第178話 愛しのペイシェンス8……パーシバル視点
部屋の中は片付けてはあったが、何処に何が納めてあるのか、確認する。
騎士コースは転科させられたが、騎士クラブは続けるから、剣や武具がちゃんとあるのをチェックした。
どうやら、男子寮にキース王子とラルフとヒューゴが着いた様だ。
ラルフとヒューゴには、オーディン王子のお世話をして欲しい。
私は、パリス王子とマーガレット王女が親密になりすぎない様に、ペイシェンスと一緒に見張らないといけないのだ。やれやれ!
リュミエラ王女は、マーガレット王女と共にペイシェンスがお世話してくれそうだ。
女子寮には行けないから、任せるしかない。ペイシェンスの負担が増えるのが心配だ。
「ラルフ、ちょっと良いかい?」
ノックして、ラルフの部屋に行ったら、丁度いい具合にヒューゴもいた。
「ええ、でも、すぐにキース王子の部屋に行かないといけませんけど……あれ? パーシバル様は、寮に入られたのですか?」
そうだよ! 昨日まで知らなかったけどね。だが、そんな事は口にしない。
「リュミエラ王女とパリス王子とオーディン王子のお世話を言いつかったのだ。それで、ラルフとヒューゴにはオーディン王子のお世話の手伝いをお願いしたい」
2人は素直に引き受けてくれた。やれやれ、あとはパリス王子だ。
パリス王子の部屋に行く。この部屋も、ソニア王国風に整えられている。ハノンも高級そうな彫刻付きだ。
「ああ、パーシバル! 少し退屈していたのだ」
ふぅ、私は退屈する暇は無いけど、雑談しよう。
パリス王子の留学の真相を訊きたいからね。
意外な事だけど、パリス王子はロマノ大学の魔法学に興味があるみたいだ。エステナ聖皇の甥なのに? だからかもしれない。
私は、魔法学には詳しくない。修了証書は、エステナ教会の教え通りの魔法学の教科書を丸覚えてしてとったからだ。
「ロマノ大学では、魔法はエステナ神の恩恵ではなく、魔素を身体に取り込んで発動する。そういった研究をしていると聞いたのだ」
それは、少しだけ従兄弟のミッシェルから聞いた事がある。
まさかエステナ教の教えに反する異端だと騒ぐつもりなのか?
「そうなのですか? 王立学園の魔法学の教科書には、エステナ神の恩恵だと書いてありました」
私が、勉強したのはこれだけだから、誤魔化しているわけではない。
こんなところが、外交官向きの性格なのかもしれない。嘘では無いが、真実では無い言葉を自然と紡ぐのだ。
「そうなのか?」
パリス王子も私の用心深さを感じたみたいだ。
鐘が鳴ったから、下の食堂にパリス王子やオーディン王子と降りる。
「ふむ、鐘の音で食事の時間が分かるのか?」
「ええ、王立学園には時計を買えない学生もいますからね」
少しパリス王子が驚いたみたいだ。
「そうか! 上級貴族だけでなく、下級貴族や、平民も通っているのだな。これは、画期的だ!」
参考にして貰っても良いですが、ソニア王国も貴族至上主義者が多そうだから、一気に真似するのはやめておいた方が良いと思う。
それより、私はペイシェンスがどんな反応をするのか気になっていた。
寮で一緒に暮らすのを、嫌がったりしないだろうか? 驚くかな?
女子寮の階段から、マーガレット王女、リュミエラ王女の少し後ろからペイシェンスが降りてきた。
早速、パリス王子がマーガレット王女とリュミエラ王女に声を掛けている。
「マーガレット様、リュミエラ様、自分で食事を運ぶのは新鮮な体験ですね」
ペイシェンスは、私の顔を見て、驚いている。やったな! このくらいは楽しみたい。
「パーシバル様はどうしてここに?」
青い目がまん丸だ! 可愛いな。
「ペイシェンス様を驚かそうと黙っていたのですが、秋学期から寮生活をするのです」
悪戯が成功したので、ウィンクした。
「驚きましたわ」
ペイシェンスは、すましているけど、頬が少しだけ赤い。
これは、好きだと思って良いのだろうか? 少なくとも好意は持っているよな?
「なかなか美味しいな!」
オーディン王子は、キース王子と一緒に食べているから、良いだろう。
「パリス様のお口に合うでしょうか?」
ソフィアは美食の都だからな。食べられないと困るだろう。その時は何か手を打たないといけないかもしれない。
「一般の寮生と同じだと聞いて心配していましたが、食べられます」
やれやれ、何とか合格か? まぁ、食べられるが、凄く美味しいわけでもない。普通だと思う。
「あら、悪く無いですわよ」
リュミエラ王女は、なかなかサバサバしていて、良い感じだ。
この方なら、リチャード王子と仲良くなれるだろう。
「キース様、騎士クラブか乗馬クラブに入りたいと考えているのだが、どちらが良いと思う」
えっ、オーディン王子! その2つのクラブは仲が悪いのだ。まぁ、王子は揉めたのを知らないからな。
「私は騎士クラブだから、そちらを勧めます」
キース王子も少しは成長しているみたいだ。ホッとする。
「そう言えば、パーシバルも騎士クラブだと聞いたな」
まぁ、デーン王国からの道中で話した気がする。スレイプニルの話の間にね。
「ええ、私は騎士クラブに属していますが、剣の修練も厳しいですよ。乗馬クラブは、名前の通り馬術が中心です。オーディン様は、どちらが希望なのでしょう」
オーディン王子の縁談相手であるジェーン王女は、乗馬クラブに属すると思うのだが? そちらにした方が良い!
「うむ、どちらも見学してから決めよう。それか二つ入るのも良いかもしれないな!」
仲の悪い二つのクラブに属するのか? まぁ、ハモンド部長も退部したし、秋学期からはモリス部長になる。ズキン! やはり胸が痛む。
騎士クラブの部長になって、弛んだメンバーを鍛え直したかったなどと考えているうちに、話がクラブ活動に移った。
「そうか、王立学園はクラブ活動が盛んだと聞いていたな。私も何かしたい!」
オーディン王子の件は、モリス部長に頼んでおこう。
それより、パリス王子の方が気になる。
「リュミエラ様は何か決められたのですか?」
さっき、
「私はコーラスクラブかグリークラブに入りたいと思っているのです。活動を見てから決めたいと思っていますわ」
文化系のクラブは詳しくない。
だから、言葉を挟まずに聞いていたら、パリス王子とマーガレット王女がリュミエラ王女のクラブ見学に参加する事になっている。
「では、私も一緒に見学に行きましょう」
これは、リュミエラ王女の付き添いがパリス王子の留学の表向きの理由だから良い。
「私が案内致しますわ」
マーガレット王女の嬉しそうな言葉が問題なのだ。
パリス王子とは、王宮で1度、そして今が2度目で、それしか会っていない筈なのに! これは、拙い!
「ペイシェンス様も一緒に見学されては如何ですか? 音楽の才能に溢れておられますから」
ペイシェンスは、少し私の顔を見て、少し困った顔をした。迷惑なのだろう。
どうしよう? ペイシェンスには迷惑をかけたくないが、文化系のクラブに騎士クラブの私が付き添うのは、不自然すぎる。
だが、マーガレット王女が突然、音楽愛を溢れさせた。一瞬、アルバートを思い出してしまった。
コーラスクラブとコラボする新曲をペイシェンスが作った様だ。
「ああ、ペイシェンスときたら素晴らしいコーラスとの合奏曲を作ったのよ。次の音楽クラブが楽しみだわ!」
なるほど、夏休み中に王女からコーラスクラブの為に新曲を作ってくれと頼まれた様だ。
錬金術クラブメンバーと遺跡調査していただけではなかったのだと思うと、少しホッとする。
「ペイシェンスには音楽的な面からアドバイスして欲しいわ」
リュミエラ王女にも言われて、ペイシェンスは渋々引き受けた。
何か、コーラスクラブには近づきたくない理由があるのか?
「ペイシェンス、貴女は私の側仕えなのよ。無礼な真似をする学生など許しませんわ」
何事だ? マーガレット王女の言葉の意味がわからない。
「ペイシェンス、私からもルイーズに注意しておこうか?」
キース王子が口にした、ルイーズとかが無礼な真似をしているのか? 後で、ラルフとヒューゴに訊いておこう。
貴族至上主義者なのかもしれない! グレンジャー家は子爵家だし、つい最近までは免職中だったから、親の地位を傘に着て、嫌がらせをしたのか! 許さない!
「いいえ、大丈夫ですわ。それに女学生の問題に男子学生が口を挟むとややこしくなります」
なのに、ペイシェンスは、キース王子をやんわりと諌めている。
「そうなのか? まぁ、マーガレット姉上が対処されるだろう。それにペイシェンスは
その通りだ! キース王子も偶には良いことを言う。
「ペイシェンスは、自分の価値が分かっていないのよ。音楽の天才なのだから、あんな下手なコーラスなんか足元にも及ばなくてよ!」
そのルイーズとか言う伯爵令嬢は、コーラスクラブにいるのだな!
「まぁ、コーラスクラブは低レベルなのですか?」
おおっと、王妃様は男子学生がいないコーラスクラブを推していたのだ。マーガレット王女、失言でしょう。
「ええ、でも立て直すのも面白そうですわよ! 地位を振り翳してソロを独占しているメンバーにガツンと言って、能力主義にしたら良いと思うのです」
「まぁ、それは面白そうね! 私はコルドバ王国では王宮に学友達を呼んで勉強していましたの。学園生活ってどんな感じかしらと想像していましたが、刺激的ですわ」
少し、それは拙いのでは無いのか? 将来の王妃が、他の女学生と揉めるのは良く無い気がする。
「マーガレット王女、コーラスクラブと揉めないようにして下さい。私は、コーラスクラブとグリークラブの見学には同行致しますが、クラブには入りませんから」
ペイシェンスがきっちりと釘を刺してくれた。良かった!
「まぁ、そうね! クラブの揉め事は御免だもの。楽しくクラブ活動をしたいですわ」
そう、そう! クラブ活動の揉め事は御免だ。
「それより、リュミエラ様も音楽クラブに入られたら如何ですか?」
マーガレット王女と同じ音楽クラブか。それは良いかもしれない。
リュミエラ王女の側に、マーガレット王女とペイシェンスが付き添えば、パリス王子の留学理由は薄くなる。
「ハノンも弾きますけど、歌ほどは上手くないのです。それに先ほどペイシェンスの新曲を聴きましたけど、私にはそんな才能はありませんわ」
なのにリュミエラ王女は断った。ペイシェンスの才能が凄すぎるのか?
「私は、かなりハノンもリュートも上手く弾きますよ。マーガレット様が音楽クラブに推薦して下さると嬉しいのですが」
こちらは、音楽クラブに入って欲しくないぞ。
「まぁ、パリス様は音楽全般に造詣が深いのですね」
マーガレット王女の目が輝いている。拙い!
「あら、パリス様は私の付き添いだから、コーラスクラブかグリークラブに入ってくださると思っていたわ」
リュミエラ王女は、かなりリチャード王子と話し合っている様だ。それに賢い!
「ええ、そちらもご一緒しますよ。私は、ローレンス王国の学園生活を堪能するつもりですから」
パリス王子とマーガレット王女の目と目が合い、恋の予感がする。拙いな!
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