Chapter 1.25 デスクの中
Chapter 1.25
デスクの中
「ロイドさんの事はとりあえずリアに任せてください。あの男は信頼に足る男です。何かお伝えしたい事がありましたら自分の方から連絡しますので、遠慮なく仰ってください」
「すいません。色々とご迷惑をおかけしてしまって・・・」
「気にしないでください。昨日自分がかけた迷惑を考えれば安いものです」
そう言ってにこやかに笑いかける。
こういうときにこそ笑顔は大切だ。必要以上に真面目な表情や仕草は相手を萎縮させ、信頼関係の構築において阻害してしまう可能性がある。
ルクスはできるだけ笑顔を絶やさずに、明るい表情のまま会話を続けた。
「今日自分たちがこちらに伺ったのは、想像がついていると思いますがラークさんの件なんです。昨日ロイドさんと話した時にラークさんの職員登録書類を拝見させていただきました。その時は諸事情あり受け取れませんでしたので、今回はそれをお預かりしたいと思いまして」
「職員登録書類・・・ですか。それでしたらロイドさんのデスクの中に入っているかと思いますが・・・」
「一度拝見させていただいても?」
「大丈夫だと思います。ロイドから事前にお話は伺っています。もし自分がいないときに担当者が来たら渡しておくようにと言付かっておりますので」
受付嬢はそういうと、ポケットから一つの鍵を取り出した。
「その鍵は?」
「デスクの鍵です。スペアキーですけど、もしもの時のために代わりに対応するよう言われておりましたので、一時的に預かっているんです」
ルクスは深く知らなかったが、ロイドという人物は自分の部下のことを想像以上に信頼しているのだなと思った。普通であれば部下に自分のデスクのスペアキーを渡したりはしない。一つ間違えれば情報漏洩のリスクがあるからだ。少なくともロイドとこの受付嬢との間には確かな信頼があるのだなと感心した。
「少々お待ちください」
受付嬢はそういうと、ロイドのデスクに近づいた。ガチャリと棚の鍵を開ける音が響き、そのあとにガサゴソと中を弄る音が聞こえる。
−−−とりあえず、職員登録書類は回収できそうだ。
その事にルクスは安堵した。ロイドがいなくなり、もしかしたら当初の目的であった書類の回収もできなくなってしまったのではないかと不安に思っていたのだ。
現状、不可解なこの異変に対しての一番の手がかりはラークである。入院までの経緯の確認や職場での聞き込みもある程度終えており、数多くいる被害者の中でも一番多くの情報が集まっている。異変解決に向ける突破口としては最有力候補だった。
「あれ・・・?」
「どうかされましたか?」
ルクスは受付嬢の声に反応する。
「いや、あの、ちょっと待ってください」
受付嬢は少し焦ったような声を出すと再びガサゴソとデスクの棚を弄り始める。
ルクスはその姿を見て、言いようのない嫌な予感が胸をよぎった。
「ルクスさん、あの、その、すいません」
受付嬢がデスク越しにルクスに声をかける。そして、次の言葉をつなげた。
「職員登録書類が、無くなっています・・・」
ルクスの嫌な予感は的中した。
その後二人がかりで執務室中を捜索するが、昨日確かにこの目で見た、ラークの職員登録書類は一枚たりとも見つからず、一式全て紛失していた。
ルクスの胸中のざわめきが、当初あったものよりも遥かに大きく胎動し、その存在を主張する。
ルクスは正体のわからないこの異変に、わずかな恐怖心を感じ始めていた。
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