Chapter 1.4 夢

Chapter 1.4



「・・・なんだ、夢か」

 重い頭を無理やり持ち上げ、ルクスは体を起こす。

 随分とリアルな夢だった。今から約十年前の出来事を詳細に思い出させてくれる。

 ルクスはベッドから立ち上がり、部屋のカーテンを開け、朝日を浴びる。

 この夢を見るのはこれが初めてではない。

 まるでそれは警告するかのように、あの出来事を忘れるなと言わんばかりに何度も夢に現れては水泡のように消えていく。

「別に忘れたわけじゃないんだけどな・・・」

 そう呟き、頭の裏をガリガリと掻く。

 そう、忘れていたわけではない。あの時助けてくれた親友の存在は今でも鮮明に覚えている。あれから離れ離れになり、自分とリイナはあれから必死で逃げ続け、セイクスに保護され今生きている。

 リイナと共にグレイモヤに入ったのは、セイクスがルクスにその才能がある事を見出し、親友を探すことに個人的に協力すると約束してくれたからだ。そして、自分を救ってくれた親友のように、自分も誰かを救える人間になりたいと思ったからだった。

 しかし、戦争が終わって十年が経った今においても、親友の情報は何一つとして手に入っていなかった。親友の似顔絵をセイクスの親しい監察者オブセクターに握らせ、仕事の中で似た人物がいた場合知らせるようにお願いしているが、未だに新しい情報は得られていない。

 −−−もしかして、もうこの世にいないんじゃないか。

 そんな想像が頭をよぎる。現実的に考えて、その可能性が高いのは事実だった。

 自分が経験したからこそわかってしまう。あの激しい戦禍の中で、力のない少年が一人で生き延びるのが難しいことを。

 −−−いや、そんなことはない。やめろ、悪い方向に考えるな。

 ルクスは想像を振り払うように頭を振るう。ついでに眠気も覚めたようだ。

 ルクスはベッドサイドテーブルに置いてある腕時計を手に取り左手首に巻くと、洗面所に向かい、顔を洗い歯を磨く。

 いつもの朝のルーティーンだ。

 一通りの朝の行為を行うと時計を起動させ右手で操作する。

 この時計は時計型通信端末レガリアといい、グレイモヤ組織員全員に漏れ無く支給される通信機だ。時計としての機能とともに通信機能を持ち合わせており、仕事の連絡もこの時計型通信端末レガリアを通して行われることが多い。

 今日は休日で仕事の呼び出しも特に気にする必要はないのだが、いつの間にか朝のルーティーンの中に時計型通信端末レガリアに仕事の連絡が来ているかの確認も含まれるようになっていた。

 別にそんなに仕事熱心なわけではないんだけど、と心の中で言い訳のようなものを呟きながら目の前に現れたディスプレイ画面を操作する。その画面の左上には六月二十八日と今日の日付が表示され、その下には時計型通信端末レガリアの標準機能である通話やメール機能を搭載したアプリがデスクトップに置かれている。

「まあ、今日は休みだし、特に何も−−−ん?」

 職場のとある同僚から、気になる連絡が入っていることに気づく。

 疑問に思いながら連絡内容を確認する。

 表示されたディスプレイにはこのように記載されていた。

『カルーアにて待つ。でかい仕事が終わったんだろ? たまには遊ぼーぜ』

 随分と気の抜けるような内容だ。

 待ち合わせ時間も書いておらず、場所もかなり大雑把な内容だ。

 カルーアとは王都カルトラから列車で三十分ほど揺られた場所にある、いわゆる商業都市と言われる街だ。それは王都と比べても遜色ない大きさで、貿易や商売の中心都市として名を馳せている大都市である。

「・・・今から行くか」

 ルクスは一人そう呟く。

 今日は特に予定はない。せっかく大きな仕事が終わったのに一人で部屋にこもるのもなんだか癪だった。自分がいない間、親友に関する情報が何も手に入っていないというのもあり、今は少し気を紛らわせたかった。

『今から二時間後にカルーアの東区にある駅に集合で』

 おもむろにそう返信を打つと、同僚からの返事はすぐに来た。

『了解。寝坊すんなよ?』

 もう起きてんだよなぁ、と心の中でそう答える。

 少しくらいは息抜きしてもいいかな−−−

 ルクスは思わず笑みをこぼした。

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