第167話 収穫祭が始まったよ

 収穫祭の朝、マーガレット王女とリュミエラ王女の髪型を少し凝ったのにして、ドレスの共布で作った髪飾りを付ける。

 勿論、私もね! 

「ええ、これで良いでしょうか?」

 マーガレット王女は、鏡でチェックして微笑む。

「ありがとう! とても素敵だわ」

 リュミエラ王女は、朝からテンションMAXだ。

「リチャード様が、発表会は来られないけど、ダンスパーティには来られるのよ!」

 卒業生の婚約者だけだと思っていたけど、在校生でもありなんだね。

「お兄様が来られるなら、リュミエラ様は少しお化粧をしても良いかも?」

 日頃から、マーガレット王女は眉墨や口紅を薄く付けている。

「でも、社交界デビューしていないのに……リチャード様は華美なのはお嫌いなタイプだと思うのですけど……」

 マーガレット王女は、にっこりと笑う。

「お兄様は、厚化粧や香水がぷんぷんする女性はお嫌いでしょうけど、少し薄化粧するぐらいは大丈夫よ!」

 うん、そう思う! でも、朝食の後に化粧はする事になった。


 珍しくパーシバルは、朝食を終えていた。

「ペイシェンス様、マーガレット王女やリュミエラ王女と一緒に行動されるのですね」

 そう、今日はずっと一緒だよ。

「パーシバルは、学生会長で忙しそうですわね。ペイシェンスは、ずっと一緒ですわ」

 パーシバルは、にっこりと笑って「では、ダンス会場で」と言い残して席を立った。

「学生会長は、やはり大変そうですね」

 これが初仕事って訳じゃない。魔物討伐や、予算とか色々あるのだけど、一般の学生の目に見えるのは、収穫祭がいちばん大きいイベントだからね。

「スピーチもあるけど、パーシバルなら大丈夫だと思うわ」

 マーガレット王女の発言で、去年のルーファス学生会長の緊張感漂うスピーチとリチャード王子の貫禄あるお礼の言葉を思い出しちゃった。


 部屋で少しだけ眉や口紅をつけて、講堂へと向かう。早く色つきリップクリームを作ろう! 口紅をつけて、紙を口に挟んで取るけど、なかなか難しい。

 私は、ほとんど取れちゃったよ! まぁ、このくらいの方が12歳の私には似合っているけど、艶々リップの方が良いなぁ。

 前世でも、薄いピンク色になるリップクリームをよくつけていたよ。


「プログラムは、グリークラブ、演劇クラブ、昼食後に、音楽クラブなのですよね」

 アルバート部長とマークス部長は、あれこれと舞台で相談したり、楽器の位置を決めたりと騒いでいる。

 それを、私たちは少し離れた場所で見ている。

 こんな時は、近くにいるのは避けたいから。


「王立学園は楽しいですね」

 パリス王子も、グリークラブと音楽クラブの掛け持ちだからね。

「ええ、クラブ活動とかしたことがありませんでしたから」

 リュミエラ王女も浮き浮きした声だ。

 確かに、王宮に学友を呼んで、家庭教師と勉強するのとは違うと思う。


 収穫祭は、卒業する中等科3年生の追い出し会の意味合いがある。

「そろそろ、楽屋に行きましょう」

 3年生が講堂に集まって来たので、椅子に座っていた出演者は楽屋に移る。

「ああ、ペイシェンス様、とても綺麗ですよ」

 パーシバルは、少しだけお化粧しているのと、髪飾りに気づいた。

 ちょっと嬉しいけど、邪魔者がいるから「ありがとうございます」とだけ応えておく。

 パーシバルが、前学生会長のルーファスと一緒に舞台の袖で待っていたんだ。


 前学生会長のお礼の挨拶は、発表の終わった後だから、ルーファスは、ここに居なくても良いと思うけど、あれこれ心配なのかな?

「今年は、出し物が少ないから、寂しくならないと良いのだけど」

 ちょっと、ムカッとしちゃう。コーラスクラブが不参加なのは、パーシバルのせいじゃないよ!

「いえ、卒業生の皆様を楽しませるよう、各クラブも頑張ってくれましたよ。演劇部も悲劇はやめて、喜劇に挑戦するそうです」

 それには、ルーファス前学生会長もホッとしたように笑う。

「私の時は神話を題材にした悲劇で、最悪だったからな」

 昼からだったし、ほとんどの観客は居眠りしていたんだって。


 時間になったので、パーシバルが舞台に立つ。

「6年生の皆様、収穫祭を始めます」

 中等科3年と普段は言うけど、王立学園6年が正式な呼び方なのかも?

 

 なんて考えながら、舞台下の私の椅子に座る。リュートを演奏しながら、少し舞台にも目を向ける。

 やはり、2回目だからか、凄く上手くなっている。

 リュミエラ王女も、主人公の友だち役を演じてて、凄く歌も上手い。

 マーガレット王女は、音楽クラブとの掛け持ちなので、友だちAだね。

 パリス王子は、ライバルBだ。でも、主役より華があるかも?


 ハッピーエンドだし、歌って、踊っての楽しい舞台だから、卒業生達も喜んで拍手している。

「良かったですわ!」とマーガレット王女とリュミエラ王女に声を掛けて、私たちは講堂の2階で演劇クラブの見学だよ。

 マーガレット王女もリュミエラ王女もパリス王子も、初めてのグリークラブの発表会に興奮しているみたい。

 ああ、これはまずいかもね! 文化祭の時とかカップルができやすいんだ。

 その上、ダンスパーティもあるし……でも、ここは側で見守るしかないかも?


「演劇クラブ、悲劇より喜劇の方が上手いのでは?」

 マーガレット王女の意見に賛成! でも、やはり色々と違う演目をしたいのかな?

「収穫祭は、3年生の追い出し会を兼ねているなら、明るい方が相応しいと思いますね」

 パリス王子の意見も尤もだと思うよ。青葉祭は、自分達の好きな演目をしたら良いけど、こちらは卒業する学生が全員観ているのだから、苦痛に感じるようなのは避けた方が良い。


 男女のすれ違いや、勘違いの大騒動も、最後は誤解が解けて、ハッピーエンドだった。

 笑える演目だったし、コミカルな演技に拍手も多かった。

 ここで、昼食休憩だ。

 

 やはり、パーシバルは他の学生会メンバーと食べるみたい。なので、私はマーガレット王女やリュミエラ王女と上級食堂サロンで食べるよ。

「ダンスパーティに間に合われるかしら?」

 リュミエラ王女の心配は、リチャード王子の事!

「大丈夫よ。お兄様も学生会長をされたから、何時からダンスパーティが開かれるかわかっているわ」

 だよね! ただ、リュミエラ王女は、卒業生じゃないから、最初の一曲は踊らずに見学だけど。


 昼からの音楽クラブの発表! 講堂に集まる6年生達に、入り口で『再会の歌』の歌詞カードとペンライトを渡す。

 ペンライトの使い方と回収は、学生会のメンバーに任せて、私たちは舞台で準備だ。

「魔石をセットして、ああ、これで良い」

 いつもは、収穫祭をパスすると言っていたカエサル部長やベンジャミン達も、今回はコーラスの段や、ペンライトを作ったから、見学するみたい。

 やはり、何かあった時に安心だからね!


「2階席で観ている!」

 錬金術クラブメンバーは、上手く飾りがついたので、楽屋から出て行った。

「皆、練習の成果を見せてくれ!」

 アルバート部長に気合を入れられて、全員の顔が引き締まる。

『歓喜の歌』はグリークラブのコーラスと演奏が絡み合って、どんどんとテンションが上がっていく。

 観客達も、圧倒されたみたい。演奏が終わったら、拍手喝采だった。


「6年生の皆様、先程配った歌詞カードとペンライトをお出し下さい。『再会の歌』を1度目は、グリークラブが歌いますから、2回目からは、ペンライトを振りながら、ご唱和下さい」

 アルバート部長の説明通り、1回目は、グリークラブが歌う。

 うん、客席の学生もペンライトを振っていて、なかなか綺麗だ。


 簡単な歌詞なので、2回目からは、全員が歌う。王立学園では、音楽が必須科目だから、全員がある程度の音楽的な教育を受けている。

 なので、なかなか良い感じだし、女学生の中には、涙を浮かべている人もいる。


『再会の歌』の合唱の後、全員がペンライトを振りながら、お互いに笑い合う。半泣きの人もいたけど、それも良い感じだ。

「6年生の皆様、たまには王立学園の日々を思い出して下さい。新たな生活が実り豊かな物になりますように」

 あっ、収穫祭と掛けたんだね。パーシバルのスピーチは短かったけど、ルーファス前会長のお礼の言葉は長かったよ。

 でも、まぁ、これで収穫祭は無事に終わった。

 出口で、ペンライトを回収するのは、学生会メンバーの男子学生に任せて、私はマーガレット王女やリュミエラ王女と裁縫室に急ぐ。

 ドレスに着替えなきゃね!

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る