第4話 弟達と一緒

 昼食は、家庭教師のカミュ先生も一緒だった。

「ロマノ大学は、明日から冬休みみたいですね」

 父親は、大学だ。馬車は早朝に使っただけだから、今日は良かったけど、やはり2台必要だね。


「お姉様、馬の王メアラスに会わせてくれますか?」

 ヘンリーはスレイプニルに興味津々だね。

「ええ、落ち着いたみたいだから、昼食の後に会いましょう。カミュ先生、昼からは馬の王メアラスに会わせたり、いちごを摘むのを手伝って貰っても良いでしょうか?」

 カミュ先生は笑って許可をくれたので、昼からは弟達と遊ぼう!


 馬の王メアラスがいる馬房に入る前に注意をしておく。

「大きな声を突然出したりしたら、馬の王メアラスが驚くから駄目よ。それと、後ろから近づくのも嫌がるし、蹴られるから、しては駄目よ」

 ナシウスもヘンリーも馬術は私より上手いけど、蹴られたりしたら大変だから、言っておく。

 門に2人、馬房の前にも2人、警備の人が立っている。

 交代で食事をしたり、休憩をするみたい。

 今よりも、メアリーが台所や召使部屋に近寄らせなくなりそう。


「入ります!」

 一声掛けて、馬房の中にナシウスとヘンリーを連れて入る。

「ブヒヒン!」遅かったな!

 いや、昼食が済んで、すぐに来たんだよ。

馬の王メアラス、こちらがナシウスとヘンリーよ」

 馬の王メアラスがチロッと見て「ブヒヒン!」乗せてやると言い出した。

「えっ、危険じゃないの?」

 サンダーとジニーも驚いているみたい。

「ブヒヒヒヒン! ブヒ、ブヒン!」

 ちょっと失礼なんだけど! 私より上手そうだなんてさ。

「ナシウス、ヘンリー、乗ってみる?」

 2人は顔を真っ赤にして頷く。

「こんなに綺麗な馬に乗っても良いのですか?」

「乗りたいです!」

 馬の王メアラスに「落とさないでよ!」と言ったら「ブヒヒヒヒン!」と笑われた。


「サンダー、男の子用の鞍を付けて」

 サンダーは、馬の王メアラスが私やパーシバル以外を乗せるのに驚いていたが、徐々に人に慣れてきたのだと喜んで鞍を付ける。

「先ずはナシウス、乗ってみなさい」

 ナシウスも、乗馬台が無くても乗れるんだね。

 私はエア乗馬台で乗るんだけどさ。


「ゆっくりと庭を歩くだけよ!」

 厳しく言い聞かせたからか、馬の王メアラスは大人しく庭を一周した。

「ブヒヒン!」走りたい!

 やはり、そう来たか!

「庭は狭いから駄目よ」

 不満そうな馬の王メアラス。やれやれ、公園に運動に連れて行かなきゃいけないかも?


「サンダー、運動は公園でさせても良いのかしら?」

 慌ててサンダーが止める。

「それは、困ります。第一騎士団の馬場をお使い下さいと、ガブリエル団長が言われていました」

 それって、王宮の中じゃないの?

「他のスレイプニルもいますから、馬の王メアラスも喜ぶでしょう。それか、障害の練習なら庭でもできるのでは?」


 えっ、障害はまだ無理だよ! パーシバルに慣らして欲しい。

「ブヒヒン!」飛びたい!

 ああ、言葉が分かるスレイプニルなんて厄介だ。

「低い障害なら、飛べます!」

 ナシウス、心配で胸がドキドキするよ。こんな事なら、パーシバルに来て貰えば良かった。

 近頃、デートばかりで、弟達と過ごす時間が取れないから、明日の午前中までは約束していないんだ。


 ジニーが低い障害を並べていく。

馬の王メアラス、飛べる?」

 私が心配そうに訊くと「ブヒン!」と馬鹿にしたように答える。

 まぁ、山も登れるのだから、低い障害ぐらい平気だとは思うけどさ。

 

 ナシウスが馬の王メアラスと障害を飛ぶのを、心配しながら見ていたが、私より上手だね。

「ナシウス、とても上手だわ!」

 前に見た時よりも、スムーズに飛んでいた。

馬の王メアラスが上手く飛ぶのです」

 相変わらず、ナシウスは自分を褒めるのが下手だ。もっと自信を持って欲しい。


 ヘンリーの目がキラキラしている。

「ヘンリー、代わろう!」

 ナシウスは、弟思いのお兄ちゃんだね。

「うん! 乗りたい!」

 ヘンリーは、パンと馬の王メアラスに飛び乗った。

「ゆっくりと走らせるのよ!」

 後ろから叫ぶけど、ヘンリーと馬の王メアラスは障害を物ともせずに飛び越しながら爆走する。


「凄いですわね! それに美しいですわ!」

 カミュ先生は、王立学園で乗馬クラブだっただけはある。

 馬の王メアラスを惚れ惚れとした目で見ている。

 確かに馬の王メアラスは美しいけど、ヘンリーが心配だよ。


「そろそろ、止まりなさい!」

 私が命じてから、もう一周して止まった。

「ブヒヒン!」もっと高いのを飛びたい!

 ふぅ、我儘なスレイプニルだよ。

「今日は、これでお終いよ。さぁ、馬房に入ったら、ブラシを掛けてあげるわ」

 ヘンリーに馬房に入るように言うと、素直に馬の王メアラスを向かわせる。


「綺麗になれ! と私が唱えても良いですか?」

 えっ、ヘンリーも少しは生活魔法が使えるけど、大丈夫かな?

「良いですよ」

 綺麗にならなかったら、こっそりと掛けたら良いだけだ。


 ヘンリーは、凄く集中して「馬の王メアラス、綺麗になれ!」と掛けた。

「まぁ、ヘンリー! 上手に掛けられたわね」

 少し嬉しそうなヘンリー。

「この前から、練習していたから、成果が出たね!」

 ナシウスが褒めたら、嬉しそうに笑う。

「お兄様に教えて貰って、生活魔法が使えるようになったのです」

 ナシウスを褒めておこう。

「ナシウス、上手く教えてくれたのね。ありがとう! 騎士は討伐とかの時に生活魔法が使えると便利なのよ」

 臭いヘンリーは困るからね。これは、本当に使えるようになって、良かったと思う。


 馬の王メアラスに弟達とブラシを掛けて、馬房から温室に向かう。

「いちごをいっぱい採って欲しいの」

 食べるのは6個までにする。今回は、フリーズドライいちごに挑戦するからね!


 籠にいっぱい採って、工房に運ぶ。

「いちごを洗うのでしょう!」

 考えたら、子爵家の子息なのに、いちごを2人で仲良く洗っている。

 まぁ、可愛いし、良いんだけどさ。

「ヘタを切るのは、ヘンリーは無理かしら?」

 プチナイフでヘタを切っていくのだけど、口に入れる時もあるからね。

「もう8歳だから、大丈夫です!」

 そうか、6歳だったのに、大きくなったね。

 でも、まだ私の方が少しだけ背が高い。ホッ!

 ナシウスには抜かれちゃったけどさ! 


 3人でいちごのヘタを切って、もう一度洗う。

「お姉様、何故洗うの? さっき、洗ったのに?」

 ヘンリーが変な顔をして訊く。

「よく見て、いちごのヘタを切った後に、少しだけオシベが残っているでしょ。今日は、これで新作のチョコレートを作って、バーンズ公爵家に届けるの。オシベのブツブツが口に入ったら嫌でしょ」

 ふうん! とナシウスも頷いている。


 洗ったら乾かす。上手くいくか分からないから、半分やってみよう。

「フリーズドライ!」

 弟達の目がまん丸だよ。

「お姉様、枯れちゃった!」

 ヘンリーが叫ぶ。

「ふふふ、違うのよ。ドライいちごになったの。食べてみましょう」

 サクサクで甘酸っぱいのも濃縮されている。

「「美味しい!」」

 

 ホワイトチョコのレシピを書いて、フリーズドライいちごと一緒にエバに渡す。

 ドライいちごをエバに試食させる。

「これ、美味しいですね! でも残りのカカオバターは?」

 カカオバターの3分の1は残しているのを不思議がる。

「これは、実験に使うの。あとのカカオマスは乾かして、美味しい飲み物になるのよ」

 これも、レシピを書いて渡す。

 ついでに細かく粉砕して、ココアパウダーにしておこう。


 お茶の時間まで、弟達と応接室でハノンを弾いて過ごす。

「収穫祭の『歓喜の歌』と『再会の歌』なの」

『再会の歌』は歌詞を教えて、一緒に歌うよ。

 ゆっくりと弟達と過ごせて良かった。

 

 なのに邪魔が入る! 

「サミュエル? どうしたの?」

 もしかして馬の王メアラスが見たかったのかな? なんて思ったけど違った。

「ナシウスは、多分1週間で2年に飛び級するだろう。そして、ペイシェンスと同じく、来年は中等科になると思う。私も飛び級して、一緒に中等科になりたい」

 えっ、あの勉強嫌いを拗らせていたサミュエルが! 凄い進歩だよ。


「それと、中等科では、騎士コースと文官コースを選択するつもりだから、1つでも多くの修了証書を取りたい」

 それは、そうだと思う。私が家政コースと文官コースの掛け持ちができるのも、必須科目の修了証書が取れているからだ。


「それで、何故、ここに?」

 弟達との寛ぎタイムを邪魔しないでよ!

「ナシウスと勉強するためだよ!」

 えっ、私の弟達との親睦は? なんて言えないよ。

 ナシウスが嬉しそうに、サミュエルの手を取って子供部屋に案内しているからね。


「ヘンリーも一緒に勉強をしなさい」

 ヘンリーもサミュエルのやる気に、感化されたみたいだからね。

「お姉様は?」

「私も勉強しなくてはね!」

 久しぶりに一緒に勉強をしよう!

 それと、視察に行くグレンジャーとハンプシャーの資料を探して読まなくてはね。

 あっ、トレントの種類の本があるかも探さなきゃ!

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