第7話 パーシバルと一緒

 馬の王メアラスと運動して来たパーシバルを出迎える。

「寒かったでしょう!」

 1時間ぐらいかな? と思っていたのに、2時間は帰って来なかった。

「いえ、爽快な気分です」

 確かに、疲れてはいなさそう。


「弟達も起きたので、オルゴール体操をしましょう」

 メアリーに回して貰いながら、オルゴール体操をする。

「深呼吸する時に、お腹のここに魔素を取り込む感じにして下さい」

 パーシバルのお腹は触らないよ。自分のお腹、丹田あたりを触って教える。

 

 パーシバルは、私や弟達やカミュ先生のを見ながら、スムーズに身体を動かす。

 やはり、運動神経が良いね!


「魔素を取り込むのが、できたでしょうか?」

 音楽が終わった後、深呼吸して、魔素の取り込み方を練習する。

「腹式呼吸の要領なのです。太陽光線の中の魔素を、呼吸して、丹田に溜める感じですよ」

 何回も繰り返しているうちに、コツを掴んだみたい。

「何となくできた気がします」


「後は、毎日、練習を続けたら良いのです。さぁ、朝食にしましょう!」

 パーシバルは、朝食まではと遠慮したけど、領地の屋敷に泊めて貰うのだ。

 朝食には、父親もいたけど、昨夜から読書三昧していたみたいで、眠たそう。

 一応、パーシバルと挨拶はしていたけど、食べ終わると書斎に籠る。


「後で、剣の練習をして下さい!」

 ヘンリーは、そうパーシバルに頼んで、ナシウスと子供部屋で勉強だ。

「旅行に行くなら、それまでは勉強を頑張りましょう」とカミュ先生に言われていたよ。

 

 私とパーシバルは応接室で、お話しする。

「昨日、急にグレンジャー家には使用人が増えましたの」

 サンダーやジニーは、正式には使用人ではない。それは、パーシバルも知っている。

「警備の人が8人も増えましたからね」

 そう、それだけで10人増えたんだよ。

「お針子を7人雇うことになりましたの」

 パーシバルが怪訝な顔をする。


「確かに、グレンジャー家には使用人が少ないですが、お針子は前から2人いたのでは? 9人は多い気がします」

 マリーとモリーを雇った時、パーシバルは一緒だったから、覚えているよね。


「今日の昼からは、エリザベス様とアビゲイル様がいらっしゃるのです。新しいドレスについてお喋りしますの」

 パーシバルは、ピンときたみたい。

「令嬢方のドレスを縫うのですね。それでも、9人は多いのでは?」


 下女とメイドの教育もするつもりだけど、一気に増やしすぎでは? と疑問を持つパーシバルに経緯を説明する。

「ペイシェンス、それはとても心優しい行いですが、ロマノ中の貧しい女の子を雇う事はできませんよ」

 それは、わかっているつもり。


「ええ、偽善っぽくて嫌になりますが、困っていると聞いたら、そのままにはしておけなくて……ワイヤットにも叱られましたわ。急いで身元調査をしてくれましたけど、今度からは事前に話さなくてはいけませんね」

 パーシバルが抱き寄せてくれた。

「今回は問題がなくて良かったです。でも、衝動的に決めてはいけませんよ」

 そうなんだけど……寒さと飢えに震える辛さは知っているから。


「昨夜は、チョコレートやドレスなんて贅沢な事を考えているのはいけない気になりました」

 パーシバルが心配そうに私の顔を見つめている。

「その気持ちは理解できますが、私達、貴族がするべき事は、もっと全体を考えて行動する事です」

 そうなんだよね。


「今は、目の前の7人しか助ける力はありません。でも、機械織布を作ったり、ミシンを増産して、繊維産業を活性化させようと考えています。大勢の女の子の働く場を作りたいの」

 パーシバルが抱きしめて、笑う。

「やはり、ペイシェンスは素晴らしいですね。手伝えることがあれば、何でも言って下さい」

 嬉しい! 相談にのって欲しいんだ。


「先ずは、お友達のドレスから作っていくつもりです。布を見やすいように棚に置きましたの」

 昼からエリザベスやアビゲイルが来るから、応接室の隅に布を掛けて置いてある。

 パーシバルと2人で、布をとって、色々な生地を眺める。


「これは、綺麗ですね! 見ているだけで、浮き浮きします」

 やったね! それが目的でもあるんだ。

「紳士物の仕立ては、こんな風には生地を並べていないのですか?」

 パーシバルは、首を捻っている。

「屋敷に、何枚か生地を持ってくるだけですから、わかりませんね」

 そうか、伯爵家の子息だもんね。ペイシェンスもドレスメーカーのマダムが何枚か持って来た中から選ぶだけだった。

「今度、仕立て屋さんに連れて行って欲しいです」

 パーシバルも行った事がないみたい。

「そうですね! 行ってみましょう」


 それと、パーシバルはアドバイスもくれた。

「このドレス作りは、ちゃんと帳簿を付けた方が良いですよ。お友達の令嬢相手でも、布地の値段や縫い賃は貰うべきです」

 そうだね! その方が、注文しやすいかも?


「あまり高くはしませんが、布地代と縫い賃は貰いますわ。その縫い賃は、お針子に渡すつもりです」

 パーシバルが少し考えている。

「他のメイドが不満に思わないようにしないといけませんよ」

 あっ、そうだよね!


「でも、普段は下女やメイドの仕事をした上に、お針子の仕事もするのですから……メアリー、どう思う?」

 私とパーシバルでは、メイドの気持がよくわからない。隅の椅子に座って、縫い物をしているメアリーに訊く。


「お嬢様、メイドの仕事のうちには裁縫も含まれています。でも、他所の令嬢のドレスまでは縫いません。だから、少し縫い賃をあげたら良いと思います」

 その少しって、本当に雀の涙の気がするよ。内職の時に、本当に少なかったからね。


「まぁ、そのくらいなら他のメイドも文句は言わないだろう。それに、問題になったら、また考えたら良いのでは?」

 いや、問題になったら困るよ! 女の世界は怖いからね。

「この件は、もっと考えますわ。モリーやマリーとも相談してみます」

 パーシバルは、そうしたら良いと頷く。


「ああ、そうだわ! 私の秘書が見つかりましたの!」

 パーシバルも前から忙し過ぎだと心配していたから、ホッとしたみたい。

「家庭教師のカミュ先生ですの。ただ、2年後からしか秘書はできないのが問題ですわ」

 パーシバルは、カミュ先生の息子達とは騎士クラブで知り合いだったから、素性もはっきりしているし、信頼もできる人だと喜んだ。


「それは良かったです! 2年後、ロマノ大学に進学したら、自由時間も増えますからね」

 えっ、そうなの?

「勿論、研究室に篭ったり、図書館に住んでいるのでは無いかと思われる学生もいるそうですけどね。指導教授について授業を決めるから、王立学園の時ほどはびっしりとコマは埋まらないと従兄弟が言っていました」

 ミッシェル・オーエン、真面目に勉強しているのかな? 


「指導教授! 知りませんでしたわ。学部も何にしようか悩んでいますのに……」

 父親がロマノ大学の学長なのに、全く知らないよ!

「学部が決まらないと、どの教授に付くのか分かりませんね。私は政治学部を選択しますから、外交に強いザビーネ教授に付くつもりです」

 うっ、パーシバルが眩しい!


「私は、領地管理に付随するあれこれを勉強したいのです。砂防ダムや浚渫や治水関係も何も知らないのですもの」

 パーシバルが笑う。

「ペイシェンス、領主がすべきなのは、その専門家を雇って、資金を調達して、実行させる事ですよ。勿論、知識を得るのは良い事ですが、自分で何もかもしたら、雇用は広がりません」

 目から鱗だよ! やはりパーシバルは生まれつき伯爵家の子息なんだ。人を使うのに慣れている。


「でも、ペイシェンスの考える領地管理は、他の人とは違うアイディアに溢れています。それが、実行可能なのか、それを知りたいのでは?」

 そうなんだよ!


「ロマノ大学には、色々と研究している教授や助手や学生がいます。ペイシェンスが苦手な分野は、その人達に研究、開発させたら良いのです。そして、その研究資金を、ペイシェンスが得意な錬金術とか料理関係で得たら良いのでは?」

 だよね! 土木工事系は、全く理解不能だし、勉強する気も湧かない。

 川の浚渫は、錬金術師のお爺ちゃんのポンプでできそうだとは思いついたけどね。


「錬金術で思い出しましたわ! パーシー様の馬車のスライムクッションを暖かくしましょう!」

 パーシバルが呆れている。

「昨日、1日で何をされたのでしょう?」

 あっ、色々とやったね。

「ふふふ、美味しいものをいっぱい作ったのですよ」

 銀の鈴を鳴らして、ワイヤットにお茶を用意してもらう。


 ロマノ大学で何を学びたいか?

「昨日、トレントについての本を読んでいましたの。薬学も学びたいですし、魔物の素材も調べたいのです」

 パーシバルとどの学部になるのかと考える。

「薬学部は分かりますが、魔物の素材は……どの学部でしょう? 魔法学部かもしれませんね」

 魔法学部、ゲイツ様とサリンジャーさんが喜びそう。

「ペイシェンスは、まだ2年あるから、調べて考えましょう」

 だよね!

 エバは心得ているから、新作のチョコスプレーを飾ったケーキとお茶を用意してくれた。

 それと、いちごチョコと真っ赤なハートチョコもね!


「このケーキの飾りは初めて見ます」

 チョコレートスプレーは好評だね。

「このチョコレートも新作なのですよ」

 いちごチョコより、ハートを先に摘んで食べさせたのは、仕方ないよね。

「美味しいですか?」

「これは、チョコレートの味がしますが、色が全く違いますね」

「ホワイトチョコレートです。食紅で色をつけられるのですよ」

 パーシバルもハートチョコを私に食べさせてくれる。

「パーシー様が食べさせて下さると、より甘く感じますわ」

 いちゃいちゃしていると、メアリーの咳払いが煩いよ。

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