第179話 愛しのペイシェンス9……パーシバル視点

 兎に角、話を強引に変えよう!

「さて、クラブ活動もですが、中等科はコース選択と単位制ですから、そちらについても話し合わなくてはね。学期初の授業で様子を見ても良いですし、秋学期からはテストを受ければその科目は合格か修了証書が貰えます」

 オーディン王子は初等科3年なので、キース王子とほぼ同じスケジュールだ。そちらはラルフに任せよう!


 予め、パリス王子とリュミエラ王女にもスケジュール表と履修要項を渡していた。

「私は家政コースにしますわ。来年の社交界デビューまでに多くの単位を取りたいのです」

 リュミエラ王女は、来年にはリチャード王子との婚約発表だ。多分、大使夫人とも相談して決めたのだろう。


 パリス王子は騎士コースだろうか? それとも、先ほどの雑談では魔法学に興味がある様だった。

「私は、折角、ロマノ大学のお膝元に留学したのだから、魔法使いコースを選択したいですね。おお、そう言えばペイシェンスは錬金術クラブに属していると聞きました。魔法使いコースの授業について教えて下さい」

 おい、ペイシェンスに迷惑を掛けるな!

 

「パリス王子殿下、私は家政コースと文官コースを選択しているのです。魔法使いコースは、下級薬師の資格を取りたかったのと、錬金術に興味があったから、4科目だけ取っているに過ぎませんわ」

 ペイシェンスが婉曲に断っている。


「王子殿下だなんて、いちいち敬称をつけなくても良いよ。同級生になるんだからね。そうか、もう下級薬師の資格を取ったなんて優秀ですね。私も薬師の資格は欲しいから、情報を頂けるとありがたいです」

 馴れ馴れしいぞ! 私だって未だ様付けでよばれているのだ。


「薬草学と薬学のマキアス先生は厳しいですわ。特に薬草は枯らすと落第ですから、気をつけて水遣りを忘れないようにしないといけません」

 ペイシェンスは、優しすぎる! そんなに優しくしてやる必要はない。


「ご忠告、ありがとうございます。他にお勧めの授業はありませんか?」

 パリス王子、しつこい! マーガレット王女が目当てではないのか?

 それも問題だが、ペイシェンスに質問しすぎだ!


「私はキューブリック先生の錬金術と魔法陣の授業も取っています。とても役に立つ授業ですわ。他は取っていませんから、ご自身で1回目の授業を受けてから判断されるか、魔法使いコースの学生に相談されては如何でしょう?」

 パリス王子は意外そうな顔をした。


「何故、ペイシェンスは魔法使いコースを選択しないのですか? 強力な魔力を感じるのですが?」

 確かに、ペイシェンスの魔力は強い。側にいると感じ取れるが、失礼だろう!

「私は、生活魔法しか賜っていませんから、攻撃魔法が必須科目の魔法使いコースは無理ですの」

 そうなのだ。生活魔法は、下位魔法に思われているが、何か間違っているのだろうか? 

 ゲイツ様が魔法師の後継者に望まれているのだが……。


「えええ、生活魔法だけとは思えないのですが? ああ、失礼致しました。他人の魔法について詮索するのはマナー違反ですね」


「コホン!」と注意する。つい、私もペイシェンスの生活魔法について考えていて、パリス王子を止めるのが遅れてしまった。


「リュミエラ様とパリス様には申し訳無いのですが、中等科は単位制なので1回目の授業で必須科目の合格を取らなければ、先ずはその科目を優先的に履修して貰うことになります。その後で、コース別の選択授業を選んで下さい」


 パリス王子には、私が説明しよう。

 これ以上、ペイシェンスと接触させたくないからな。


 リュミエラ王女の説明は、ペイシェンスとマーガレット王女がしてくれた。

 何だか裁縫の時間が多い気がするが、Aクラスの女学生達も青葉祭前に大騒ぎしていたから、必要なのだろう。


 それより、ペイシェンスと同じ文官コースなのだ。転科は不本意だが、こうなったら一緒に勉強しよう。

「ペイシェンス様、私も一時間目のテストを受けないとどの授業になるかわかりませんが、第二外国語と国際法は一緒に受けましょう」


 行政と法律は秋学期中に修了証書を取る予定だ。後は、世界史と地理は前から勉強しているから、一回目の授業で修了証書を取るつもりだ。


「護身術は、騎士コースで取っていますし、第一外国語も修了済みです」

 デーン王国にオーディン王子を迎えに行くのに、家庭教師をつけられて特訓したからな。


「行政と法律は、教科書の丸暗記で修了証書は取れますわ。経済学と経営はディベートも必要ですが、経済学1と経営1を合格して下されば、一緒に勉強できますね」

 ショック! 情報不足だった。私の友達は騎士コースばかりだからだ。


「それは面白そうですね。夏休み中に世界史と地理と経済学と経営はかなり勉強したのです。そうか、教科書通りなら行政と法律を暗記しておけば良かったのですね」

 つい、ペイシェンスの前なのに悔しい! と感情を露わにしてしまった。


「まぁ、パーシバルとペイシェンスは仲が良いのね。モラン伯爵領で何かあったのかしら?」

 マーガレット王女が揶揄う。

「私はペイシェンス様と再従兄弟ですしね。弟君達も素晴らしい才能の持ち主で、できればナシウス君には外交官になって貰いたいです」

 これは本心だ。あの義兄よりも、素直なナシウスと一緒に仕事をしたい。勿論、ペイシェンスも一緒がより望ましい。


「まぁ、夏の離宮に連れてきていた弟達もペイシェンスに似て優秀なのね。確かナシウスは、ジェーンと同級生だと思ったけど……キースと同級生になるかもしれないのね」

 確かに、ナシウスならペイシェンスと同じ様に1年で中等科になるかもしれない。


「ヘンリー君も剣の腕が上達著しいですよ。うかうかしていられない気がします。今度、サリエス卿が剣術指南にいかれる時に伺って宜しいでしょうか? 騎士コースを離れて剣の腕が落ちたなんて言われたくありませんからね」

 これで、グレンジャー家に行ける。

「ええ、ナシウスもヘンリーも練習相手が増えて喜びますわ」

 ペイシェンスも喜んでくれるのだろうか?

「私には兄弟がいないから、二人が本当の弟みたいに感じます」

 姉上より、ナシウスやヘンリーの方が百倍可愛い!


「まぁ、パーシバルはぐいぐい攻めるタイプなのね。いつもクールな態度だから興味が無いのかと思っていたわ」

 マーガレット王女は、私の恋心に気づいて、応援してくれているのか? 良い人じゃないか!


 なんて、自分の恋に気を取られていたら、パリス王子の逆襲だ。

「マーガレット様に音楽クラブに推薦して頂くにしても、私のハノンを聴かれたうえでなくては、恥をかかせてしまうかもしれません」

 ふむ、それはそうかも?

「私の部屋にハノンを運ばせているので……」

 おい、おい! 退学にしても良いけど、留学初日はまずいだろう。ソニア王国も怒るだろうな。

 笑って、冗談にしよう!

「パリス様、男子寮に女学生を連れ込んだら、即退学ですよ」

 パリス王子もケラケラと笑う。この点は、勘の良い王子だな。

「そうなんですね! ローレンス王国は男女交際に厳しいな。覚えておきます」

 そうして欲しい!


 音楽クラブへの入部テストは、水曜になった。アルバートが断ってくれたら、良いのだが……。

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