第5話 冬休み初日は終わらない
冬休み初日は、あれこれ錬金術で作った。ホワイトチョコレートを作ったり、弟達と久しぶりに遊んだ。
でも、最後は、サミュエルが飛び入り参加して勉強会になったよ。
やる事リストの投げたら立つテントとシャワーと梅の木を手に入れる件は、保留だ。
後は、作り掛けだったり、手をつけていなかったりするけど、ほぼ作り方は分かっている。
トレントは、王立学園にはなかったけど、家の図書室には専門書があった。誰が買ったんだろう?
それと、当たり前かもしれないけど、グレンジャーやその周辺の事が書いてある本もあった。
昔は領地だったからね。ただ、情報としては古いかも? 港として使っている時代の資料だ。
それらを、サミュエルとナシウスとヘンリーがカミュ先生と勉強している横で読む。
「お姉様、読むの速いですね」
分厚い本を次々と読み終えているのを見て、ナシウスが驚く。
「速読法を覚えたのよ。ナシウスにも教えてあげるわ」
ただ、ナシウスは読書をするのが趣味なので、速読法は勉強にしか使わないかも?
お茶は、子供部屋でカミュ先生も一緒に飲んだ。
「これ、綺麗なケーキだな!」
ふふふ、エバったら、早速チョコスプレーを生クリームの上に飾っている。
「チョコレートなのですね!」
ナシウスも驚いている。
「そう、朝から作ったのよ」
ちょっと自慢しちゃった。ホワイトチョコの作り方を考えるの、結構大変だったからね。
「このお屋敷で食事を頂いていると、他所では食べられませんわ」
カミュ先生は、ヘンリーが王立学園に入学するまでだから、あと2年だ……あっ、良い人見つけた!
「カミュ先生、少しお話があるのですが、宜しいでしょうか?」
応接室で、秘書になって貰えないか交渉する。
「それは、願ってもないお話ですわ。2年後も下の息子達は大学生ですし、騎士になっても費用が掛かりますから」
やったね! 2年後、私は王立学園を卒業して、ロマノ大学に進学する。
本格的に領地管理や事業を始めたいんだ。
ただ、2年後まで、秘書がいないのは、少し困る。誰かバイトとかしてくれないかな?
それと、グレンジャー家と新居の両方に家政婦が必要だ。
今は家政婦代わりをしているメアリーが私についてくるから、ワイヤット1人では、大変だもの。
メアリーに新居の家政婦にならないかと訊いたら、キッパリと断られた。帳簿とか付けるのが苦手だし、生涯、私の侍女を勤めたいそうだ。
グレアムとはどうする気なのかな? これも要相談だよ!
家政婦は、伯母様方に探して貰った方が良いかも?
ちょうど、明後日は、淑女教育の日だ。
何、それ? って感じだけど、社交界デビュー前に、あれこれしきたりとか教えて貰う。
マナーは習ったけど、貴族関係は疎いから……父親も疎いし、グレンジャー家の弱点なのかも?
教育の日なのに、何故か昼食も出す事になっている。
多分、アマリア伯母様が教授会の料理が美味しかったと、他の伯母様達に喋ったからだと思う。
父親は、苦手な姉達が来ると知って逃げようとしたけど、布地を持ってきたシャーロッテ伯母様に釘を刺されていた。
「その日、逃げたりしたら、貴方も一緒に再教育しますわよ!」
シャーロッテ伯母様は、特に父親に厳しい気がする。
伯母様方の中で、一番働いているからかも?
アマリア伯母様は、昔風で女の人は嫁いだら旦那様の仕事に口を出さないタイプだ。
リリアナ伯母様は、社交界で活躍するタイプ。ノースコート伯爵はドレス代と宝石代は困るだろうけど、社交も貴族は必要みたい。
シャーロッテ伯母様は、領地の産業が織物だったからもあるだろうけど、かなり一緒に働いている感じがする。
うちの父親は、今はロマノ大学の学長だけど、無職期間が長かったし、本ばかり読んで過ごしていたからね。
明日のエリザベスとアビゲイルとのお茶会、そして、明後日の伯母様達の淑女教育の日の昼食。
メニューを考えなきゃ! なんて呑気な事を考えていた私は、モリーとマリーが連れてきた3人を見て驚いた。
「貴女達、すぐに何か食べなさい!」
ガリガリでふらふらなのだ。お風呂に入れたら、気絶しそう!
「綺麗になれ!」と一応掛けておく。少しシャンとしたみたい。
メアリーが慌てて、半地下の女中部屋に連れて行った。
『まるで、転生した時のペイシェンスみたい』
それより酷いかも? モリーやマリーに支えられて、やっと立っている状態だ。
「エバがスープを飲ませています。あの子達を追い出す訳にはいきませんわ」
メアリーに言われなくても、追い出さないよ。
「今日はお粥を食べさせて、上級回復薬を飲ませてから、休ませなさい」
世話はメアリーに任せておけば安心だ。
「今年の冬は厳しいから、孤児院も大変ですが、独立したばかりの子も困窮しているでしょう」
そうだね! 贅沢なチョコレートやドレスの事ばかり考えていてはいけないな。
浮かれていたけど、冷水を掛けられた気分になったよ。
「今、ドレス工場は無理でも、下女やメイドやお針子を雇う事はできるわ。一気に増えるのは、メアリーも負担が大きくなるけど、前倒しにして雇いましょう」
ミミとキャリーの孤児院に、下女の斡旋を頼んでいたけど、それにプラスして、マリーやモリーにあの3人みたいに困っている子を連れて来させよう。
「3人が住んでいた部屋の隣は4人が住んでいるのです。本当は2人部屋なのに……」
うっ、4人で2人部屋? ベッドに2人ずつって事かな? なんて甘かった。
「ベッドは1つで2人寝るのです。だから、2人は床で寝るしかありません」
モリーやマリーも1つのベッドに2人で寝ていたみたい。
「その下宿は、そんなお針子ばかりなの?」
2人は気まずそうに首を横に振る。
メアリーが「お嬢様!」と止めるから、夜の商売に身を堕とした子もいるのだと察した。
「その4人も連れて来なさい」
偽善かもしれないけど、耳に入った限りは助けたい。
この日、グレンジャー家には、サンダーとジニー、警備員8人、お針子7人が増えた。
サンダーやジニーのお給料は、王宮持ちだ。元々は、王宮の馬丁頭とその助手だからね。
警備員は、家の使用人になる。
これは、打ち上げパーティの時に、ゲイツ様が父親を図書室に連れ込んだ時に決まったみたい。
そんなお金あるのか? あるんだよ。高利貸しから、違法な高利を取り返してくれたんだ。多分、サリンジャーさんが。
それも、追徴利子をつけて巻き上げてくれたみたい。
高利貸しより、サリンジャーさんの方が怖いのかも?
今は、どこかの侯爵家や伯爵家の脱税調査に同行しているとか聞いたよ。クワバラ、クワバラ!
「下女や調理助手や下男の採用は、旅行から帰ってからにしましょう。それまでの食糧も負担になってはいけないから、肉を多めに寄付しておいてね」
ありがたい事に肉は本当に沢山あるからね!
旅行中は、モリーとマリーに7人の世話は任せる。
旅行中は、台所はしっかりしたアンを中心に、掃除とかはキャリーが……大丈夫かな?
心配になったから、ワイヤットを応接室に呼び出して、訊ねる。
「子爵様だけですから、大丈夫ですよ」
あっ、それに警備員も4人、サンダーとジニーも付いてくる。
マシューとルーツも弟達の従僕見習いとして付き添う。他の家だと、見習いなんて駄目だけど、親戚やパーシバルの家だから、練習させて貰う。
屋敷に残るのは、父親とワイヤットとジョージとキャリーと警備員4人と調理助手6人とお針子9人だ。
一気に人が増えたけど、料理は大丈夫そうだし、なんとかなりそう。
後は、ワイヤットに任せよう。
旅行に行くのは、私、ナシウス、ヘンリー、メアリー、エバ、マシュー、ルーツ、サンダー、ジニーとグレアムと警備員4人!
「凄く多過ぎない?」
指折り数えて、何台馬車がいるのか考えると頭が痛くなった。
「警備員4人とサンダーとジニーは馬で行きます」
グレアムは御者だし、7人なら何とかなるかな?
「お嬢様は
うっ、そうなんだよね。ワイヤットに言われて思い出す。
「パーシバル様とゲイツ様の馬車もありますし、大丈夫ですよ」
途中で休憩したくなったら、メアリーとパーシバルの馬車に乗せて貰おう。
でも、その時はパーシバルは
一緒に馬車で話しながら旅行したかったな。
でも、ワイヤットから厳しく注意されたよ。
「お嬢様、親切なのはわかりますが、素性もしれない女の子を7人も連れて来られては困ります」
「はい、わかっているけど……」
猛反省するけど、辞めさせたりはできない。
「これからは、事前にお話し頂きたいです。それにお針子なら、こちらで全員を雇わなくても、適正な縫い賃を払っても良いのですよ」
それは、そうなんだけど……。
「私も子爵様に拾われた身です。だから、厳しい事は言いたくはありませんが、調査して不適格だと判明したら、屋敷には置けません」
ああ、それは出来るだけ避けて欲しい。
「お嬢様、多分、大丈夫だとは思いますよ。でも、大事なお嬢様や弟君達の事を優先しませんと!」
はい! わかりました!
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