Chapter 1.24 異変
Chapter 1.24
異変
「ロイド・・・さん?」
思わず二度見をする。しかし、そこにいるのは紛れもなくロイドである。そのはずなのだが、昨日とはまるで違う雰囲気や生気の無い顔を見ると、まるで別人のように感じられたのだ。
「・・・申し訳ありません」
受付嬢の声が聞こえた。後ろを振り返ると、声の主は頭を下げたまま、説明を始めた。
「実は、今日出勤した時から、ロイドさん、このような状態でして。私たち職員の声にもまるで反応しないし、座っているだけで仕事は何もされていません」
「どういうことですか?」
リアが受付嬢の言葉に質問する。
「私達にもわかりません。昨日までいつも通りのロイドさんだったのに、今日来た時にはこのような状態で・・・。ラークさんの時とまるで同じ様な状態なんです」
「ラークさんの時と?」
「はい。本当は執務室にお通しするのも気が引けたのですが、ルクスさんはラークさんの件を調べていると昨日伺ったので、それで、そのう・・・」
「気を使っていただいたわけですね。ありがとうございます」
リアがそういうと、受付嬢はぺこりと頭を下げた。
「もしかしたら調査に役立つかもしれないと思って・・・ごめんなさい」
「いえ、こちらこそ申し訳ない。こんなときに顔を出してしまって」
リアはそう謝ると、ルクスに声をかける。
「ルクス、ロイドさんはどうだ?」
「ダメだ。いくら声をかけても返事してくれない」
ルクスは改めてロイドの顔を見る。呼吸をしているのは辛うじて分かるが、青白い表情に生気のない目。昨日受付嬢が話していた死んだ魚の目という表現が見事に的を射っていた。
「こんな状態で話を聞くなんて無理だ。とりあえず、病院に運んだ方がいいかもしれない。ここから近い病院は?」
「と、東部記念病院です」
東部記念病院であればルクスもリアも一度聞き込みで訪れており、道も分かる。となると救急車を呼ぶよりもこちらから向かった方が早い。
「車はありますか?」
「は、はい! すぐに用意します」
受付嬢はルクスの言葉に返事をすると、すぐに執務室の外に出た。
「ロイドさん、一緒に歩けますか?」
「・・・」
声掛けに対しての反応は何も得られない。立ち上がる様子や動き出そうとする雰囲気は一切感じられなかった。
クソ、とルクスは内心毒づくと、リアに顔を向けた。
「リア、ロイドさんを下に連れて行く。手伝ってくれ」
「わかった」
二人でロイドの両肩をかかえ、どうにか一階に連れて行く。
集会所のロビーを通るときはなかなか目立ってはいたが、そんなことを気にする暇はなかった。
集会所の外に出ると、そこにはすでに車が準備されており、受付嬢が車のそばで待ち構えていた。三人がかりでロイドを車の中に押し込むと、運転席にリアが座る。
「俺が病院に連れて行く」
「わかった。俺も行ったほうがいいか?」
「いや、病院には車椅子があるから大丈夫だろ。それよりロイドさんの家族に連絡頼む。あと、例の書類の件だけでも確認しておいてくれ」
例の書類というのは言わずもがな、ラークの職員登録書類のことだ。
「わかった。運転気をつけて」
リアは頷くと、車を発進させた。
それを見送ったルクスは、内心穏やかではなかった。
まさか自分と関わりのある人がこの異変の被害にあうとは思ってもいなかった。
昨日始めて会ったばかりで、ロイドとはそれほど親しい仲ではない。しかし、聞き込みを行った時点では何か問題があるようには全く感じられなかったのだ。
−−−一体何が起こってるってんだ。
ルクスは心の中でそう呟く。
この街で起きている異変が、想像よりもはるかに身近に存在する事を嫌でも感じさせられる。それはまるで、正体の見えない黒い影がカルーアというこの街を徐々に侵食しているかのようだった。
「あの、ありがとうございました」
不意に後ろからお礼の言葉が聞こえる。振り返ると、そこには受付嬢の姿があった。
その姿を見てルクスはふと我に帰る。
そうだ、こんな出来事があったとはいえ、立ち止まるわけにはいかない。
「いえ、お互いに大変でしたね。一度中に戻って、またお話伺ってもいいですか?」
「あ、はい。私でよろしければ」
ルクスは沈んだ心を振り立たせると、受付嬢とともに集会所内の執務室に再び戻る。
ロイドがいなくなったとはいえ、ここでやるべきことはまだ残っている。
ルクスはそう思い直すと、目の前に座った受付嬢に話しかけた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます