第170話 中等科1年生も終わり

 中等科1年生の秋学期は終わった。

「どうやって馬の王メアラスを家に連れて帰ろうかしら?」

 これが一番の悩みだよ。馬房は、凄く立派なのが建っている。

 一頭だけなのに? と疑問に思ったけど、繁殖の時の牝馬用もあるみたい。

 そこら辺は、サンダーに任せるよ。繁殖とか知らないからね!


「昼は、人目が多いから、早朝でしょう。それでも、騒ぎになりそうですね」

 ふぅ、それしかなさそう!

「でも、暗いうちは不安だわ」

 学園内ならいざ知らず、公道だからね。

馬の王メアラスなら、薄暗い早朝でも大丈夫でしょう」

 まぁね!


 パーシバルは、他の事も考えている。

「運動は、近くの公園ですかね? 確か、乗馬ができるコースもあったはずです。私も疾風号ヴェントの運動を何回かさせていますが、馬の王メアラスは目立ちそうですね」

 それも問題なんだよね。

「ええ、私は構わないけど、馬の王メアラスはまだ知らない人間には神経質になるから」

 パーシバルは、プッと吹き出す。

馬の王メアラスは、ペイシェンスを心配して警戒しているのですよ。彼は、誰が近づこうと一蹴りで撃退できますからね」

 それも困る! 怪我させたりしたら問題になったりしそう。


馬の王メアラスが蹴りそうな時は、止めますわ。人が邪魔なら拘束します」

 爆笑されたけど、ハッとした顔で注意された。

「あの回転する拘束魔法はやめておいた方が良いですよ」

 まぁね! あれは模擬決闘だから、使ったんだよ。脚を氷付けとか、腕輪で拘束なら良いんじゃないかな?

「何か怖い気もしますが、怪我をしないなら、何でもいい気がします。ペイシェンスと馬の王メアラスの安全が第一ですから」

 まぁ、これは冬休みに家に帰ってから考えよう!


「リュミエラ様もパリス王子もアルーシュ王子もザッシュ様もオーディン王子も一時帰国されるのですね」

「ええ、元々、コルドバ王国の流行病は早く封じ込められましたし、ソニア王国もなんとか収束できたようです」

 あの帰国命令を無視した司祭が中心になって治療したみたいだけど、庶民の犠牲者は多かったそうだ。


 寮は、慌ただしい雰囲気だ。卒業生は、もう退寮しているけど、領地に帰る学生とか、荷物を運んでいる。

 お土産に、日持ちがするチョコレートの箱を渡す。

「ああ、ありがとう!」

 まぁ、パリス王子とオーディン王子は、そのまま国にいてくれたら嬉しいけどね。

 最初は、ヤンキーレゲエ王子の印象が強かったけど、アルーシュ王子は結構真面目に勉強しているし、魔法に興味があるのも本当みたいだから、割と好印象なんだ。


 さて、お土産も渡したし、明日の朝早くは馬の王メアラスを屋敷に連れて帰る。

 その準備は、ほとんどできているから、早く寝るよ! マーガレット王女もリュミエラ王女も寮から王宮や大使館へ帰っているからね。


 早朝、メアリーも早起きして、寮の持って帰る物を用意して、馬車で運んでもらう。

「お嬢様、お気をつけて!」

 馬の王メアラスと帰るのが不安みたい。

「パーシー様と一緒だし、サリエス卿も来られたから、平気よ!」

 馬の王メアラスの移動の警備に、サリエス卿が来てくれたのだ。

 それも何人かの第一騎士団を引き連れてね!


 まぁ、その必要性は、騒いでいるデーン王国の騎士達を見たら分かったけどさ。

「特別馬房の使用は、今日までです! デーン王国のスレイプニルは大使館に引き取って下さい」

 あらら、朝に弱いゲイツ様も来ているよ!

「それは承知しているが、馬の王メアラスは大使館で飼うのでは無いのか!」

 バレオスが騒いでいる。ここは、ゲイツ様に任せよう。

「ええ、それはペイシェンス様が馬の王メアラスを飼えないならという前提の話です。グレンジャー家には特別な馬房も用意されていますし、世話をするサンダーとジニーも常駐しますから、大丈夫ですよ」

 バレオスは、顔を真っ赤にして怒っているけど、口ではゲイツ様には勝てないし、あの討伐数を見たら武力でも負けるのは確実だ。


「さぁ、ペイシェンス様、馬の王メアラスに乗ってください」

 デーン王国の騎士達からは、凄い視線を感じるけど、無視して乗る。

 まぁ、乗馬台を使わずに乗れるようになっていて良かったと内心で思ったよ。

 文句を言う口実にされそうだからね。

 パーシバルもスッと乗って、サリエス卿の誘導で、屋敷に帰る。


 少し物々しい行列になったけど、早朝だし、無事に屋敷に着いた。

「サリエス卿、お茶でも?」と誘ったけど、業務だからと帰っていった。

 新しく建てた馬房に、馬の王メアラスを入れる。サンダーは先に来ていたみたい。

「ここが新しい馬房よ!」

「ブヒヒン!」と満足そう。

 サンダーとジニーに馬の王メアラスの世話をまかせて、私は弟達と会わなきゃ!


 屋敷に入ったら、ナシウスとヘンリーが出迎えてくれた。

「お姉様、あれが馬の王メアラスなのですね! とても綺麗なスレイプニルです」

 ナシウスとヘンリーは窓から見ていたみたい。

「ええ、落ち着いたら会わせてあげますよ。でも、馬の王メアラスが新しい環境に慣れるまでは、側に行ってはいけません」

 蹴られたりしたら大変だから、キチンと言い聞かせておく。


「パーシー様、お茶を一緒に!」

 パーシバルは、馬の王メアラスと屋敷に来たので、馬車が来るまで応接室でお茶をする。

 ナシウスやヘンリーも一緒だから、いちゃいちゃはしないけど、冬休みの計画を立てる。


「モラン伯爵領には、5日後に出発しましょう。馬の王メアラスを連れて行くので、少し慣れてからの方が良いと思います」

 群れで生活していた馬の王メアラスだけど、意外とあっさりと他のスレイプニルと別れた。

 デーン王国のスレイプニルは、今は大使館だね。

 ローレンス王国のスレイプニルは、王宮で世話をされている。

「いつ、スレイプニル達の主人が決まるのかしら?」

 パーシバルがクスクスと笑う。

「馬が嫌いだったペイシェンスが、そんな事を気にする様になるなんて!」

 まぁ、それはやはりね!

「スレイプニルは、まずは軍事関係者に譲られるでしょうが、妊娠中のスレイプニルは、王宮に留めておくでしょうね」

 出産してから、譲った方が良いからね。

「馬は春に出産するのかしら?」

 私は、馬に関する知識不足だ。

「ええ、冬には産みませんよ。特にスレイプニルは野生だったから、春から夏に出産するでしょう」

 特にデーン王国の冬は厳しそうだから、餌を見つけるのも大変だ。小馬を育てるのは、春から夏の方が良いよね。


「ペイシェンス、モラン領には馬の王メアラスを連れて行くのですから、途中の警備体制を整えるのに5日掛かるのです」

 あっ、そうか! 馬車の旅行なら、馬に乗った護衛で良いけど、馬の王メアラスより早い馬はいないからね。

「あちこちに配備してから、出発します」

 これは、パーシバルに任せよう!


「あのう、基本的な質問で恥ずかしいのですが、領地はいつまでに決めたら良いのかしら?」

 パーシバルも考え込む。

「それは、父に聞いてみます。でも、早い方が良いとは思うのです」

 だよね! でも、領地の管理なんて、何も知らないんだ。

「当分は、モラン伯爵領を管理しているアラン・ミューラーにお願いしてはどうでしょうか? 勿論、それは近くの領地にした場合ですけど」

 そうか、まだグレンジャーにするか決めてないんだよね。

「それと、子爵家には、ある程度の軍事力も必要になります。今は、平和ですが、戦争になれば、徴兵されますからね」

 ふぅ、来年は、領地管理を習わないといけないな!


 難しい話は、ここまでにして、モラン伯爵領を訪問する話に変える。

「弟達も一緒で良いのですか?」

 前に一緒で良いとは言われたけど、確認するよ。

「ええ、勿論! ナシウスとヘンリーが一緒だと楽しそうです」

 それは良いんだけど、ゲイツ様も一緒なんだよね! 領地の開発とかの相談には役に立つけど、婚約して初めての旅行だよ!

「お姉様、連れて行って下さるのですか?」

 ヘンリーは嬉しそうに抱きついてくる。可愛いから、キスしておこう。

 ナシウスは、気を使っている。

「良いのでしょうか?」

 この心配り、ゲイツ様に見習って欲しい!

「ええ、勿論よ!」

 

 パーシバルもすぐに帰ったから、私は旅行の準備をしなきゃね! 

 えっ、5日後だって? 色々作りたい物がいっぱいなんだよ!

 それに、寒い中の旅行だから、防寒着を縫って貰いたい。ダウンコート! 羽根はいっぱいあるからね!


 こうして、中等科1年は終わった。冬休みは、パーシバルとモラン領に行って、領地候補のグレンジャーとハープシャーを見てくる。

 2つの領地を合わせると、伯爵領並みの広さだけど、グレンジャーの土地は痩せているみたい。

 さて、行くまでに情報を収集しなくちゃね!

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