第6話 冬休み2日目の朝

 今日からロマノ大学も冬休みだ。

つまり、父親は書斎にお籠りする気満々だね。

 明日は苦手な姉達が来るから、今日はきっと書斎から出てこないだろう。


 私は、朝早く起きて、馬の王メアラスに会いに行く。

「おはよう!」

 サンダーとジニーは、もう餌をやり終わっていた。

「ブヒヒン!」走りたい!

 やっぱりね! 昨日は低い障害を飛んだだけだもの。

「もう少ししたら、パーシー様が来られるわ」

 昨日は、弟達と過ごしたかったし、パーシバルも色々と雑用がありそうだから、会わなかった。

 寮で毎日会っていたから、少し会えないだけで寂しい。


 タイミングよく、パーシバルがやってきた。

「おはようございます」

 ああ、やはり会えて嬉しい!

「おはようございます」

 こんな挨拶だけでも、テンションが上がるよ。

「丁度、良かったわ! 馬の王メアラスが走りたいと我儘を言っていたの。私は公園で走らせたら良いと思っていたけど、第一騎士団の馬場でとガブリエル様が言われたのですって」

 パーシバルは、サンダーに確認している。

「やはり、まだ馬の王メアラスをデーン王国は諦め切れていないから、当分は第一騎士団の馬場の方が安全かもしれませんね」

 それは、そうかもしれないけど、そこに行く道中はどうなの?

「グレンジャー子爵家から、王宮までは近いし、そこで無体な真似はしませんよ。上級貴族の屋敷の前ですからね」

 私も行こうか悩むけど、馬の王メアラスは全力疾走したいと言うからやめておく。


「パーシー様、大丈夫ですか?」

 第一騎士団の馬場だなんて、騎士になりたかったパーシバルにとってはキツいんじゃないかな?

馬の王メアラスとひとっ走りしてくるだけですよ」

 それに警備の2人がついて行く。

「帰って来られたら、オルゴール体操を一緒にしましょう」

 メアリーが、変な顔をしている。貴公子のパーシバルに、あのヘンテコな体操をさせるのかと文句をつけたいみたい。

「それは、楽しみです!」


 パーシバルを見送って、屋敷に入る。

「多分、1時間は帰って来られないわ。メアリー、お針子達は大丈夫かしら?」

 昨日は、フラフラだったから、顔を見ただけだ。

「ええ、食事と上級回復薬と温かなベッドで、かなり回復しています。明後日、ご挨拶させます」

 いや、無理しちゃ駄目だよ。

「私も旅行の準備で忙しいから、帰ってから挨拶を受けるわ」

 メアリーが少しホッとしている。マナーを仕込む暇ができたと思っているのだろう。

「それと、昨夜と今朝早くからワイヤットとグレアムが身元調査して、問題ないと言っていました。私も失念していましたが、雇うのに身元調査もしなかったのは良くないですね」

「ええ、この件は反省する点が多いわ。でも……今度からは、もっと慎重に考えなくてはいけないわね」

 メアリーが「そうして下さい」と頷く。


 やりたい事は、エバ関係なんだけど、台所に行けないのが、やはり面倒臭い。

 でも、使用人の数も増えたし、私が台所に顔を出すと、皆、手を止めてしまうから、やはり自重する必要があるのも確かだ。

 だから、工房にエバを呼ぶ。


「お嬢様、あのホワイトチョコレートをドライいちごに掛けたのは、素晴らしいですね!」

 お皿に何個か見本を持って来たので、1個食べる。

「ああ、美味しいわ。やはり、いちごにはホワイトチョコだと思ったの」

 メアリーにも1個試食させる。

「まぁ、甘酸っぱくて美味しいですわ」

 好評で良かった!


「今回の新作チョコよ。それと、あのチョコレートスプレーを丸めたチョコに塗しても可愛いと思うわ」

 それと、新作チョコはもう2つ考えていたのだ。

「ホワイトチョコレートに食紅を混ぜて、ピンク色にしたのを、このバラの型に入れるの。中には、バラのジャムをゼリーにして詰めたら良いと思うわ」

 レシピを渡すと、エバが嬉しそうに笑う。


「もう1つもホワイトチョコに食紅を入れて、赤にするの。ホワイトチョコをハートの型に入れて固めたら、その上から赤のホワイトチョコで包むのよ」

 これは、バレンタインデーチョコでよく見たハートチョコだ。


 こちらには、バレンタインデーは無いけど、新年にはパーティをしたりして、贈り物をする人もいる。

 今まで、グレンジャー家は、そんな習慣なんか無縁だったけどね。

 私は、パーシバルにあげよう! 勿論、弟達にもね! 父親にもあげようかな?


「お嬢様、4個も新作チョコを一気に出されて良いのですか?」

 あれ? そうか、ホワイトチョコいちご、チョコスプレー、バラ、ハート!

「そうね! 2個にしようかしら? 新作を作るタイミングは、エバに任せるわ」

 いきなりチョコレートの中身がガラッと変わるより、少しずつの方が楽しいかな?


「今日の昼からは、エリザベス様とアビゲイル様がいらっしゃるの。チョコレートをお土産に持って帰って貰うつもりよ」

 それは、喜ばれるだろうと、メアリーもエバも頷く。


「ドレスについて、お話ししながら、お茶も飲みたいから、かなり長時間になると思うの。お茶菓子は何が良いかしら?」

 普通の訪問は1時間から2時間までだけど、長くなりそうな予感!


「一度に出さず、何回かタイミングをはかって、お出しした方が良さそうですね」

 それと、甘い物ばかりでは飽きそう。前世ならポテチがあったけど、フライドポテトは重いよね。


「プチサンドイッチをスイーツと一緒に……そうだわ、アフタヌーンティーよ!」

 ちょっと贅沢な気分になれるアフタヌーンティー、好きだったのに忘れていた。

「エバ、同じ柄の大、中、小のお皿はある? 白の無地でも良いわ」

 

 エバが持って来たのは、白いお皿に銀色の縁取りがあるお皿だった。

「どうされるのですか?」

 サッと書いたスケッチを見せる。

「このアフタヌーンティースタンドに皿を置いて出すのよ。1番下のお皿には、プチサンドイッチやミニキッシュ、2番目はプチケーキ、3番目は焼き菓子。チョコでも良いわ」

 エバは、何を作ろうかと、もう考えている。


 私は、錬金釜に鉄を溶かして、小さな錬金釜には銀を溶かす。

「アフタヌーンティースタンドになれ!」

 鉄のアフタヌーンティースタンドを、5個作る。

「銀メッキ!」で、薄く銀がメッキされた。


「お皿をセットしてみましょう!」

 大、中、小のお皿を置くと、アフタヌーンティーらしくなったよ。

 あんなに細密画の内職をしたのに、家のはシンプルなままだったね。

 でも、変にごちゃごちゃした柄より、銀の縁だけの方が好きだ。


 昨夜は、貧しい暮らしをしている女の子達の事を考え、ドレスだとかチョコだとか贅沢だと反省した。

 でも、経済を回す必要もあるのだと、割り切ることにしたのだ。

 ロマノ中の貧しい女の子を助けるのは、今は無理だけど、新しいドレスを作って、ファッションを変えていきたい。


 それに、ミシンが増産できるようになり、機械織機ができたら、繊維産業を興して、女の子の働く場所を提供したいのだ。

 その時は、寮もちゃんとしたのを建てるつもり。


「先ずは、一歩ずつだわ! シャーロッテ伯母様から買った布地を綺麗に陳列したい」

 前世の生地屋さんでは、同じ型の紙の薄い長方形の芯に布を巻いて、立てて陳列していた。


 カルディナ街の生地屋さんは、どんどん積み上げてあって、店員さんに引き出して貰わないといけなかった。

 生地の山の横から見て、この色! と思っても、引っ張り出して貰ったら、ちょっと違う感じがした事もあったんだ。

 それに、ドレスにするなら、身に纏ってみた方が良いと思う。

 同じ、青でも、自分に似合う青と、なんだか顔色が悪く見える青があるんだもん。


「麻、絹、毛織物、レースをパッと見て、選べるようにしたいわ。でも、生地をずっと応接室に置いておくわけにはいかないから、運び易くするコマが必要ね!」

 普通の棚にコマをつけただけでも良いけど、少しお洒落にしたい。

 埃除けの布を掛けておくのは、なんかダサいんだもの。


「移動式の戸棚っぽくしようかしら?」

 土台は金属で作るけど、周りを木で囲いたい。

「木材は……無いわね!」

 知育玩具などの小物を作る木材はあるけど、棚は無理そう。

 今日の所は、金属の棚と、同じ大きさの長方形の芯を作ることにする。


「チョコレートの箱を作っていた時の厚紙はあるけど、勿体無いわね。プラスチック擬きにしましょう」

 あれなら、スライム粉、珪砂、巨大毒蛙のネバネバでできるからね。

 生地の幅は決まっている。まだ手織りだから、狭いんだ。要改善だよ!

 芯を何個も作って、棚も作った。


 後は、マリーとモリーに生地を巻いて貰う。

「まぁ、とても綺麗で、生地を選びやすいですわ」

 メアリーも手伝ってくれたし、生地はまだそんなに多く無いから、すぐに並べ終えた。

「黒は、乗馬服用なの。後は、シャーロッテ伯母様がお勧めの令嬢に相応しい生地だけど……もっとパッとした色が欲しいわ! カルディナ街の生地屋さんのはダメかしら?」


 メアリーは難しい顔をする。

「小物なら宜しいですが、派手になりすぎるのでは?」

 そうかな? これは、エリザベスに相談してみよう。

「小物の為でも、カルディナの生地を並べましょう!」

 この前、何色かどっさりと買ったのは、ドレスに使えないかと思ったからなんだ。


 真っ赤とかは避けて、鮮やかなブルー、濃い青、濃い緑、コーラルピンク、鮮やかな紫にした。

 芯に巻いて、それをスタンドに並べると、パッと華やかになった。

「少し、生地が薄い気がします」

 つまり、貴族の令嬢のドレスに相応しく無いとメアリーは感じるみたい。

「デザイン次第だと思うわ。兎に角、エリザベス様とアビゲイル様に相談してみるわ!」

 どうやら、パーシバルが帰って来たみたいなので、馬房に行かなきゃ!

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