Chapter 1.11 書類

Chapter 1.11


書類


 ロイドの案内のおかげで厨房の同僚からも話を聞くことが出来たが、内容は執務室で聞いた内容とかわりないものだった。

 そこまで聞き込みをしたルクスはうーんと頭を捻る。

 これまで聞いた話を統合すると、ラークの身に異変が生じたのは最終出勤日前日の職場から自宅への道中ということになる。それはシーヌの話と一致しており、ここの者達が嘘をついている可能性は低く感じられる。

 そうなると次に確認するべきことが何かは明白だった。

 厨房から執務室に戻ったルクスは目の前のロイドに質問する。

「ラークさんの最終出勤日と通勤経路はわかりますか?」

「ええ、わかりますよ。少々お待ちください」

 ロイドは執務室奥にあるデスクの棚をガサゴソと漁り、一冊のファイルを取り出す。そしてそのファイルを開き、目的のものがあることを確認すると、ソファ前のテーブルにゆっくりと置いた。

「まずはラークの最終出勤日ですが、五月二十日ですね。五月は勤務日変更の申し入れがなかったはずなので、ラークが休職するまではこの勤務表通りに働いていたはずです」

 ロイドはそう言いながらファイルに挟まっていた書類の一枚をルクスに渡す。それは職員のシフト表で、ラークはもちろん、それ以外の職員の勤務日や休日も記載されていた。

 このシフト表通りに勤務していればラークの最終出勤日はロイドの言っていた通り五月二十日であり、ラークの身に何かが起こったとされる日はその前日の五月十九日ということになる。

「そしてこれはラークの職員登録書です。ここには彼の住所や家族構成、通勤経路も含めて全ての個人情報が記載されています」

 そう言ってロイドは数枚の書類をルクスが見やすい向きに変え、テーブルの上に置いた。

 ルクスは置かれた書類を確認する。そこにはロイドが言っていた通り、ラークに関する情報が二枚に渡って記載されている。ルクスはその中の通勤経路を記載する項目に目を向けた。

「必要なら書類全て持って行かれますか?」

「ああ、いえ。持って行きたいのは山々なのですが、あいにくと仕事で来ているわけではないので、今日のところは遠慮しておきます」

 ルクスは苦笑いを浮かべながら丁重に断る。

 本来、非番の日にここまで話を聞くことや書類を見ることはご法度である。職権乱用と言われても文句は言えない。セイクスにバレたら怒りの雷が下るのは目に見えていた。

「後日、必要だと判断したら担当の者が受け取りにきます。それまで厳重に保管していただくと助かります」

 そう言って書類をロイドの手元に戻す。

 仕事で来ているわけではない為、個人情報をメモすることも許されない。自分の記憶の中に刻み込むしか今の所手がなかった。

「わかりました。それまで私が責任を持ってお預かりしましょう」

 ロイドはルクスの対応に軽く笑い、書類を戻すとファイルを閉じる。そしてデスクの元々あった棚の中にそれを戻すと、ガチャリと鍵をかけた。

「どうですか? 何かわかったことはありましたか?」

「ええ、色々と話を聞けて助かりました。本当にありがとうございます」

 そういってルクスは頭を下げる。

 結果として、職場環境や人間関係に問題があるとは思えないというのがルクスの結論だった。また、シーヌとこの職場とで話に矛盾がないとわかったのも大きな収穫だとルクスは考えるようにした。

「また何か確認したい事がありましたらいつでもお越しください。こちらからも何か気づいた点があれば連絡しますので」

「助かります。突然の訪問でご迷惑をおかけしました。また伺うかもしれませんが、その時はよろしくお願いします」

 そういってルクスは深々とお辞儀をし、集会所の面々と別れることとなった。

 非番の日に集会所で聞き込みしているなんて事がセイクスにバレたら、さぞかし激昂するんだろうなと思いに耽る。

 そう思っていると、時計型通信端末レガリアから着信音がなった。表示をみるとリアからだった。

 ちょうどいいと思いつつ通話ボタンを押す。

「お疲れ。ちょうどこっちは聞き込みが終わったところだ。そっちは?」

『こっちはまだ途中だが、ちょっと話しておきたい事があってな』

 なぜかリアの口調が重いように感じる。通話越しに後頭部をぽりぽりと掻くリアの姿が目に浮かんだ。困ったらそうするのがリアの癖なのだ。

「何か収穫があったのか?」

『いや、まだわからねえ。だがもしかしたらこの件、相当面倒臭い事になるかもしれねえ』

 電話越しのリアの声は、どこか重い雰囲気を感じさせた。

「どうした? 何かわかったのか?」

『会って直接話した方がいい。お前もこっちにきてくれ。病院の入り口で待ってる。できるだけ早めに頼むな』

 その言葉を最後に通話が切れる。

 リアが言う面倒臭い事。それが何かわからなかったが、ルクスの胸中は少しだけざわつき始めていた。

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