでなんの問題もない。むしろよく話してくれた」

 セイクスはカナデを褒めると、すぐさまルクスとリアの方に体の向きを変える。

「リア、お前は東武記念病院の医師と面識があるな?」

「あ、ああ」

「カナデと一緒にそこに向かえ。ルクス、お前もだ。二人とも、今すぐにいけ」

「わかった」

「了解!」

 ルクスは即座に立ち上がり、カナデの手をとる。

「え?」

「ナイス報告! 一緒に行こう!」

 そう言うと、支部長室のドアに向かう。その時すでにドアは開かれており、リアが部屋の入り口で待っていた。

 心の中では、書類盗難にロイドの異変被害が重なり、窮地に追いやられていた感覚があった。しかし、思わぬところで千載一遇のチャンスが生まれた。棚からぼた餅とはまさにこのこと。

 −−−この好機を逃してはならない。

 ルクスは強くそう思うと、カナデを引き連れて支部から外に出る。

「ここからだと記念病院は少し遠いな。車で行くか」

「あ、じゃあ私、車取ってきます!」

 カナデはそう言うと、ルクスの手をほどき、支部入り口の裏側へ走って行く。

「おいルクス」

「ん?」

 声の方向に振り向くと、リアが神妙な表情でルクスの顔を見据えていた。

「・・・浮気は良くないぞ?」

「・・・は?」

 ルクスには、相棒であるリアが何を言っているのか正確に理解する事が出来なかった。

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