第129話 異常な数の魔物

 お昼は、できたらパーシバルと一緒が良いな。12時に約束はしているけど、狩りが長引いたら仕方ないとも思っている。

「昨日は、辛味噌だったから、今日はあっさりのソースにしましょう」

 メアリーにポン酢ダレの瓶を持たせて、ルーシーとアイラと一緒に食事場所に向かう。


「ああ、会えましたね!」

 やったね! パーシバルも丁度、パリス王子やアルーシュ王子とザッシュとやってきた。

「今年は魔物が多いのですか?」

 4人に爆笑されたよ。

「ペイシェンス様は、学生のトップですね。午前中はビッグバード狩りだったのですか?」

 そうだけど……気になっているのに!

「確かに数が減りませんね。次々とデーン王国から流れ込んで来ます」

 パーシバルは、去年も討伐に参加したからね。

「今日は、どんな味のソースなのだ?」

 アルーシュ王子は、討伐より、食い気だね。

「さっぱり味のソースですわ。カルディナ帝国の醤油とワインビネガーと少しのハチミツです」

 全員が、もうビッグボアの焼肉には飽きてきているから、喜ぶ。


「ペイシェンス様のソースのお陰でいっぱい食べられます」

 今日も大人数になったから、メアリーや従者達は別のテーブルになった。

「ああ、確かにさっぱりするな!」

 アルーシュ王子は、サッサと食べてお代わりの列に並んでいる。

「これは、食が進みますね。ペイシェンスの料理を食べられるパーシバルが羨ましいです」

 珍しくパリス王子もお代わりの列に並ぶ。

 パーシバルは、私の肉を半分分けたから、少し遅れて並んだ。

「美味しいわ! もう少し食べよう!」

 ええええ、ルーシーとアイラも並んでいるよ。魔法の無駄撃ちが多かったから、疲れたのかもね。

 

「ペイシェンス様はもう良いのですか?」

 パーシバルが心配してくれたけど、チョコレートとシュトーレンを食べたからね。

「ええ、移動の途中でチョコレートを食べましたから。それにテントでお茶を飲みましたもの」

 パーシバルがなるほどねと笑う。

「昼からはチョコレートを分配しますから、疲れたら食べて下さい」

 パリス王子とアルーシュ王子が「持っているなら、早く配れ!」と叱っている。

「うん? ペイシェンスは、もっとスイーツを持っている気がするぞ」

 アルーシュ王子は勘が良いね。

「ええ、日持ちするシュトーレンを一本差し上げますから、皆様でどうぞ」

 本当は女子テントで食べるつもりだったけど、騎士チームとは時間が合わないからね。


「スイーツを持っているのですか?」

 ゲゲゲ……スイーツの話題を聞きつけて、ゲイツ様が私達のテーブルまでやってきた。

「ええ、ゲイツ様にもシュトーレンを一本差し上げますわ」

 満足そうに頷くけど、目がポン酢タレの瓶を見ている。

「そのソースは、違う味なのですね?」

 お代わりした肉の山盛りの上に、ポン酢タレを掛けて、ばくばく食べている。

「これは口の中がさっぱりして、幾らでも食べられそうです」

 またお代わりしているよ!


「パーシバル、何味のソースが残っているのだ?」

 パリス王子も気になるみたい。

「半分は、リチャード王子に渡しましたから、残っているのは、甘味噌味と醤油ベースとさっぱり味のソースですね」

 あれっ、振り掛けは?

「パーシバル様、カレー風味のスパイスは?」

 ああって顔をする。

「あれは何か分からなかったので、置いてあります。そうか、カレー風味なのですね!」

 アルーシュ王子は、サティスフォードでシーフードカレーを食べたから、嬉しそうだ。

「パーシバル、今夜はカレー風味のスパイスだ!」

 はい、はい、気に入ったのね。


「パーシバル様、この前買った調味料は全て使い果たしてしまいましたの。討伐から帰ったら、カルディナ街に連れて行って下さいね」

 おおっと、全員から凄い圧を感じる。

「ペイシェンス、全てのソースをお願いする! 代金は支払うから!」

「私も欲しい」

「そうですね、私も欲しいです」

 あれ? パーシバルまで欲しいの?

「ペイシェンス様、これは売り出すべきですよ」

 ううん? どうだろう?

「ここでは塩味だけだから、美味しく感じているのでしょう。それにカルディナ街で調味料を買えば、簡単にできますよ」

 なんて話していたら、ゲイツ様が反対する。

「いえ、絶対に売り出すべきです! この味が家でも食べられるのですよ!」

 これは、帰ってからエバと相談しよう。


「エバはチョコレートだけでも大変なのに……それにゲイツ様の所の調理助手は手伝っていたから、作り方を知っていますわ」

 あっ、アルーシュ王子とパリス王子が文句を言い始めた。

「ゲイツ様、それは狡いです!」

「レシピは、ソニア王国では黄金で取引されますよ」

 フン! とゲイツ様は取り合わない。

「パーシバルなんか2人も送り込んでいるのですよ!」


 ちょっと、それは違うよ。

「ゲイツ様、それはエバが新居について来てくれるから、グレンジャー家の調理人と助手を育てているのですわ」

 あれ? パーシバルが微妙な顔だ。

「あのう、アンは母が欲しがっているのですが?」

 えええ? 聞いてないよ!

「なら、もう1人お願いします。アンは料理の基礎はできているから、グレンジャー家の調理人にするつもりだったのに!」

 パーシバルが帰ったらすぐに料理人助手を行かせると謝る。

「やはり、私ももう1人送りましょう。ファビはスイーツが得意ですが、料理も覚えて欲しいですから」

 勝手に話を進めないでよ!

「ペイシェンス様のお友達の指導料ですよ」

 えええ、ルーシーとアイラの? それは、彼女達から貰ってよ!

 でも、ルーシーとアイラに頼まれると弱い。女の子の友達が少ないからね。

「仕方ないですわ。でも、ソースについては、エバに相談してからです」


 こんな呑気な会話をしていたけど、サリンジャーさんがゲイツ様を呼び出した。

「冒険者ギルド長と騎士団長とリチャード王子とゲイツ様は集まって会議です。ペイシェンス様、出発は1時半になります。皆様も少し待機しておいて下さい!」

 何だろう?

「今年の魔物は多すぎるから、きっと協力して大量に討伐するのでしょう」

 ああ、そう言えばゲイツ様がそんなことを言っていたな。

「もしかして、騎士団と冒険者が魔物を集めて、魔法使い達が一斉討伐するのか? なかなか面白そうだ」

 アルーシュ王子は、愉快そうに笑う。

「前にペイシェンスが討伐に参加するのに反対しましたが、私の何倍も討伐されていますね。それにしても、それだと魔法使いチームだけの数が増えませんか?」

 ああ、それは不公平かも?

「こんな場合は、参加人数割になります。だから、学生チームも討伐数がふえますよ」

 パーシバルの言葉で、全員が「オー!」と鬨の声を挙げる。


「やはりゲイツ様とサリンジャー様がダントツだな。ペイシェンスが5番目か!」

 暇だから、掲示板を皆で見に行く。

「3番目と4番目は騎士団だな! 学生チームは、このままでは4番になってしまう」

 わいわい騒いでいるけど、3番目は確か第一騎士団長だと思うし、4番目はサリエス卿だ。

「パーシバル様も20頭も討伐されていますね」

 パーシバルは、少し恥ずかしそうに笑う。

「このうちの5は、簡単なアルミラージですから」

 アルミラージの毛皮は欲しい!

「パーシバル様は肉と魔石だけですか? 私はビッグバードの羽毛と、ナシウスの為にビッグボアの牙を貰いますわ」

 なんとなく察したみたい。

「ペイシェンス様にアルミラージの毛皮をプレゼントしますよ。名札の訂正を購買部でしておきます」

 ふふふ……嬉しい! 冬のコートにはアルミラージの白い毛皮が似合うし、考えているブーツの縁につけても可愛いと思う。


「おお、ペイシェンス様! 快調に討伐数を増やしているな!」

 漢気の溢れたユージーヌ卿に褒められたよ。

「ええ、ゲイツ様に良い狩場に連れて行って頂いていますから」

 うんと頷いて、小声で「チョコレートを分けて欲しい」と頼まれた。

「良いですよ! テントに行きましょう」

 テントには、グロッキーなリンダとジェニーがエアマットレスに横になっていた。

「昼からは休んでいたら良い」

 ああ、これは無理だものね。

「チョコレートも良いですが、上級回復薬を飲んだ方が良いですわ」

 メアリーに2本出して渡して貰う。

「こんな高級な物は頂けませんわ」

 ふふふ、元手は掛かっていないよ。

「温室で育てた上級薬草を私が上級回復薬にしたのだから、お金は掛かっていませんわ。大丈夫ですよ、下級薬師の資格は取っていますから」

 2人が上級回復薬を飲み干すと、少し顔色が良くなった。

「これなら昼は食べられそうだな! ペイシェンス様のソースを分けて貰って、いっぱい食べろ!」

 2人の従者にポン酢タレの残りの瓶を渡しておく。

「それと、1個しかありませんがシュラフをお渡ししておきますわ。夜、暖かくして寝たら疲れも少しはマシになりますわ」

 メアリーに予備のシュラフを出してもらう。

「それなら、私のシュラフも貸そう!」

 えええ、ユージーヌ卿は格好良すぎるよ!


「カミラ、アリエットは、昼からは魔物の追い込みだ! しっかりと食べて、休憩しておけ!」

 ユージーヌ卿も追い込みに参加するみたい。全員にチョコレートを分けておく。

 私はトイレに行ってから、少しマットレスの上に横になって休憩だよ。

 ルーシーもアイラも休憩している。休める時は休まないと身体がもたないからね。

 うとうとしていたみたい。メアリーがシュラフを広げて掛けてくれていた。

 騎士達も食べてお昼寝タイムだ。

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