第169話 冬休みの計画
収穫祭が終わったら、3年生は卒業した。でも、在校生は地獄のレポートとテスト期間だ。
この期間は、クラブ活動も半停止状態だよ。
私は、錬金術クラブで、ベンジャミンとファイルを作ったけどね。
「本当は、表紙をこの素材にしたいけど……厚紙の方が安くなるかしら?」
軽いのは偽プラスチックのファイルだけど、これは特許料が上乗せされるからね。
「うむ、エクセルシウス・ファブリカ案件になってしまうからな」
ベンジャミンも考え込んでいる。前回の体験コーナーにアルーシュ王子が参加した件で、なるべく錬金術クラブではエクセルシウス・ファブリカの素材は使わない方が良いって決まったのだ。
「なら、厚紙のファイルで特許を申請して、売り出す時は2通りのファイルにしたら良いだけさ」
カエサル部長は、簡単な事さ! と笑う。
「そうですね! 安い紙のファイルと、少し高いファイルにしたら良いのね」
夏休みから、塩漬けにしていたファイルができて、ホッとしたよ。
「ペイシェンス、次は何を作るのだ?」
それは、もう決めているけど、ここのメンバーより、料理クラブに相談するか、エバの方が役立ちそう。
「綿菓子の砂糖に香りをつけたいのです」
メンバー全員が「あああ」って残念そうな顔をする。
「なら、私達はローラースケートとスケートボードを作ろう!」
そちらは任せるよ!
「レポートが多いのは困りますね」
パーシバルと私は、面白さ優先で授業を取ったから、レポートやディベートの準備と並行してテスト勉強だ。
今日も空き時間は、パーシバルと
真面目な話題で色気は無いけど、一緒にいられるだけで、気分上昇! 勉強も捗るよ!
外交学2のディベートは、青組のカルディナ帝国側がギリギリ勝ったけど、ラッセルとアルーシュ王子とザッシュにかなり追い込まれたよ。
先生は「あと少しでローレンス王国側の勝利だったのに!」と悔しそうだったけどね。青組からブーイングが起こったよ!
経営2の学食の改善プランは、前に纏めておいたから、かなり自信がある。
「パーシー様も経営2のレポートは書かれたのでしょう?」
これは、アンケート調査をしたから、資料もバッチリだし書きやすい。
「ええ、ペイシェンスの纏めてくれた資料があるから、なかなか良い出来だと思います」
2人でにっこりと笑う。
そして、経済学2のは、外国からのスパイスや調味料の輸入の多さの問題点を書いた。改善策は、温室での南国植物の栽培と、加工品の品質向上かな?
貿易収支的には、高価な魔導具でなんとかなっているけど、今回は農作物の輸出入だからさ。
スパイスやら調味料の輸入超過! 滅茶苦茶、身に覚えのある問題点だよ。
「ペイシェンスは、特に、外国のスパイスや調味料を多く買っているからね」
パーシバルも笑っていた。
「カルディナ帝国からの調味料については、国内でも作れそうなのです。大豆は作られているのだから」
驚いたみたい。
「えっ、調味料は大豆から作られるのですか?」
にっこりと笑って誤魔化す。
「ええ、本で読みましたわ。大豆を湯がいて潰し、そこに麹菌と塩を混ぜて発酵させるのです」
これは、前世の実家で、祖母が毎年味噌を作っていたから知っている。というか、手伝わされたからね。
「冬休みに味噌を作るつもりです!」
パーシバルは、呆れたかな?
「でも、冬休みは領地を見に行く予定ですが?」
それは忘れていないよ!
「味噌を作るのは、1日でできますわ。ただ、食べられるのは1月後か3月後です。お醤油は、もっと時間が掛かりそう。領地を貰えたら、そこで作っても良いかも?」
自宅分ぐらいは、エバと作ったら良いけど、タレの受注が多いのだ。
今はカルディナ街で買っているけど、味噌と醤油を作ったら、安くできるし、利益も増えそう!
「そうか! 領地で豆を作らせて、そこで加工すれば、産業になりますね!」
缶詰の工場は、設備投資が大きくなりそうだけど、味噌や醤油は蔵と樽があればできるからね。
塩は、目の前に海がある!
国際学は、覚える法律の多さに皆はあっぷあっぷしているけど、私は少し楽しちゃう。
「ここは、あの法律が適用されますね!」
さらさらと課題を解いていると、パーシバルに驚かれた。
「ペイシェンス、国際法を暗記したのですか?」
ちょこっと種明かしする。
「ゲイツ様に暗記術を習ったのです。あっ、学園長にもテストに使っても良いと許可を頂きましたよ」
パーシバルが頭を抱えている。
「問題にする箇所が違っていますよ。テストなんかより、暗記術を習得できる方が大変なのです」
ええっ、そうなの? そう言えば、サリンジャーさんも学園長も習得できなかったとか?
「そうなのかしら? 弟達にも教えようと思っていたのに……やってみますわ」
パーシバルは「是非、自分にも!」と頼んでくる。
「ええ、でも上手く教えられるかしら? これも冬休み案件ですね! そうだ、パーシー様もオルゴール体操で、魔素を身体に取り込むのも教えると言っていたのに、忘れていたわ」
あれこれ忙しくね! えっ、アップタウンデートとかカルディナ街お買い物デートとかしていたじゃん! なんて、言われても、まぁ、これから教えたら良いだけだよ。
「魔素を取り込む方法は、是非!」
そう言えば、アルーシュ王子が言っていた事も、少し考えたいんだよね。
「ローレンス王国では、身体に魔素を取り込んで使っていますが、これって他の旧カザリア帝国の国でも一緒なのかしら?」
エステナ聖皇国では、魔法が使えるのはエステナ神の恩寵って教えを護っているみたいだけど?
「それは、ロマノ大学の考え方ですね。他の国では、神のお陰の方が一般的ですし、王立学園の魔法学もそちらです」
だよね! 前世のいい加減な信仰でも、何か超越した神の存在に頼る性分とかがあるから、全否定はしないから、半々かな?
「でも、南の大陸では全然違うそうですわ」
パーシバルも魔法の使い方には興味があるみたい。
「竜がいるから、大気にも土地にも水にも魔力が溢れているそうです。だから、その魔力を使って魔法を使うみたい」
竜! パーシバルもそこに驚く。
「本当に竜がいるのですね!」
いや、前に竜の素材には興味があるけど行かないって言ったじゃん。
ああ、パーシバルの騎士魂が燃え上がっているよ。
「ええ、リュミエラ王女もバルト王国の大使が竜の谷があると言っていたと教えて下さいましたわ。それに、アルーシュ王子も竜の素材の指輪をされているから、いるんじゃないかしら?」
竜の素材の話は覚えていたので、パーシバルは笑う。
「私も、南の大陸に派遣されても、竜の谷には行きませんよ」
ホッとしたよ。守護陣のマント、頭や顔はカバーしていないからね。
マーガレット王女やリュミエラ王女も、裁縫の時間が空いたので、寮や
私は、それに付き合う時が多いけど、パーシバルと一緒の方が楽しい! それに、
早朝に起きるのも慣れたし、乗馬がかなり上達したからかも?
「冬休みは、グレンジャー家に連れて行くつもりなのですが、大丈夫かしら?」
サンダーに相談するけど、前から話は通っているみたい。
「ええ、そろそろスレイプニルも各々引き取り場所が決まったみたいですし、
大使館に行かないと知った時の騒動は、大人達に任せよう。
第一、そんな事を言ったのはゲイツ様だからね!
レポートも無事提出したし、テストもなかなか良い出来だったと思う。
テストの結果は、春学期みたいには公表されない。留年とか、飛び級とかは、親に直接手紙で知らせるみたい。
美術や裁縫などの展示はされたけどね。
リュミエラ王女、パリス王子、アルーシュ王子、ザッシュ、オーディン王子の絵画、全部青いリボンがついている。
流石に国でも教養として学んで来たみたい。
「アルーシュ王子の絵、とても個性的で素敵ね!」
マーガレット王女も褒めているけど、色彩が鮮やかで良い感じ! ゴーギャンぽいね!
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