第153話 金曜も帰れない

 土曜はルシウス様の結婚式だけど、馬の王メアラスの世話があるから、その日の朝の運動を済ませてから家に帰る予定だ。

 馬を買ってからは、金曜に帰るのが普通になっていたから、悲しい。

「金曜に弟達と会えないのが辛いです!」

 土曜の結婚式は、馬の王メアラスの朝運動が終わった後に帰って、お風呂に入っても十分に間に合う。

「ペイシェンスは、弟達が大好きですから」

 パーシバルに呆れられたかな?

馬の王メアラスには土曜は朝だけで、日曜の午後には帰ると言い聞かせるつもりだけど……大丈夫かしら?」

 できれば、日曜の午前中はカルディナ街デートしたい。調味料が無くなっているんだもん。

「サンダーとジニーにも慣れてきたから、大丈夫でしょう」

 そうだよね! 他のスレイプニル達も騎士や馬丁の世話を受け入れている。

 

 金曜の1時間目の錬金術クラブはパスするつもりだったけど、ベンジャミンにホームルームで話しかけられた。

「カエサル様が、来て欲しいと言っていたのだが……」

 何だろう?

「午後から行こうと思っていたけど、カエサル部長が呼ばれるのって珍しいですね」

 1時間目は、今日こそレポートを纏めるつもりだったけど、それは4時間目にしても良い。

 ホームルームまで迎えに来てくれたパーシバルに「錬金術クラブに行くことになったので、ベンジャミン様に送って貰うわ」と断る。

「2時間目の前に錬金術クラブに迎えに行きます」

 まだパーシバルは、警戒しているのかな?

 

 私が訝しんでいるのが、ベンジャミンにもわかったみたい。

「婚約者のエスコートは、普通だろう?」

 えっ、そうなの? 

「忙しいのに、面倒だと思われないかしら?」

 ベンジャミンに呆れられた。

「一緒にいたくないのか?」

「それは、一緒にいたいけど……」

 どうも、恋愛脳にはなりきれないのかな? かなり、パーシバルに夢中だと思うけど?


 なんて話しながら錬金術クラブに向かう。

「おお、ペイシェンス! 女子爵ヴァイカウンテスおめでとう!」

 カエサルとアーサーに祝福してもらう。そのために呼んだの?

「ペイシェンス、あの沸くポット、ティーバッグ、焼肉のソース、簡易カイロ、長靴、シュラフ、注文が殺到しているのだ! 私達は討伐を終えたけど、まだまだ冬は長いからな」

 そうか、騎士団と冒険者はまだ基地キャンプで討伐しているのだ。


 長靴は、全員が冬場なら中に暖かい毛皮か布が欲しいと言う。できれば、それも魔法防衛力があればなんて言い出す。

「今年は特に寒いからな! だが、ぬかるんだ土地でも滑りにくくて良かった」

「しかし、冒険者なら、安価な方が買いやすいだろう」

 安い長靴と高級な長靴の両方に需要がありそう。ふむ、ふむ、参考にしよう!

「沸くポットとティーバッグは、ここにサインしてくれたら、増産する予定だ。簡易カイロも是非商品化したいとパウエルが言っていた」


 あと、第一騎士団からソースの注文も来ている。

 何故か、バーンズ商会に書類が回ったみたい。

「これは、エバに作らせますわ」

 辛味噌、醤油ベース、ポン酢、甘味噌、胡桃タレ、どれも大量注文だけど、今は助手が大勢いるからね。

 カレースパイスは、値段が高くなりそうだから、次回にするみたい。

「カエサル様、このティーバッグは、孤児院の内職にしているのですが……」

 それは、そのままで良いと言われた。

「他でも作らせるが、孤児院にもこのまま発注するよ。第一騎士団だけでなく、他の騎士団も欲しがるのは目に見えているからな」

 ふぅ、書類が多いよ!

「子爵にサインを貰いたいから、今日、ペイシェンスに書類を渡したかったのだ」

 なるほどね! でも、クラブハウスの隅に置いてある樽は?

「ペイシェンスがチョコレートなんか配るから、注文が殺到している! 討伐の間の補給にも手軽で良いからな」

 うっ、5樽に増えているんだけど……まぁ、良いけどさ!

「滑らかになれ!」と5回掛けて、内職終了だ。


「ペイシェンス、また魔力が増えているようだな。詠唱を省くのはやめておいた方がいいぞ」

 カエサル部長にも注意された。

「ええ、それはゲイツ様にも言われているのです。魔法使いコースに転科した方が良いと昨日もさんざん言われましたわ。当分はお休みしたいと言って許可して下さったのに、今度は乗馬訓練なのです」

 3人が勿体無い! と溜息をつく。

「王宮魔法師のゲイツ様に直接ご指導願えるだなんて、とても貴重なのだぞ」

 それは、わかっているけど……。

「今は、朝の4時から馬の王メアラスの世話ですもの。夜も寝かしつけてやらないといけないし……他の人ならもっと大切にしてあげるのに、何故、私なのかしら」

 ああああ……と全員が私の乗馬の下手さを思い浮かべたみたい。


「だから、ゲイツ様が乗馬訓練されるのか? ふうむ、魔法を駆使した乗馬術か、興味があるな」

 ベンジャミンも普通に乗馬が上手い。というか、今まで見た貴族で下手な人を見た事が無いのだけど、父親はどうだったのかな?

「ええ、私としては、せめて降りれるようになりたいのです」

 アーサーにも呆れられたよ。

「あんなに美しい馬の王メアラスの持ち主なのに、それでは情けないだろう。教えてやろうか?」

 いや、遠慮しておきます!

「アーサー、ペイシェンスの婚約者はパーシバルだぞ。普通の乗馬術なら、そちらに習ったら良いのだ!」

 そうだな! と全員に笑われた。

「そうか、パーシバル様の婚約者なのですから、もっとちゃんと乗れるようにならなくては!」

 頑張ろう! と思ったのだけど、なかなかね!


 昼からの裁縫の時間では、かなり皆はテンパってきていた。

「裏地は、無しでも良いのでは?」

 全員が裏地まで付けるのは無理だと泣きが入っている。

「冬物のドレスで裏地無しなんて考えられません。助手を増やしますから、頑張りましょう!」

 私は、キャメロン先生にミシンについて説明する。

「布を縫う機械を作ったのですが、まだ大量生産はできていません。来学期、試してみませんか?」

 今は、特許申請用のと、自宅用の2台だけだ。

「まぁ、でも高価になりそうですね」

 そうなんだよね! 部品が多いから、生産ラインができあがるまでは、1つずつ錬金術で作るから高価になりそう。

「そのうち、大量生産ができるようになれば安価になります。試作品を授業で使って貰う事は可能ですわ」

 マーガレット王女が裁縫の授業ばかりで、大変そうだから、作ったのだからね! まぁ、最初の動機だけどさ。

「是非、試してみたいわ! 縫わない糊も、裾上げは使っても良いけど、やはり縫う方が良い箇所が多いですからね」


 裁縫が終わったら、今度こそレポートの纏めだ。

 4時間目と放課後にかなり頑張って纏めたよ。金曜は、マーガレット王女とリュミエラ王女は、グリークラブの練習だから、集中して勉強した。

「経営2の学食の改善案は、これで良いと思うわ。上級食堂サロンにも手洗い場を付けるのは、テーマとは少し外れるけど必要だわね」


 上級食堂サロンで2時間目の空き時間にパーシバルと話し合ったりして、より喫茶スペースの必要性を感じた。

 その分、食堂のおばちゃん達は、余分に働かなくてはいけないけど、有料にした利益分は給料に上乗せする案だ。

 今回の流行病は、ロマノに入り込ませなかったけど、食事の前の手洗いは絶対にするべきだ。

 トイレとは別に、食堂の近くに手洗い場を増設するのもプランに入れておく。


 学食のメニューは、ロマノ大学の学食を真似て、いつものシチュー(煮込み)と軽いサンドイッチとかパイなどから選べるように改善する。

 こちらのパイ、料理では使っていたんだよね。この前、討伐の時にエバがアップルパイを焼いて箱に詰めてくれたけど、皆がスイーツのパイに驚いていた。

 基本的にミンスパイか鶏肉が入っているパイが多いみたい。


「経済学は……やはり温室栽培を増やすのがメインになりそうね!」

 スパイスや南の果物は、やはり輸入に頼っている。出来るだけ、国内で栽培したいけど、無理なスパイスもありそう。

「輸出するのは、基礎的な穀物や豆類になりそうなのよね。南の大陸には、やはりコルドバ王国の方が地理的に有利なのですもの。だから、輸出するなら加工しないと不利だわ」

 トマトの水煮とか、トマトソースとか、キャベツの酢漬けとか、加工した食品なら、遠くても売れるかも? 

「やはり、瓶詰めだと重いのよね!」

 まだ缶詰はできていないから、瓶詰めか樽になる。

 ワインとか酒類も輸出商品だけど、それはコルドバ王国やソニア王国も同じだ。

 ローレンス王国の強みは、錬金術なのだから、やはり加工技術をなんとかしたい。

 レポートの纏めをする筈が、缶詰について考えていた。


「ああ、4時間目が終わったのね」

 外交学のディベートの資料は、後日にしよう。少し、休もうと思ったけど、爆睡しちゃった。

「しまった! 暗記術の宿題もあったのに……もう、クラブは終わっているわね! 1人だと寝てしまうから、マーガレット王女の部屋で外交学の資料を纏めましょう!」


 やはり、1時間半早く起きているのが、身体にこたえている。お昼寝は必要なのかも?

 なら、それに合わせた生活を考えなくてはいけないのかな?

「キース王子とオーディン王子は、お昼寝は必要無いのかしら? 考えたら、罰掃除の方が体力が要るかも?」

 私なら「綺麗になれ!」で罰掃除は終わるから、出来たら代わって欲しいよ。でも、馬の王メアラスの主人は、私なのだから代わりようも無いのだ。

「ゲイツ様に風の魔法で騎乗できるように習うしか無いのかも……」

 トホホな気分で、女子勉強会に向かう。

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