Chapter 1.5 同僚

Chapter 1.5


同僚


身支度を整えたルクスは王都カルトラの駅にたどり着いていた。ここから列車に三十分もの間乗っていれば、同僚との待ち合わせであるカルーアに到着する。

 列車の窓から外の景色を見る。それはのどかなものであったが、所々にかつて大きな争いがあること感じさせた。

 争い−−−そう、今から約十年前に、戦争があった。

 この世界には二つの大陸がある。人間が住まうテリネジア大陸と、獣人が住まうフォロイゾン大陸。その二つの大陸の王たちが、十年前に全面戦争を起こしたのだ。

 もともと互いが互いを薄汚い生物と忌み嫌っており、何百年もの間冷戦状態だったが、テリネジア大陸の先代国王が死去し、現国王となってから状況が変わった。

 とあるきっかけが原因で、戦争は始まった。世界対立大戦と後に呼ばれるようになるそれは終焉までに一年はかからなかったが、その間に数えきれぬ被害を出した。

結果はテリネジア側の勝利。フォロイゾン大陸に住まう獣人たちは敗北者となり、あらゆる権利を剥奪され、人間の奴隷へと成り下がった。そして獣人たちが復讐をしないように、例えしても制圧できるように、国家治安維持機構としてグレイモヤが誕生した。

 戦争が終わって十年。それだけの月日が経っても戦争によって失ったものは多く、傷跡は完全に癒えてはいない。

 人生の伴侶や愛の結晶を失った人。大切な何かを壊された人。それらは元の形に戻ることなく、今でも多くの人々を苦しめている。

 当時は少年だったルクスも今では青年となり、遂行者オフェンサーとして働いてはいる。しかし、両親は戦争で喪失し、自分とリイナを命がけで救ってくれた親友は今でも行方がわかっていない。

 −−−アイツ、今どこにいるのかな。

 今はいない親友の顔を思い浮かべる。

 そんな事に思いを馳せるのは今朝見た夢が後を引きずっているからだろうか。

 そんな事を考えていると三十分はあっという間に過ぎ、気がつけば目的の駅に到着していた。

 列車から下車し、ルクスは待ち合わせである駅の入り口に歩みを進める。

「よお。お仕事お疲れ」

 そこには赤い髪を逆立て、薄緑色の瞳を持つ見知った顔の同僚の姿があった。

「リアもな。相変わらず元気そうだな」

 ルクスの同僚−−−リアはいつも通り呑気な雰囲気を醸し出しながらゆっくりルクスに近づいてくる。

 リアとルクスは年齢が同じ同期で、遂行者オフェンサーの中では一番互いを分かり合える仲間だった。

「当たり前よ。そういや、セイクスから聞いたぜ。黒目録ブラックリスト関連の仕事を終わらせたんだろ? すげえじゃねえか」

「いつ聞いたんだよ、それ」

「昨日仕事終わりの報告をしに、本部に戻った時にちょろっとな」

 なるほど。おそらく自分が情報中枢端末ウィズデムに入力している時間帯あたりにリアが本部に来たのだろうなと勝手な推測を立てる。

「ついでにお前が今日休みって聞いたから俺だけでもお祝いしてやろうと思って」

「ああ、そういうことか」

 ルクスはリアの言葉に納得する。

遂行者オフェンサー同士休みが合うのも珍しいからな。久しぶりに会いたかったし、お前が来てくれてよかった」

「じゃあ、今日はリアの奢りだな。俺に何を奢ってくれるんだ?」

「任せろ。金は出さねえが、今日はでかい仕事を終わらせたお前のために、俺が一肌脱いでやるよ」

 おごってくれねえのかよこの野郎、と心の中で悪態をつく。

「で? 一体何をしてくれるんだ?」

「リイナちゃんへのプレゼント選びを一緒に考えてやる」

 ニヤリとリアの口角が上がる。

「・・・頼んでないけど」

「余計なお世話ってやつだよ。いつまで経っても進展しねえ二人の仲を後押ししてやろうってんだ。いい案だろ?」

「いや、ちげえよ。俺とリイナはそんなんじゃないって」

「じゃあ、普段からお世話になっている幼馴染に向けてのプレゼント選びってことで」

「本当に余計なお世話だな・・・」

 ルクスは小さく呟く。あえてリアに聞こえるように言ったつもりだったが、当の本人はそんな事を全く意に介していなかった。

「そういや飯は食ったか?」

「いや、まだ何も」

 そういえば朝起きてからまだ何も食べていない。今朝見た夢について色々考えていたせいか、空腹もそれほど気にならなかったのだ。

「じゃあまずは腹ごしらえからだな。そこら辺にある店でなんか適当に食いながら、プレゼントについて考えようや」

 リアはそう言って駅の出口に向けて歩みを進める。

 リアの提案は正直、余計なお世話ではあったが、確かにリイナには普段から頼りにしてばかりの部分はある。実際、仕事で本部にいないことが多いルクスの代わりに、リイナが親友に関する情報を集めてくれているのだ。そういった今までの感謝の意を込めてプレゼントを買うというのは別に悪いことではない気がした。

 −−−たまにはこういうのも良いかもな。

 ルクスはそう思いながら、リアの背中を追い始めた。

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