Chapter 1.27 通勤経路
Chapter 1.27
通勤経路
「ラファルトと言います。よろしくお願いします」
目の前の人物はそう自己紹介をする。
薄く茶色がかった黒髪とルクスと同程度の身長の男性だった。
第一印象としては、何処にでもいそうな一般人という感じである。
「
ルクスはつられるようにそう自己紹介を返す。
「ラークさんの同僚で、厨房で働かれているんですよね?」
「はい、そうです。ラークとは途中まで帰り道が同じなので一緒に帰ることが多かったんです」
「なるほど。急ではありますが、案内よろしくお願いします」
二人は今、冒険者集会所の外入り口にいる。
あれから名前の知らない受付嬢が、今目の前にいるラファルトなる人物を紹介し、ラークの通勤経路を案内することになり、今に至る。
「では、早速行きましょうか」
ラファルトは行く先を手で示しながら先導する。
「ラークさんとは親しくされていたんですか?」
ラファルトの後ろを追いかけながらルクスは何気無くそんな質問をする。
「ええ。と言ってもラークは同僚の皆から慕われていたので、それほど特別な関係ではありませんが」
「そうなんですね。年齢は、どちらが上なんですか?」
「一応ラークとは同期です。まあ、僕の方は独身ですが」
ラファルトはそう自虐的に笑いながらルクスの言葉に答える。
「同期ですか。良いですね。そうなると二人で飲みに行くことも多かったんじゃないですか?」
「働き始めた当初はそういうこともありましたが、ラークの方はすぐに恋人ができましたから。それからはあんまり行っていないですね」
「それは、今の奥さんであるシーヌさんですか?」
「ええ、そうです。彼女は集会所の給仕として働いていて、僕たちの一つ下の後輩でした。出会ってすぐに付き合い始めたんじゃないかな」
「なるほど。羨ましい話ですね」
「ええ、本当に」
二人はそんな会話を交わしながらカルーアの街中をゆっくりと歩く。
事前にラークは自宅から集会所まで徒歩で来ている事は受付嬢から聞いていた。それほど時間もかからないということからすぐに案内する事に至ったのだ。
集会所から少しずつ離れて行き、割と早い段階で数回曲がり角を曲がる。道が進むにつれ、時にはこんな道を通勤経路で選ぶかといった具合な裏路地に入る事もあり、ルクスは内心驚いていた。案内中、終始人の気配が薄いなとは思ったが、特に気になるようなものは見られなかった。また少し歩くと大通りに出て、そこの周りには小さな雑貨屋や住宅街、そして居酒屋があり、何か大きな事件があった雰囲気は感じられなかった。
「ちなみに、五月十九日の夜にここらで何かいつもとは違う出来事はありましたか?」
「うーん、僕は特に覚えていないですね」
「その日、ラークさんと一緒に帰られたりはされていない?」
「どうだったかな。一人で帰ったり、違う人と一緒に帰ったりとまちまちなので、正直覚えていないですね」
ラファルトは頭をひねりながらそう答える。
それはそうだなとルクスは納得する。約一ヶ月前の帰宅時の状況のことを聞かれても、ルクス自身正確に覚えていない自信があった。
「ラファルトさんはその日出勤されていたんですか?」
「出勤はしていたと思います。最後のラークの姿を見て、昨日はあんなに元気だったのに、って思った記憶がありますので」
「なるほど。ありがとうございます」
ラファルトは目の前の突き当たりを左に曲がる。ルクスもそれに習うと、案内人は足を止めた。
「見えました。あれがラークの自宅です」
手で示されたその家は空色の屋根と肌色の壁で作られた、何処にでもありそうな小さめの一軒家だった。まだできて間もないのか、壁や天井の色がくすんでおらず、綺麗なままに見える。
「見た所まだ新しいですね。新築ですか?」
「この家、子供が出来て間もない頃に建てたんですよ。だから、築年数でいうと三年とか四年くらいになるんですかね」
築三、四年であればまだ十分新築といえるだろうなとルクスは思った。
「どうしますか? 一応案内は終わりましたけど、ラークの家に行かれますか?」
「いや、今日は控えておきます。案内していただきありがとうございました」
ルクスはラファルトにお礼を言うと、その場で別れる。
本音を言うとシーヌからも話を聞きたいことがあったが、今日この後にセイクスが来る為、聞き込みを行う前に事前にどこまで話していいかを確認した方がいいと判断した結果だった。
シーヌとは相談を持ちかけられて以来顔を合わせてない。最もそれも昨日の話なのだが、そのことに対する申し訳なさはもちろんある。しかし、支部との合同調査が始まり、自分の独断で今までの調査を報告するのも気が引けた。しかし、何一つ報告しないのも相談された側の人間として誠実さにかけるような気がする。後々聞き込みのために顔を合わせる必要が出て来たときに、事前にどこまで話していいかを確認しておいた方が結果として傷つけないのではないかと思った故の選択だった。
「さて、セイクスも来る事だし、さっさと支部に戻りますか・・・」
ルクスはラークの家を尻目に、支部に向かって歩き出した。
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