第154話 ルシウスの結婚式

 土曜の朝も馬の王メアラスの運動に付き合う。私は、放牧場まで乗っただけで、その後はパーシバルと走っていた。

 フルスピードで走りたい気分だったみたい。

「ブヒヒヒヒン!」

 下手くそ! と言われた気がするよ。

「今夜は、来られないのですね」

 サンダーは、少し不安そうだけど、何度も言い聞かせたからね。

「もし、不満そうだったら、これをあげてください」

 角砂糖を渡しておく。

「明日の夕方に来るから、良い子にしているのよ! 美味しいお土産をあげるからね!」

「ブヒヒン!」

 わかった! 

 馬といえば人参! 馬の王メアラスも人参が大好きだから、キャロットケーキをエバに焼いて貰うつもり!


 寮に戻ったら、6時なのにメアリーがもう来ていた。

「お嬢様、早く帰ってお着替えをしませんと!」

 焦っているみたいだけど、結婚式は10時からだよ。

「メアリー、そんなに急がなくても……」

 急かせるメアリーに馬車に連れて行かれる。

「お嬢様は、ブライズメイドだから、サマンサ様のマリナーラ伯爵家に早くから行かないといけないのですよ。初顔合わせだから、より早く行きませんと」

 やれやれ、アンジェラもフラワーガールで早めにマリナーラ伯爵家に行くと聞いて、少しだけホッとする。

「パーシー様は?」

 パーシバルも一緒に行くと聞いて、微笑んじゃう。

「近頃は、馬の王メアラスと一緒の時ばかりなの。今日は、ゆっくりとお話しできるわ」

 

 屋敷で軽く朝食を済ませて、お風呂に入る。

「ああ、温かいわ!」

 やはりお風呂は良いよね! 朝風呂なんて贅沢な気分だけど、メアリーに急かされる。

「乾け!」で髪は乾かすから、モリーとマリーがリメイクしてくれたドレスを着る。

「ああ、良かったわ!」

 これなら幼い親戚の子には見えない。とはいえ、年相応もかなり若いのだけどね。

 ピンク色の生地は同じだし、裾のフリルも同じだけど、何段もフリフリは無い。

 それに胸元に結んだ薄いレースの大きなリボンがなかなか良い感じなんだよね。

 透ける白いレースが甘いピンクを和らげている。

 

「髪型は、少しアップにして、このピンク色のリボンを飾りましょう!」

 取ったフリルでリボンを作ってある。そのリボンの真ん中にはキラキラ光る半貴石のビーズが散りばめられて、なかなか豪華だ。

 髪の毛を一旦はアップにして、そこから巻き髪を下ろす。

「あまりキツい巻き髪にはしないでね」

 ドリル髪は、好みじゃない。

「わかっていますわ」

 メアリーは、私の好みも熟知しているから、安心して任せられるよ。

 

 着付けが終わったら、手首の内側にアンジェラがくれたバラの香水をつける。

 バラの香水で、父親との会話を少し思い出した。

『ああ、ルイーズはどうしているのかしら?』

 冬の討伐から帰っても、ルイーズは学園に通っていない。

 気になるけど、フェンディ伯爵が私の留守中に父親に謝罪に来たのだ。

 父親には、討伐前に簡単な説明しかしていなかったから、事の重大性について、討伐から帰った時に叱られたよ。


「ルシウス様とサマンサ様の結婚式なのに、暗い事は考えたくないわ!」 

 バラの香水から、ルイーズを思い出しちゃったけど、私の決める事ではない。父親のフェンディ伯爵の考え方次第なのだ。

 できたら学園に復帰して欲しいと願うのは、甘いのかもしれない。

「メアリー、この香水を使い切ったら、違う香りの香水を買いましょう!」

 メアリーは「良い香りなのに?」と首を傾げているけど、バラの香水は当分付けたくない。

「柑橘系とか、フルーティーな香りが良いわ」

 基本的に、メアリーの萌ポイントは、ドレスやアクセサリーや香水などのアイテムだ。

「それも、若々しくて良いかもしれませんわ」

 浮き浮きと承諾してくれた。

「まゆ墨と薄いピンクの口紅を付けましょう!」

 ペイシェンスは、金髪だから、眉も金色で薄い。

「あまり濃くすると、変になるわ」

 注意したけど、メアリーは心得ている。

 まゆ墨で、少し眉の形をはっきりさせて、ピンク色の口紅も少しだけつける。

「まぁ、とても綺麗になりましたわ!」

 確かに鏡の中の私は、ほんの少しだけ大人びて見える。

「パーシー様の婚約者に見えると嬉しいわ!」

 私も、少しずつ背が伸びているけど、パーシバルは、またぐんと背が伸びたのだ。

 オパールの婚約指輪を嵌めながら、もっと背が高くなったらキスしやすいのにと内心で愚痴る。


「ペイシェンス様、とても綺麗ですよ」

 パーシバルが迎えに来てくれたので、一緒にマリナーラ伯爵家に向かう。

「ああ、屋敷が華やいでいますね!」

 ローレンス王国の貴族の結婚式は、花嫁の実家で行われる。父親達は、モンテラシード伯爵側だから、結婚式前に到着する予定だ。

 門から花飾りが施されている。ふむ、ふむ、参考にしよう!

「結婚式って、もっと季節の良い時期にするのだと思っていましたわ」

 ジューンブライドとか無いのかしら?

「春も多いですが、この時期も多いですよ。領地の収穫と納税を済ませてから、結婚式をした方が落ち着くと考えられたのでしょう。夏場は少ないですね。食べ物が傷みやすいから、大人数を呼ぶのに向いていませんから」

 ああ、冷蔵庫も小さいのしか無いからね。この時期なら、早めに作っておいても、温めるだけで大丈夫なのかも?


 馬車からパーシバルにエスコートして貰って降りる。

「パーシバル・モランとペイシェンス・グレンジャーです」

 玄関ホールも花でいっぱいだ! マリナーラ伯爵家には立派な温室があるのか、ロマノ中の花屋から買い集めたのかな? もしかしたら、家の温室のバラも買って貰ったのかも?

「パーシバル様は、あちらでお待ち下さい。ペイシェンス様は、サマンサ様のお部屋に案内します」

 執事にパーシバルは応接室に、私はメイドに2階のサマンサの部屋に案内される。

 お祝いの品は、グレンジャー家からは父親がルシウスに金貨を贈るみたい。

 私は、個人的に花嫁にカルディナ街の鮮やかなブルーの絹地に銀ビーズで刺繍を施したバッグを贈る。

 これは、メアリーがご祝儀台に置いてくれた。

 ご祝儀台には、金貨が入った皮袋や贈り物の箱が並んでいた。

 これも、要チェック! 後で、お礼状とか書かなきゃいけないみたい。


「ペイシェンス・グレンジャーです。サマンサ様、ご結婚おめでとうございます」

 薄い茶髪で青い目のサマンサは、とても綺麗な花嫁だった。

「ペイシェンス様、この度はブライズメイドを引き受けてくださり、ありがとうございます」

 まだベールは着けていなかったけど、ドレスは細かい刺繍が施されていて、何年も待った間に準備したのがよくわかる力作だよ。

「素敵なドレスですね!」

 ふふふ……と嬉しそうにサマンサは笑った。

「自分で刺繍をしましたの」

 ああ、アマリア伯母様は、サマンサと比べるからユージーヌ卿には不満なのだろう。

 まぁ、長男と違って屋敷も別だから、大丈夫だと良いな。


 そんな事を話していると、アンジェラがラシーヌと一緒にやってきた。

 本来は、ラシーヌはルシウスの姉だから、モンテラシード伯爵家に集まってから、こちらに来るのだけど、フラワーガールの付き添いだからね。

「ご結婚、おめでとうございます」

 アンジェラも、ちゃんとお祝いの言葉を言う。

「アンジェラ様、フラワーガールを引き受けて下さり、ありがとうございます」

 アンジェラは、白のフリフリドレスだよ。これをもう少し大人っぽくリメイクしたら、花嫁のドレスと被るから、ラシーヌはフリフリのまま着させている。


 大人達は、サマンサの周りに集まって、あれこれ話している。

 私とアンジェラは、部屋の隅の椅子に座って小さな声でお喋りする。

「ペイシェンス様のドレス、素敵だわ! 私のって8歳の子どもみたい」

 まぁ、フラワーガールにはアンジェラは年が上だよね。

「内緒ですが、リメイクさせましたの。アマリア伯母様の趣味はフリフリすぎるのですもの」

 アンジェラは、フリフリのドレスも似合うけど、やはり限度があるよね。

「まぁ、ペイシェンス様のメイドは裁縫の腕が良いのね! この前、乗馬服を頂きましたが、とても素敵でしたわ。乗馬クラブには入りませんが、ジェーン王女と一緒に行動したら、馬は避けて通れませんもの」

 アンジェラもあまり乗馬は好きじゃないみたいだけど、私よりは上手いのだ。

 

 ちょこっと話している間に、ベールを被せる時間になった。

 マリナーラ伯爵夫人が、頬にキスをして、サマンサにベールを被せて、その上からティアラで固定する。

「綺麗よ! サマンサ!」

 うっ、涙脆いペイシェンスが泣きそうだけど、

グッと我慢する。


 ここから、アンジェラと私の出番だ。

 アンジェラは、マリナーラ伯爵夫人が用意した白とピンクの薔薇のブーケを持って先頭に立つ。

 私は、ウエディングドレスと長いベールが階段に付かないように持って、ゆっくりと花嫁の後ろから降りる。

 階段を降りたら、アンジェラとお揃いのブーケを持って、応接室に先導する。


 ああ、応接室には招待客がいっぱいだ。

 ユージーヌ卿、えええ、騎士の礼服だ。格好良いから、私的には有りだけど、アマリア伯母様の眉が上がっているよ。

 簡単な祭壇の前には司祭が待っている。前に私の能力判定をした人ではない。モンテラシード伯爵家かマリナーラ伯爵家の領地の司祭なのかも?

 これもチェックしておく。

 華やかな音楽は、隅においてあるハノンで流され、アンジェラ、私、そして花嫁がマリナーラ伯爵にエスコートされて、ルシウスの待つ祭壇へとゆっくりと歩く。

 祭壇に着いたら、花嫁のブーケを一旦受け取るのもブライズメイドのお仕事だ。

 ここで、私とアンジェラは、椅子に座って、結婚式を眺める。

「ああ、5年後にはパーシー様と結婚するのね!」

 胸がジーンとするよ。


 でも、司祭さんの話は長かった。私的にはもっと短くて良い気がするよ。

「ルシウス・モンテラシード、サマンサ・マリナーラを妻とするか?」

 ルシウスは、サリエス卿にそっくりで、少しだけ細い。緊張した声で「はい」と答える。

「サマンサ・マリナーラ、ルシウス・モンテラシードを夫にするか?」

 サマンサも緊張した声で「はい」と答えた。

 結婚指輪の交換をしたら、ブライズメイドの私が預かっていたブーケを花嫁に渡す。

 ここからは、私はパーシバルと一緒だよ! 

 

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