第3話 望まない繋がり
「五月蝿いっ!!」
そんな女性の声と共に勢い良く開いた扉が、僕の顔面に激突し、吹っ飛ばされる。
ぐらりと意識が遠のく最中、見えたのは、年季の入ったジャージ姿のだらしない女性の姿だった…
意識を失い、夢の世界に旅立った僕は、昨夜と同様に、不可思議な夢を見たのだが、それはさておき、僕の意識が無くなっている間、僕の家庭環境を説明しておこう。
そこそこボロいこの家は、僕の現在の自宅である。ここは、母の実家であり、僕が八歳の時に病気で父が亡くなって以降、母とふたりで身を寄せている。最初は祖父も祖母もいたのだが、祖母が六年前に亡くなり、その後を追うように、祖父も数か月後に亡くなってしまった。
それ以来、母は女手一つで僕を育ててくれていたのだが、祖父母が亡くなった一年後、奴が現れた。
母と一回り歳の離れた妹、僕にとっては叔母となる人物の帰還である。
とある理由で勘当され、実家を出された叔母は、祖父母の訃報を何処かで聞き、戻ってきてしまったのだ。
勘当されていたとはいえ、血の繋がった妹であり、歳が離れていたこともあり、専門学校を卒業したばかりの叔母を、生まれた時から可愛がっていた母は、何も言わずに叔母を受け入れた…そう、受け入れてしまったのだ。
そんな人物が居候している我が家。夜の仕事をしている母は現在不在ではあるが、奴がいる以上、絶対にこの異世界からやって来た魔女を我が家に招き入れることは避けたかったのだが…
扉に頭を打ち付け、気絶していた僕が起きた時、
「これ、なかなか美味しいわね…」
お上品に、カップ麵をフォークで巻きながら食べる少女。そして、
「金髪幼女…創作意欲が掻き立てられるねぇ…」
そんな少女を眺めながら、ニヤニヤとする叔母の姿があった。
いや、なに平然と受け入れてるの?大分ヤバい奴だよ、その女。
再び見たあの夢は、より鮮明になっていたのだが…もしそれが本当なら、彼女はヤバいどころじゃないし、そうじゃなくても、数多の超能力者達を殺しておきながら、当然の如く僕を殺すと脅迫(実際にそう出来ると証明していた)する奴であり、ヤバい奴には違いない。
「いや、なにしてんの!!このバカ!!」
僕は叔母に怒鳴った。
「ようやく起きたの?全く、あの程度で気絶するなんて、この世界の中間層は貧弱なのね。」
目覚めた僕を見て、そう呆れた様に言う幼女と、
「誰がバカだ!!この発情期!!」
とご立腹な叔母。どっちも低身長に凹凸のない断崖絶壁な、幼児体型なのだが…
どっちも幼児という年齢ではないんだ…
僕が見たあの不思議な夢が本当なら、幼児にしか見えないこの恐ろしい少女は、僕と同い年という事になる。
それはそれで衝撃の事実なのだが、そんなことはどうでもいい!!それ以上に僕には許せないことがある。
「なんで…なんでお前なんだ!!なんであのオッパイが大きい魔女じゃないんだよ!!」
魂の叫び。あの夢に出てきたのは、如何にもな戦士風の男や神官、魔法使い。そして勇者とその家族と思われる娘、それが目の前の少女。そんな中で最も僕の記憶に残るのは、魔法使い。
扇情的な衣装に、溢れんばかりの巨大なバスト。エロスがエロい服を着ているという表現しか出来ない、とってもエロいお姉様だった。あんなエロいお姉様が異世界転生してきて、僕に大人のあれやこれやを教えてくれる。そんな世界もあったかもしれないのに…
なんで僕の前に現れたのは、凶暴な幼児体型の同級生なんだ!!
「チェンジ!!あのエロいお姉さんにチェンジ!!…畜生!!なんで変わらないんだ!!」
どんなに魂を込めて念じても、目の前の現実は変わらない。
「…殺す。…絶対に殺す!!」
ゴォッ!!と殺気が周囲を包み、地響きが起こる。
「待った!!暴力反対!!」
「殺す!!絶対に殺してやるんだから!!」
ビュン!!と左肩に衝撃が奔る。
…アレ?僕の左腕が…無い!!認識すると同時に、強烈な痛みが僕を襲う。
「ッァアアアーーー!!」
焼ける様な痛みに、涙がボロボロと出てくるし、立つことさえ出来ず、無様に床に転げ、のたうち回る。
このまま殺されるのか、そういう恐怖しかもう僕には残っていない。
ああ、次の一撃で殺されるんだ…そう思った。
「ッァ~!!なんで!?なんでなのよ!!」
左肩を抑え、痛みにのたうち回る少女。彼女が右手で押えている箇所は、僕の切断された左肩と同じ箇所だ。
「なんで!?ヒールが効かないのよ!!…まさか!?」
バカでかい木の杖を何処からともなく取り出した彼女が己に青い光を当てているが、痛みは全く取れないらしい。
「死ね!!死ねぇ!!」
そんな彼女は、殺意満載で僕に向け青い光を放つ。
「ギャーッ!!…アレ?生きてる。というより、左腕が戻ってる!?」
殺されたと思ったのに、痛みが無くなるどころか、さよならした筈の左腕が戻って来てる。ごめんよ、もう二度と離さないからね、僕の左腕。
失って初めて気付く大切さ。それを痛い程分からせてくれた僕の左腕を、大切に撫でる。…本当に痛い程分かったよ。というより痛すぎた。
しかし、あれ程の大怪我が一瞬で治り、痛みもないとは…床や服を赤く染めていた血液も綺麗さっぱり元の姿になっている。
「えっ!?何!?何事!?」
状況がさっぱり分かっていない叔母は、パニック状態で腰を抜かしている。
「煩い!!黙りなさい!!」
少女は、デッカイ杖を叔母に向け、閃光を放つ。ギャッと一瞬叫んだ後、床に仰向けに倒れ、動かなくなる叔母。
「ちょっ!?叔母さん!!」
流石に身内が目の前で動かなくなる光景はショックが大きい。咄嗟に駆け寄ろうとした。
「殺してないわ、気絶させただけ。まあ、起きた時に直近の記憶は消し飛んでるでしょうけど。」
少女は、ギロリと、不機嫌そうというより、殺意剥き出しな目で僕を睨みつけてそう言う。そして、ズンズンと僕に詰め寄り…
「「痛ったぁーーっ!!」」
デッカイ杖を僕にフルスイングした。
床をのた打ち回る僕、と何故か同じ様にのた打つ少女、いや何で?
「何すんだよ!!」
床を転げながらそう叫ぶ。
「煩い黙りなさいよ!!ああ!!もう!!いつよ、いつアンタなんかと繋がっちゃったのよ!!」
同じく床を転げ回りながら叫ぶ少女。いや、全く意味が分からないんですが…
これが、僕と、この異世界からやって来た魔女の両者が全く望まない、切っても切れない呪われた日々の始まりだった。
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