第128話 訓練決闘

 確かにこの2人とこのまま同じテント暮らしは嫌だ。

「訓練決闘に応じるけど、2人一緒でいいです。そして、負けたら、私と錬金術クラブに謝って欲しいわ」

 ルーシーとアイラは、頷いた。

「こちらが勝った時、2人同時だからと言わないなら、それで良い。それと負けたなら、ゲイツ様の弟子を辞めろ!」

 ゲイツ様の弟子じゃないけど、辞めたいから良いよ。

「わかりましたわ」

 パーシバルは、少し心配そうだけど、アルーシュ王子とパリス王子は興味津々みたい。


 購買部から離れた広場で、訓練決闘だよ。何故か、アンドリューが立会人だ。

「これから、ペイシェンス・グレンジャーとルーシー・ランバードとアイラ・チェスターの訓練決闘を始める。まいったと言うまでにする事と血が流れたら終わりだ。始め!」

 私は、ゲイツ様に初めて掛けた拘束魔法を素早く2人が詠唱している間に掛けた。

 遊園地の透明なボールで転がる遊具だよ。

「ぎゃー! 何をするんだ!」

「目が回るわ!」

 透明な空気の球体の中で、2人がクルクルと回っている。


「これは、酷い魔法だな!」

 パリス王子が呆れている。

「カカカ……私もこれには負けそうだ。解除しようにも集中できそうにないからな」

 アルーシュ王子は、感心しているみたい。

「そろそろ、まいったと言ったほうが良いと思うわよ」

 ルーシーは、吐きそうだ。

「「まいったわ!」」

 2人が同時に叫んだので、解除する。


「ペイシェンス・グレンジャーの勝ちだな」

 悔しそうなアンドリュー! やはり面倒臭い男だよ。

 2人は、真っ青な顔で地面に座っている。少しやりすぎたかも?

「綺麗になれ!」

 2人に生活魔法を掛けたら、グジャグジャの髪が回転してよりグジャグジャになっていたけど、綺麗なカールの髪になったよ。

 それに真っ青だった顔色も良くなった。

「ペイシェンス様は優れた魔法使いなのだな! 色々と侮辱して悪かった。それに錬金術クラブの悪口も良くなかった。謝罪する!」

 ルーシーが謝ったら、アイラも謝ってくれた。

「御免なさい。ゲイツ様は、私の心の中の輝ける星だから、嫉妬してしまったの。それに、近頃の錬金術クラブの活動にも嫉妬していたから、悪口を言った。御免なさいね」

 謝ってくれたなら、それで良いのだ。

「こちらこそ、変な魔法を掛けて御免なさいね」

 面倒臭い男が、魔法クラブのメンバーを引き抜いたと文句をつけているけど、こちらは雨降って地固まるだよ。

 

 絶対に無理だと思ったルーシーとアイラと仲良くなれた。

 訓練決闘の場にいたアンドリューを除くメンバー達と一緒に夕食を食べていたら、ゲイツ様が乱入してきた。

「ペイシェンス様、ソースもサリンジャーに渡したのですね! 何故、私に直接渡してくださらなかったのですか! サリンジャーは、明日からしか使わせてくれないのです。それは、もしかして辛味噌ソースですか?」

 ああ、アイラの輝ける星が砕けちった音が聞こえた気がするよ。

「ええ、ちょっと今日は討伐の時の記憶が蘇って、ビッグボアの肉が食べにくく感じたので、ピリ辛ソースを付けたら食べやすいかなと思ったのです。ゲイツ様も付けられますか?」

 勿論、断るゲイツ様ではない。山盛りのビッグボアの焼肉の上に、辛味噌ソースを掛ける。

「美味しい! やはりペイシェンス様は私と結婚した方が良いと思います!」

 ああ、アイラの砕けた星が粉々になったよ。

 横に座っているパーシバルも呆れている。

「いえ、パーシバル様と婚約していますから、お断りしますわ」

 はっきり断らないと通じない相手だからね。


「あのう、この2人を明日は一緒に連れて行っても良いでしょうか? どうやら、指導の上級魔法使いが、はっきりと決まっていないみたいなのです。女の子2人だと危険ですわ」

 ゲイツ様は、辛味噌ソースの掛かったビッグボアを食べるのに夢中で「良いですよ」と簡単に許可した。

「ありがとうございます!」

 ルーシーとアイラは喜んでいるけど、少し大変な目に遭うかもね。


 次の日、ルーシーとアイラと朝食を取ってからゲイツ様を待っていた。

「おはようございます」

 ゲイツ様は、馬車に乗るように急かす。

「どうも魔物が減らないのが気になります。デーン王国からどんどん流れ込んでいるみたいで、初日、あれだけ狩るのも珍しいが……。兎も角、学生を連れてなら岩場でビッグバード狩りだな」

 今回は違う岩場に馬車を走らせる。


「ああ、いっぱいいますね」

 サリンジャーさんに言われるまでもなく、岩場に作った巣がびっしり見えた。

「ペイシェンス様は一度やっていますが、そちらのルーシーとアイラは初めてでしょう。私が岩場にファイヤーボールを撃ち込みますから、ビッグバードが飛び立ったら、魔法で攻撃しなさい」

 2人は気合が入っているから、大丈夫だよね。

「ファイヤーボール!」

 ゲイツ様も狩りの時は、長い詠唱をしないみたい。


「わぁ、凄い数ですね!」

 初日の倍のビッグバードが飛び立った。

「さぁ、魔法で攻撃しなさい」

 初めての時は、少し慌てたけど、私が外してもゲイツ様とサリンジャーさんが討伐してくれるのが分かっているから、剣で狙いを定めて「首に当たれ!」と唱えていく。

「風よ、刃となってビッグバードを切り裂け!」

 えっ、ビッグバードは風の魔法を使うとゲイツ様は言っていたけど、ルーシーはウィンドカッターをビュンビュン放っている。

 ああ、やはり避けられているよ。

「炎よ、ビッグバードを射抜け!」

 アイラは、ファイヤーアローを連発して、1羽は狩れたけど、黒焦げにしちゃっている。

「ペイシェンス様は、そのまま討伐を続けなさい。ルーシー、相手は風の魔法を使うから、土の魔法が有効です。貴女は少しは土も使えるでしょう! それと、アイラ! 黒焦げにしたら、素材が無駄になります! 首を狙ってファイヤーアローを放ちなさい」


 結構、真面目にゲイツ様が指導していて驚くよ。

「首チョッパー! 首チョッパー!」

 私は、金属のギザギザプレートをイメージしたのを剣の先から飛ばして、首を切り落としていく。

「ファイヤーアロー!」

 なんとかアイラも首にファイヤーアローを命中させた。

「土の飛礫よ、ビッグバードを落とせ!」

 ルーシーのバレットは、ビッグバードに避けられている。

「もっと強く早くしないと駄目です」

 ゲイツ様のバレットは、ビュンビュン、ビッグバードに当たり、何羽も落とす。

「さぁ、人の事よりペイシェンス様は、もっと数を落とす方法を考えなさい。そろそろこちらに攻撃してきますよ」

 それは嫌だから、首チョッパーを同時に3個飛ばす。

「その調子です!」

 私は3羽ずつ狩っていくけど、サリンジャーさんやゲイツ様は、2人に指導しながらも5羽ずつ落とす。

「ああ、やっと1羽落とせたわ!」

 ルーシーも1羽狩れたみたい。アイラは3羽は狩った。

「後は、サリンジャー、お願いします」


 最初にアイラが落とした黒焦げは別に置いて、ビッグバードの小山ができた。

「ペイシェンス様が35羽、アイラが3羽、ルーシーが1羽。私が53羽、サリンジャーが42羽ですね。ふう、やはり数が多すぎる気がします」

 いつもは違うのかな? 初めてだから分からないよ。

「次の岩場を回りますよ! 騎士はビッグバードが苦手ですし、上からの攻撃は被害が出やすいですからね」


 馬車に乗ったけど、アイラとルーシーはかなり疲れているみたい。

「魔法の無駄撃ちが多いから、疲れるのです」

 それは、そうだけど……今日は、ポシェットにチョコレートを入れているのだ。

「ルーシー様、アイラ様、チョコレートを食べると元気になりますよ」

 板チョコを割って、2人に渡す。

「ありがとう。私は風の魔法だから、ビッグバードとは相性が悪いの。土は練習不足だわ」

 ルーシーとアイラに渡すと、ゲイツ様も手を差し出した。

「ゲイツ様にも、サリンジャー様にもあげますよ」

 全員で板チョコを分けて食べる。

「美味しいわ! バーンズ商会で売っているとは聞いているけど、いつも売り切れだと母がこぼしていたの」

 ハハハ……樽が増えそうな予感だよ。新居や領地改革にお金がいるから、内職は大歓迎だけどね。


 少しキャンプ地から離れた岩場に着いた。

「ああ、これは本格的に不味いですね!」

 さっさと降りて、討伐開始だ。

 岩場の上では、ビッグバードが餌を狩りに行こうと何羽か飛び立っていたのだ。

「ファイヤーボール!」

 岩場にファイヤーボールを撃ち込んだら、空が暗くなる程の数のビッグバードが飛び立った。

「サリンジャー、最初から飛ばしますよ!」

 これまでは、私が外したのを撃ち落としていたけど、この数は異常だよ!


 全員で攻撃を続けて、なんとか討伐した。

 私も疲れたけど、ルーシーとアイラは、へなへなと雪の上に座り込んでいる。

「サリンジャー、手伝いましょう」

 ゲイツ様も手伝って、雪の上に落ちたビッグバードを集める。

「私が67羽、サリンジャーが51羽、ペイシェンス様が40羽、ルーシーが8羽、アイラも頑張って3羽ですね」

 名札を置いて、基地キャンプに戻る。


「昼からはビッグボア狩りです。そちらの2人も参加しますか? 疲れているなら、明日でも良いですよ」

 2人は「お願いします!」と頭を下げる。

「では、1時まで休憩です」

 サリンジャーさんが討伐した岩場を解体部隊に教えている。

 私達は、先ずトイレだよ!


「メアリー、お茶とシュトーレンをちょうだい!」

 ヘトヘトだから、暖かいお茶と甘いシュトーレンが美味しい。

「ペイシェンス様、ありがとう! 昼からのビッグボアは頑張るわ」

 ルーシーは、風の魔法の方が得意だから、ビッグボアの方が相性が良いかもね。

「ビッグボアに私のファイヤーアローが通じるかしら?」

 アイラは少し心配みたい。

「首を落とせば、大丈夫ですわ」

 2人に呆れられたよ。

「やはり、ペイシェンス様はゲイツ様の弟子だけありますわ。75羽も討伐されるのですから! 師匠とお呼びしたいわ」

 それは止めて欲しい。

「首チョッパー! 凄い威力です! 教えて下さい」

 ああ、メアリーが令嬢らしくない会話にドン引きだよ。

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