Chapter 1.28 調査結果報告

Chapter 1.28


調査結果報告


「ただいま戻りましたー・・・。て、あれ?」

 支部長室に顔を出すと、そこにはすでに見知った顔ぶれが揃っていた。

 セイクス、リア、キルティス、カナデの四名である。

「もしかして俺が最後ですか?」

「ああ。そうだな」

「遅れてすいません」

「事情はリアから聞いている。それに別に遅刻というわけでもない。気にするな」

 セイクスはいつも通りの表情で遅れてきた部下をフォローした。

 上司が人格的にできている人間で助かった、と少しばかりホッと胸をなでおろす。

 ルクスが帰って来る前に新しくきたセイクスへの自己紹介は済んでいたようで、セイクスとカナデも顔見知りになっているようだった。

「さて、全員揃った事ですし、情報の共有と行きましょうか」

 キルティスがルクスに座るよう促す。

 ちなみにソファは二人掛け用のものが二つしかないため一人あぶれるが、カナデはもとより座るつもりがなかったらしく、キルティスの後ろ側を自分のポジションと位置付けたようだった。

 それを見たルクスは申し訳ない感情を抱きながらリアの隣に座る。目の前のソファにはセイクスとキルティスが腰を下ろしていた。

「では、まずは私とカナデからの報告ですね。まずはこれを見てください」

 キルティスはテーブルの上に一枚の地図を広げる。

 その地図には所々に赤い丸や青い丸がつけられていた。赤丸の方は三つ、青丸の方は八つつけられているようだ。

「これはカルーアの全体地図です。これを見たら分かると思いますが、商業都市と呼ばれるこの街は、東区、西区といった具合に東西南北の四つの地区に大雑把に別れています」

 ちなみに支部の場所はここです、とキルティスは地図の東側の一手を指差す。

「東部記念病院は東区にある大病院の一つということだな?」

「その通りです」

「地図についているこの赤と青の丸はなんだ?」

 セイクスが気になっている事を口にする。

「赤い丸は冒険者集会所です。集会所は北区以外の地区に一つずつあるので合計三つ印をつけています。そして青い丸の方がカルーアにある、いわゆる大病院ですね。東部記念病院を含めて合計八つ。今回、私とカナデで調査した病院になります」

「あ、あと東部記念病院に関してですが、事前に本部の遂行者オフェンサーである両名が調査していただいたため、私たちの方では連絡を取っていません」

 カナデはキルティスの後ろで報告の補足をする。

 ちなみにその両名とは言わずもがなルクスとリアのことである。

「直接話を伺うのは時間的に難しいと判断したため、時計型通信端末レガリアを使って電話で連絡を取り、事情を説明して各病院に協力をお願いしました。その結果がこれです」

 キルティスは懐から一枚の書類を出すと、テーブルの上に置く。

 その書類には各病院の名前が記載された表が乗っていた。

「見ていただけたら分かりますが、どうやら異変が起こっていたのは東部記念病院だけではないようです。時間差があるようですが、北区以外の全ての病院でラークさんと同じような経過を辿った患者が一定数いました」

「少し貸してくれ」

 セイクスはテーブルに置かれた紙を手に取ると、表に刻まれている数字をじっと見つめる。

「この表を見る限り、最初に被害者が出たのは西区だな。三月からうつ病と廃用の患者が出始めている。そして四月から五月にかけて南区。そして五月から今にかけて東区ということか」

「セイクス管理官の言う通りです。どうやらこの異変は西・南・東といった具合に場所を移すようです。被害者の年齢は二十代から三十代前半の方が多いみたいですね」

「地区によって被害人数にもバラツキがあるな。最初に異変が起こったと考えられる西区では十二名と少なめだが、次の南区では二十五名。そして今異変が起こっている東区では昨日の時点で四十三名か」

「そうです。東部記念病院とは別の、東区にあるもう一つの大病院に確認したところ十五名の被害者が確認できました。東部記念病院の患者と合わせて合計四十三名です」

「え、そんなに?」

 ルクスは思わず驚きの声を出す。

「ええ。今の所確認できている被害者の総数は八十名ですが、実際はもっといることが予測されます。今回確認を取っていない中規模病院もそうですが、そもそも病院を受診されていない方もいる可能性がありますので」

「そうですね。もっと言うなら、うつ病と診断された時点で精神科特化の病院に移された人や、持病や合併症の関係で異変被害者ではあるが別の病態を示した人もいると思います。そういう人は今回の調査では被害者の人数に含まれていない可能性が高いですね」

「ああ、なるほど・・・」

 キルティスとリアの頭の回転速度に舌を巻く。

 ルクスは話の速度についていけておらず、冷や汗をかいていた。

「こちらからの報告は以上です」

 キルティスはそう言い終えると、ちらりとルクスとリアの方に目を向ける。

 ああ、俺たちが報告する番か、とルクスは気づき、リアの顔を見た。

「お前が来る前にロイド氏の事はセイクスに軽く報告しておいた。俺がいなくなった後のことを報告してくれ」

 リアはルクスにそう耳打ちする。

「わかった」

 確認が取れたルクスはラファルトと共に通勤経路を確認できたことと、その後の聞き込みに関する情報を報告する。

「−−−とまあ、こんな感じです。収穫が少なくてすいません」

「いや、そんな事はない。収穫がないというのも一つの情報だからな」

 セイクスはルクスの言葉に返答する。

 今の話で何かわかったことがあるかは疑問だが、ルクスは静かに頷いた。

「とりあえず、これで情報が揃ったわけですね。これからどうしますか、セイクス管理官」

 キルティスはセイクスに指示を仰ぐ。

「その前に、俺からも一つ連絡だ。この異変の調査にあたり、人手不足が深刻だったことから本部から監察者オブセクターを十名借りてきている。明日には全員到着する予定だ。到着次第、順次各被害者の職場や家族から聞き込みを行うように話をつけている。キルティス支部長にはその監察者オブセクターの管理を頼みたい」

「私が、ですか。本部の方々が協力していただけるのは助かりますが、セイクス管理官が対応したほうがいいのでは?」

「本部の人間では地理的に困ることも多いと思っての判断だ。それなら支部の人間が手綱を握ったほうが解決が早いだろう。一人で難しいようなら俺も協力する。頼んだぞ」

「・・・わかりました。善処します」

 キルティスは頭が重そうに頷いた。

 顔も合わせたことのない十名の監察者オブセクターを管理するのは大変そうだな、とルクスは他人事のように感じていた。

「さて、情報と連絡が終わったところで、次にするべき行動だな」

 セイクスはそう口を開き、これからするべきことを説明し始めた。

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