第3話 工房であれこれ作るよ

 スライムクッション用のジッパーを作るついでに、制服用のジッパーも何本か作る。

 前に1本は渡したけど、これから注文が入るかもしれないからね。

「ナシウスやヘンリーのズボンもジッパーの方が良いかも?」

 バーンズ商会で売っているけど、節約して作ろう! ケチが身に染み込んでいるのかも?


「鉄を溶かしたなら、ついでにミンサーとスライサーを作りましょう!」

 ミンサーは2個作った。だって、ハンバーグを作る時のと大豆を潰すのは別にしたいからね。

 スライサーは、厚みを変えれる様にしたから、1台で良いよね?


「お嬢様、それは販売しないのですか? エバほど薄く切れる料理人は少ないですよ」

 そうだった! 見本としてバーンズ商会に持って行くなら、余分に作ろう。

「メアリー、ありがとう。忘れていたわ。それにゲイツ様にも差し上げましょう」

 冷凍庫を貰ったからね。スライサーだけじゃなく、ミンサーもあげよう。

 ハンバーグの作り方はもう知っているだろう。

 それにミンチ肉って、あれこれ使えるレシピが多いんだよ。


「パスタマシーンも作りましょう!」

 この異世界では、ショートパスタというか、耳みたいな小麦製品は見たことがあるけど、長いパスタは見てないんだ。

 細いパスタと太いパスタとの調整ができる様にしたい。

 これも、前世で母がよく買おうか悩んでいたから、パソコンでよく検索して、知っているよ。


 何個か作っておく。どうせ欲しがる人が多そうだし、バーンズ商会で、売れるかどうかは謎だけどね。

 それと、やはりうどんも食べたい! 蕎麦粉もあるから、蕎麦も食べたいけど、すき焼きのシメはうどんだったんだ。


 うどんは、筵に挟んで足踏みするのをテレビで見たことがあるよ。

 後は、棒で伸ばして、切るだけだ。 

 これは、エバと要相談だね。台所の床に置くのは、少し不衛生な気がするから、木の台を作り、筵はないから、分厚い布で代用! そして、うどん生地はラップフィルム擬きで包んでおけば良さそう。


 ラップフィルム擬きを紙の芯に巻きつけて、紙の箱に入れて、切り取れる様に金属のギザギザを付けたいな。

 あっ、最後に買ったプラスチックの容器、あれが便利だったんだよね。

 料理する時って手が濡れているから、紙の箱がぼやぼやになったりするんだ。


 あれは、部屋の片付けをした時に、捨てられたかな? それともお母さんが使ってくれているのだろうか?

 転生して、3年目になる。

 今更、前世に帰れるとも思えないし、帰れても、弟達やパーシバルを置いて帰りたいとは思わない。


「考えても無駄な事を考える暇は無いわ!」

 パンと顔を叩いて、感傷的な物思いを止める。


 紙の芯を作って、ラップフィルムを巻きつけていく。

 そして、錬金窯に珪砂を足して、ラップフィルム箱を作る。

 ギザギザの刃もミンサーの残りの鉄で作ってつける。

「これも見本を何個か作りましょう。あっ、バーンズ公爵は、なるべくエクセルシウス・ファブリカ材料を使うのを避けるから、紙の箱バージョンも作った方が良いかも」

 ファイルを作った時と一緒だよ。紙とプラスチック擬きと2通り作るんだ。どちらが多く売れるかは知らないけどね。

 料理人にはプラスチック擬きの箱の方が便利だと思うけど、高いなら安い紙の箱の方を選ぶかもしれない。


 るんるん! と工房に籠って、あれこれ作っていたら、エバが呼びに来た。

「お嬢様、バーンズ商会からカカオの樽が24個も届きました。旅行に行かれるのを言われたのですか?」

 そう言えば、錬金術クラブで冬休みはパーシバルの領地に行くと言ったかも?


「ああ、それは流石に多いわね! 高級チョコは、そんなに要らないんじゃないの?」

 エバが、付いていた書類を読み上げる。

「板チョコ用が20個だそうです。きっと領地にお土産で持って帰る方が多いのでしょう」

 ふう、嬉しい悲鳴どころか、本当に悲鳴が出そう。

 20個は、バーンズ商会の使用人を待たせて、持って帰って貰おう。

 

 パントリーに運び込まれた樽! うん、もう個人規模じゃないよ。

「滑らかになれ!」と20樽に掛けてから、エバにバーンズ商会の使用人を呼んでもらう。

 もうバレているけど、やはり目の前で掛けるのはやめておく。なんとなくね!


「残りも多いわね。1樽は、少し実験をしたいの」

 ついでだから、3樽は滑らかにしておく。

「エバ、大丈夫?」

 普段は2樽だよね?

「ええ、ファビもかなり使える様になりましたし、旅行に連れて行って貰えるのですから頑張ります。実は、ロマノから出た事がないのです」


 あっ、そうなの? メアリーは母親の実家からロマノに来たけど、ロマノ育ちだと外に行く事は無いのかもね。

 そう言えば、ペイシェンスも夏の離宮に行ったのが、初ロマノ出だったよ。


「モラン伯爵領は内地だけど、湖の魚も美味しかったわ。それに、視察する領地は海沿いなの!」

 エバが嬉しそうに笑う。

「魚介類の料理はあまり知りませんから、楽しみです!」

 うん、食べる方も楽しみなんだ。


 ついでに用事を頼んでおく、大豆を茹でるのと、米を炊いてもらう。

 麹菌を味噌から取り出したいから、味噌の樽も工房に運んで貰うよ。

 こんな雑用は、助手がいっぱいいるから、エバも助かるかもね?


 でも、屋敷に残る料理助手はミミとサリーとベッシィだけなんだよ。

 2軒分の調理人には足りないよね。それに、ある程度は領地にも調理人を在駐させないといけない。

 まぁ、これは現地で採用しても良いんだよね。

 ただ、エバの技術は学んでほしいから、こちらで半年ぐらいは修行して貰ったら良いのかも?


 そんな事を考えながら、炊いたお米を広げて麹菌を繁殖させるためのトレイをチェックする。

 テレビ番組のは木で作ってあったから、真似をしたんだ。

 すのこ状にして、下から温かい空気で繁殖を促したい。

 つまり、下から温かい蒸気をあてたいけど、あまり熱すぎても駄目だと思う。

 小鍋に水を入れて、少し離した高い所に木のすのこトレイを置けば良いかもね? これは、実験してみるしかない。


 実家では麹屋さんから、麹を買って来てから、一夜麹を作っていたんだ。

 これは白味噌の作り方だよ。祖母は関西の出だったからね。


 だから、家の雑煮は、祖母が生きていた頃は、白味噌仕立ての丸餅と、関東風の母の清汁の四角い餅が交互に出たんだ。

 祖母が亡くなってからは、清汁の四角い餅が多かったけど、父は白味噌仕立ての雑煮で育ったから、時々は白味噌の雑煮も食べていた。


「餅米があると思うんだけど……店には置いていなかったわ」

 とはいえ、カルディナ街の全部の店を回ったわけではない。

 お餅と小豆があれば、善哉が食べられるのに!


 雑煮もね! 前世では、雑煮はお正月に出てくるから食べていただけで、然程好物ではなかったけど、食べられないとなると、食べたくなる。

「もうすぐ新年だからかも?」

 年越し蕎麦、お雑煮、お節。

「洋風の洒落たオードブルの方が良い」なんて、文句を言いながら食べていたけど、懐かしい。


 味噌から麹菌を取り出すのは、簡単にできたけど、増やせるのかは、まだわからない。

 木のトレイの中にガーゼを敷いて、炊き立てのご飯を薄く並べ、麹菌を満遍なく撒く。

 台の上にトレイを置いて、下に小鍋に水を入れてセットする。

「トレイの上に濃い色の布を置きましょう!」

 埃は厳禁だし、暗い方が繁殖しそう。


 後は、ホワイトチョコだけど……上手くいくかな?

 カカオの樽を眺める。

「このまま滑らかにしたら、チョコレートになるのよね。ホワイトチョコレートは、カカオバターだけだったような……」

 カカオバター! そうか、リップクリームにも使えるよね。

 ココナッツのクリームもあったけど、カカオバターのクリームもあった気がする。


「とっても贅沢なリップクリームになるわね」

 これは、販売には向かないかもしれないけど、私は使いたい。

 食紅と香料を足して、リップクリームの容器に入れて、使おう!

 

「よし! カカオバターを作ってみよう!」

 大きなカカオが入った樽の前に、中型の樽を置く。

「カカオバターは、こちらに入れ!」

 中型の樽にカカオバターが集まった。

 大きな樽にはカカオマスが残っている。

「これを乾かせば、ココアになる筈!」

 ココア、好きだったんだよ。受験の時は、母が作ってくれたなぁ。


 今日は、なぜか母の事をよく思い出す。

『そうか、2年前の今日、ペイシェンスになったのだわ』

 3回忌をしているのかな? お父さん、お母さん、お兄ちゃん、お姉ちゃん、私はここで幸せに忙しくしているよ!


「さて、気を取り直して、頑張ろう!」


 ホワイトチョコが出来たなら、これに食紅を入れて、チョコスプレーを作りたい。

 それと、いちごをフリーズドライして、ホワイトチョコで包んだのも作らなきゃね!


 チョコスプレーは、ホワイトチョコに砂糖と、赤、黄色、青、緑の着色料を少しずつ混ぜたのを、生クリーム絞り袋に入れて、先をちょこっとだけ切る。

 白は、そのままで良い。

「なるべく細くしたいのよね。エバを呼ぼう!」

 私より、エバの方が上手そうだし、これからはエバに作って貰うからね。

 メアリーに呼んで来て貰う間に、プラスチック擬きの柔らかいバージョンで、絞り袋を何枚も作っておく。


「お嬢様、これは何ですか?」

 エバは、チョコレートは、茶色いと思い込んでいるからね。

「これはホワイトチョコレートよ。これから、チョコレートスプレーという飾りを作るの」

 カカオバターに砂糖を混ぜて、容器に分けてから食紅を入れる。

「なるべく細い線をトレイの上に引いていくのよ」

 エバは、本当に綺麗にチョコの線を引いていく。

「これを冷まして乾かしてから、3ミリぐらいに切ると、チョコスプレーの出来上がりよ。チョコの上に飾っても可愛いし、ケーキの飾りにもなるわ」

 エバは、残りのホワイトチョコの使い方も気になったみたいだけど、これは弟達といちごを摘んでからだよ。

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