Chapter 1.19 クソガキと腹黒隠キャ野郎

Chapter 1.19


クソガキと腹黒隠キャ野郎


「カルーア支部の人たちが優しくて助かったな」

「お前は特にな、ルクス」

 ルクスとリアはそう軽口をかわす。

 ここはカルーア支部の仮眠室。情報の伝達を終えた二人はキルティスから泊まるところが決まっていないようなら仮眠室を使うように勧めてくれたのだ。

 多くの迷惑をかけた上に無償で支部の一室を貸し与えてくれる懐の大きさに、二人は心から感謝の意を伝えたのを覚えている。

「明日はどうする? リア」

「とりあえずまた聞き込みするしかないだろな。セイクスが言っていたように、カルーアのいくつかの病院と連絡を取って、訳のわからん現象がどこまで広がっているかを確認しねえと」

「だったら人手も少ないし、現地にいかないでも時計型通信端末レガリアで確認した方が早くないか?」

「そうだな。明日、カルーアにあるでかい病院を支部の人たちから聞いて、時計型通信端末レガリアで連絡取ってパパッと確認しよう。そんでその結果をセイクスに連絡して−−−」

「−−−ラークさんの通勤経路の調査だな」

 ルクスがリアの言葉を引き継いだ。

「ああ。そこで何が起こったのかを確認しないことには原因がわからないままだ。あとは入院することになった患者に何か共通点があるのかの確認とか、まあ、本当に色々だな」

「ねえ、待って。やっぱり四人でも手が回らなくない? 患者って今の時点で二十八人いるんだよ」

「・・・」

 ルクスの言葉にリアは押し黙る。

「黙るなよ」

「いや、仕方ねえだろ! 支部の人たちにもっと人員よこせなんて言えねえし、もうこれ以上どうしようもないんだっての! そもそもこれはお前が始めた事だろうが!」

「なんでキレんだよ! 別に責めてねえだろ!」

「うるせえよ! あの女の子に鼻の下伸ばしやがって! このクソガキが!」

「ああ!? おい! テメエ! テキトーな事言ってんじゃねえ! 腹黒隠キャ野郎!」

 わあわあぎゃあぎゃあと夜深い時間帯に喧嘩が勃発する。

 支部の仮眠室を借りている分際で騒々しくしていると、突如ルクスの時計型通信端末レガリアに通知を知らせる電子音が鳴り響く。

 喧嘩を一旦やめ、ルクスは時計型通信端末レガリアを手に取り誰からの連絡かを確認すると、そこにはセイクスと書かれていた。

『俺だ。連絡が遅くなってすまない』

「ああ、いや。こっちこそ、支部への連絡助かりました。ありがとうございます」

『お前から素直に礼を言われるのは気味が悪いが・・・』

「どういう事だよ」

 どいつもこいつも、とルクスは内心舌打ちをする。

『まあ、いい。こっちはカルーアに到着するのが明日の昼過ぎあたりになる。支部との協力は取り付けたか?』

「ああ。取り付けたけど、急な連絡だったから支部全体での協力は難しいって」

『問題ない。最初に支部に連絡した時に大規模な協力が難しいことは聞いている』

「え、じゃあ、なんか手があるの?」

『今それを調整中だ。とりあえず人手のことは気にしなくていいから安心しろ』

「わ、わかった」

『カルーア各地の病院からは話を聞けたのか?』

「それは明日することになった。仲間が少ないから時計型通信端末レガリア使って電話で確認するつもり」

『それでいい。明日カルーアにつき次第すぐに支部に向かう。その時に進捗状況を報告してくれ』

「了解」

 では明日、とセイクスの言葉を最後に通話は切れた。

「セイクスはなんて?」

 リアは真っ先にそう聞いてきた。

「なんか人手が足りないことは気にしなくていいってさ。調整中だって」

「調整って何を?」

「俺が知るかよ」

 ルクスはそう吐き捨てるとベッドに横になる。すると今まで身体の奥底にたまっていた疲れがどっと押し寄せてくる。

 本来今日は休日だったはずだ。それがよくわからないことに巻き込まれ、結局仕事を増やした結果になってしまった。やっていることは人助けで、人として正しいことをしたはずだ。それなのに、なぜか周りの仲間に迷惑をかけてしまう結果になってしまったことにどこか遣る瀬無さを感じる。

 もうこんなの嫌だ。次の休みは絶対に休んでやる。

 ルクスはそんなことを密かに誓うと、いつの間にやらその意識を手放していた−−−。

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