第155話 結婚披露宴

 結婚式自体は、司祭の長いお説教以外はスムーズに終わった。

 披露宴は、食堂で行われるけど、入り切れるのかな? なんて心配していたけど、長テーブル2列でギチギチだけど、何とか全員が座れたよ。

 私とパーシバルは、アンジェラと一緒に若いグループだ。近くにはサリエス卿とユージーヌ卿もいる。

「サマンサ様は、とても輝いているな」

 騎士服姿のユージーヌ卿が、にこやかに褒める。母親にドレスを着ろと命じられたのでは?と口に出しかけて止めた。

「ええ、とても幸せそうですわ」

 まぁ、ここで聞かなくても良いよね。

「そうだ! あの空き家、契約したのだ」

 サリエス卿は、討伐から帰ってすぐに空き家を押さえたみたい。

「ご近所ですね!」 

 パーシバルが笑う。

「ああ、ペイシェンス様の料理が食べられるのは嬉しい」

 うっ、それもあったね!

「来週末に打ち上げパーティをするつもりなのです。肉も届くそうですから」

 やはり、明日はカルディナ街に行こう! 弟達も連れて行ったら良いよね。


 披露宴の食事は、伝統的なローレンス王国の御馳走だった。つまり、砂糖ザリザリのケーキだよ。

 アンジェラも、近頃は私がラシーヌに渡したレシピのスイーツを食べているから、紙に包んで持って帰る。

 ウェディングケーキは、縁起が良いから、若いメイド達にあげると喜ばれるそうだ。私も真似しよう!

「そろそろダンスタイムですよ」

 パーシバルにエスコートされて、応接室に向かうと、ルシウスとサマンサのウェディングダンスだ。

「まぁ、素敵ね!」

 私とアンジェラは、うっとりと眺めている。

 

 2曲目からは、招待客も踊る。

「ペイシェンス様、どうか踊って下さい」

 パーシバルと一緒に踊る。ああ、リードが上手いと踊るのも楽しいね!

「あら? ユージーヌ卿がアンジェラと踊っているわ!」

 婚約者のサリエス卿をほっておいて、アンジェラを誘ったみたい。

「アンジェラ様は、ダンスしたそうでしたから」

 パーシバルは、婚約者の私とダンスしているし、他の招待客は年齢が上の人ばかりだものね。

 サマンサの兄達は既婚者だし、サミュエルは従兄弟だけど、社交界デビューしていないから呼ばれていない。

 私とアンジェラは、ブライズメイドとフラワーガールだから出席しているのだ。


 1曲踊ったら、もう私的には満足だよ。アンジェラも、ユージーヌ卿と踊って満足そうだ。

 本当なら、もう帰って休みたい。でも、ブライズメイドは、花嫁を見送るまでいないと駄目みたい。

 ユージーヌ卿やサリエス卿と一緒に食堂で話をする。

 披露宴の食器は片付けられ、お茶と茶菓子が用意されている。

「アンジェラは、来年から王立学園に入学するのだな」

 ああ、そういえばアンジェラは、サリエス卿の姪になるのだね。親戚の叔父さんっぽい会話だよ。


「ええ、ジェーン王女の側仕えに選んで頂きました」

 パーシバルが笑っている。

「では、来年の女子寮は賑やかになりますね」

 マーガレット王女の学友のエリザベスとアビゲイルも寮に入るし、ジェーン王女の学友も寮に入る。

「ペイシェンス様が一緒だから、心強いですわ」

 アンジェラ、可愛いね!

「そう言えば、ナシウスはどうするのだ?」

 サリエス卿には剣術を習ったから、気にかかるのかも。

「ナシウスも寮に入ると言っています。通っても良いと言ったのですが、あの子も読書クラブと歴史クラブの掛け持ちになりそうですから通学時間を短縮したいのかも?」

 ここには、騎士関係が多いから、完全に文系クラブのナシウスに少し驚いている。

「ナシウスは、魔力も多いから魔法クラブでも良さそうだが?」

 確かにね! でも、アンドリューが新部長なのはちょっとね。

 ルーシーとアイラとは仲良くなったけど、男子部員とは距離があるというか、アンドリューの影響が強いのか錬金術クラブにライバル心剥き出しなんだもん!

「魔法クラブはお勧めできませんね」

 パーシバルもアンドリューの態度を思い出したのか、肩を竦める。


「アンジェラは、マーガレット王女が音楽クラブに推薦すると言っておられたわ」

 アンジェラが嬉しそうに笑う。

「嬉しいです!」

 パーシバルがハッとする。

「ペイシェンスの親戚は、サミュエル様といい、アンジェラ様といい、音楽の才能に恵まれていますね」

 そうかもね?

「サミュエルは、音楽の天才ですわ! 一度聞いた曲はすぐに楽譜に起こせるのです。それにアンジェラはハノンもリュートも得意なのです」

 サミュエルが音楽の天才なのは、アンジェラも感じているみたい。

「私は新曲の作曲は、まだ苦手ですが、フレーズを考えるところから始めますわ。楽譜に起こすのは、サミュエル様が手伝ってあげると言われたのです」

 おお、サミュエル! 頑張っているね!

 サリエス卿も、歳の離れた従兄弟がアンジェラに親切な訳を察したみたいで微笑んでいる。


「ユージーヌ卿は、サリエス卿と踊らなくても良いのですか?」

 アンジェラの無邪気な質問に、ユージーヌ卿が苦笑する。

「ははは……、本当はドレスで出席しろと母に言われていたのだが、袖を通したら蕁麻疹が出て礼服にしたのだ。この格好でサリエス卿とダンスしたら、モンテラシード伯爵夫人が気絶されるかもしれない」

 騎士の礼服姿、とても素敵なのにね! 蕁麻疹が出るドレス、砂糖菓子のようにレースが付いていたのかな?


 兎に角、ユージーヌ卿としては、アマリア伯母様に見つからないようにする必要があるみたいなのだけど、年配の貴婦人がダンスをずっと眺めている訳もなく、こちらの部屋にやってきた。

「私は少し他所に行く!」

 素早くユージーヌ卿は、サリエス卿と他の部屋へと逃げ出した。

 残された私とパーシバルとアンジェラは、アマリア伯母様がどうか他の貴婦人と一緒の席に座りますようにと祈ったが、孫娘のアンジェラと姪の私と一緒に時間を潰す事にしたみたい。

 それか、2人の監督をしようと考えたのかもね。


「あら? サリエスとユージーヌ卿がいたような気がしますけど?」

 部屋に入って、知り合いと挨拶を少ししている間に2人は別の扉から出て行ったのだ。

「アマリア伯母様、ルシウス様のご結婚、おめでとうございます」

 こうなったら、祝辞で誤魔化そう。パーシバルやアンジェラも私に続いて祝辞を述べる。

「ええ、これでやっと領地でのんびり過ごせますわ」

 あれ、アマリア伯母様は領地に引っ込むのかな? 苦手な父親は喜びそう。

「そんなぁ、寂しくなりますわ」

 ここは、そう言うのが常套句みたい。

「お祖母様、会えなくなるの寂しいですわ」

 アンジェラは、本心かもね?

「まぁ、夏の間だけですから、いつでも会えますわ。それに、一度、夏休みにモンテラシードに来たら良いのです」

 そうだね! 行きたいけど、他にもしなくてはいけない事がいっぱいあるんだよ。


「夏休みは、モラン伯爵領にも来て欲しいです」

 ああ、それは絶対に行きたいな!

「領地を決めないといけませんから、お邪魔するかもしれませんわ」

 あっ、アマリア伯母様が目を輝かす。

「ペイシェンスは、冬の魔物討伐で大活躍して女子爵ヴァイカウンテスに叙されたそうじゃないの! 領地をどこにするのか決めたの?」

「いえ、まだ考え中ですわ。モラン伯爵にも相談に乗って貰っています」

 満足そうにアマリア伯母様は頷くけど、アンジェラはびっくりしている。

「えええ、ペイシェンス様が冬の魔物討伐に行かれたのですか?」

 知らなかったみたい。

「私の場合は、ゲイツ様の実地訓練を受けた成果です」


 アマリア伯母様が、そう言えばと、私に感謝する。

「サリエスに守護魔法陣のマントをプレゼントしてくれたお礼を言っていなかったわ。毎年、怪我をしていたのに、今年は無事に帰って来てくれてホッとしているの。治療とかは騎士団でしてくれるけど、やはり心配ですもの。感謝しますわ」

 えっ、そうなんだ! 作って良かったよ!

「ええ、あのマントには私も助けられました。リチャード王子も魔法攻撃を心配せずに討伐できると喜んでおられましたよ」

 ふむ、ふむ、あとは顔の防衛だね! マントにはフードも付いているけど、討伐の最中は視界が悪くなるから被らないのだ。

「仮面に魔法陣を刺繍したら、良いのかしら?」

 隣でお茶を飲んでいたパーシバルが、プッと吹き出しそうになる。

「失礼、それはちょっと……盗賊みたいです」

 ああ、こちらの人は顔を隠すのを嫌がるからね。

「騎士の方は兜を被っておられますわ」

 うっ、とパーシバルが詰まる。

「兜も仮面とは違って面覆いはありません」

 そうか、なら広範囲に守護魔法を掛ける必要がありそう。

 ゲイツ様に相談したいけど、欠損治療がバレるのはまずい気がする。後継者に! とか騒がれそうだもの。


「ペイシェンス様の婚約指輪、素敵ですわ」

 アンジェラが、オパールの婚約指輪をキラキラした目で褒めてくれた。

「ええ、これは私の誕生石なのです」

 うん? 何か引っ掛かった。指輪? あああ、アルーシュ王子の指輪から感じていたのは、マントに刺繍した守護魔法陣の波動に似ているのだ。

 アマリア伯母様とアンジェラが婚約指輪について話しているけど、私は上の空だ。


「ペイシェンス様? 何を考えておられるのでしょう?」

 パーシバルが不審そうな顔をしている。

「大丈夫ですわ。南の大陸まで素材を探しに行ったりはしません」

 より、不安そうな顔になったパーシバルに小声で「アルーシュ王子の指輪は守護の指輪なのです」と教える。

「ははは……だから、南の大陸までは行かないと言われたのですね」

 パーシバルに笑われちゃったよ。

「多分、あれは魔石ではなく、竜の素材ですわ。でも、手に入れる事はできそうにありませんもの」

 アマリア伯母様にも呆れられたよ。

「ペイシェンスは、錬金術が得意なようですが、危険な真似をしてはいけませんよ」

 まぁ、竜には逢いたくないから、行かないよ!


 3時過ぎに、長かった披露宴は終わった。

 ブライズメイドの私とアンジェラは、花嫁と花婿が玄関から、旅立つ馬車に乗る時に、バラの花弁を撒く。

 ハネムーンは、モンテラシード領で過ごすみたい。寒そうだけど、良いのかな?

「ペイシェンス様と結婚する時は、どちらの領地で過ごしたら良いのでしょう?」

 パーシバルと2人でたわいもない事を話し合うのも楽しい。

「新居で過ごすのも楽しそうですわ」

 別居だから、それも良いよね!


 アンジェラの前では渡し難かったので、土曜のすき焼きパーティーの招待状を、サリエス卿とユージーヌ卿にコソッと渡す。

「これは楽しみだ! 参加させて貰うよ!」

 パーシバルも受け取って、すぐに「行きますよ!」と返事をくれた。


 帰りは、父親と一緒の馬車だ。でも、明日の午前中は、カルディナ街デートだからね!

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