Chapter 1.18 協力要請
Chapter 1.18
協力要請
部屋に入り、まず目に入ったのは向かい合って置いてある二つのソファと、間に挟まれた長方形のテーブルだった。その奥にはキルティス専用と思われるデスクがある。
キルティスは二人をソファに座るよう促し、自身はデスク横に置いてあった棚からカップを取り出した。
「何か飲み物のご所望はおありですか?」
「ああ、いえ。自分たちは大丈夫です」
「でしたら紅茶を用意しますので、少々お待ちください」
キルティスは慣れた仕草でトレイの上にカップを置き、部屋の奥に姿を消すとすぐに湯気が湧いた紅茶を持って現れる。
「どうぞ、お召し上がりください」
キルティスはトレイの上に置かれたでカップをそれぞれの正面にゆっくりと置いていく。
リアはありがとうございます、とお礼の言葉を口にし、頭を下げた。それを見届けたキルティスはトレイをデスクの上に置き、向かいのソファに腰を下ろす。
するとリアは姿勢を正し、ゆっくりとした口調で話し始めた。
「まず先に、こちらからなんの連絡もせずに支部の管轄で勝手に動いてしまった件について謝罪させていただきます。本当に申し訳ありませんでした」
リアは申し訳なさそうに頭を下げる。
それを見たルクスは見習うように頭を下げる。
「事前に本部から連絡があったかもしれませんが、いまこのカルーアで不可解な現象が確認されています。その調査は私たち二人では困難を極めるというのが現状です。迷惑をかけているは重々承知していますが、何卒協力していただけないでしょうか」
頭を下げたまま、リアは支部に協力を要請する。
キルティスはその様子を見届けると、静かに一言口を開いた。
「ええ、わかりました」
「・・・え?」
思わず頭を上げ、支部長の顔を確認する。
「快く協力させていただきます。よろしくお願いします」
キルティスは明るい笑顔でそう告げた。
「よ、よろしいのですか?」
「ええ。実はあなたが仰られたように、先ほどセイクス管理官から連絡がきましてね。不可解な事案を“異変”と呼称し、事前連絡せずに調査している二人組がいるから、よろしく頼むとお願いされたのですよ。もちろん謝罪の言葉も入っていましたが」
やはりセイクスの仕事は早かったんだなとリアは実感する。自分たちの相談が終わったすぐ後にでも連絡したのだろう。リアはセイクスの仕事の早さに舌を巻いた。
「まず初めに言っておきますが、今回の件を知っている者は少数です。そして、その中に腹を立てている者はいませんのでご安心ください」
キルティスは二人の顔を交互に見据え、話を始めた。
「私はこの件であなた方二人を咎めようとは全く思っておりません。むしろ私たちが把握していない事件のような何かを発見してくれたことに感謝さえしているのです」
キルティスは笑顔のまま話を進める。
「ですのでどうか気に病まず、協力してこの件に望みましょう」
キルティスが深く頭を下げる。
それを見たリアは慌てて口を開く。
「ああ、いえ。頭を下げるのはこちらの方です。本当に申し訳ありませんでした。協力していただけることに感謝します」
「ええ。よろしくお願いします」
キルティスは顔を上げ、再びにっこりと笑った。
「では、そろそろ本題に入りましょうか。ああ、先に協力者をお呼びしましょう」
そう言うと、キルティスは入っていいですよ、と優しい声をドアに向けて放つ。するとドアがギィと軋む音をあげ、扉が開いた。
「し、失礼します」
儚げな声が部屋に響く。
部屋の入り口に顔を向けると、そこにはショートヘアの可愛げな女の子が部屋の中に入ってきた。
「彼女がこの件の協力者です」
「か、カルーア支部で
「あ、ああ。こちらこそ、よろしくお願いします」
カナデと名乗ったその女の子は若々しく、押せば簡単に倒れてしまいそうな、儚い雰囲気をまとっていた。
「か弱い雰囲気を感じさせてしまいますが、仕事には真摯に取り組んでくれますので、安心してください」
「よ、よろしくお願いします」
カナデはそう言って頭を下げる。
緊張しているのか、声の節々から頼りなさげな声が漏れてしまっている。ルクスから見た第一印象は、気弱な女の子というものだった。
そして可愛い。
「もちろん私も協力します。ですが申し訳ありません。なにぶん急な要請で、手が空いている者もいなかった為、人手を集めることができませんでした」
「いえ、二人も協力していただけるのであれば十分です。ありがとうございます」
「そう言っていただけると助かります。では、まずはお二人が集めた情報がどのようなものか確認させていただいてもよろしいでしょうか?」
その言葉を聞いたリアがルクスの方に顔を向ける。
完全に蚊帳の外だったルクスはその視線に気づくと、リアは目線でこう指示をする。
お前の方から話した方がいい、と。
ルクスはそれに諾き、一度表情を落ち着かせる。
「では、まずは自分の方から話させて頂きます−−−」
ルクスは一言そういうと、今までの聞き込みで得たものについて説明を始めた。
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