第127話 魔法使いの2人
気分が悪くなったので、サリンジャーさんに私の名札をビッグボアの上に置いて貰って基地キャンプに戻る。
「メアリー、今日はもう十分だから、休ませてあげなさい」
2人は少し休憩したら、また討伐に行くみたい。
「お嬢様、大丈夫ですか?」
メアリーは、心配そう。
「ええ、大丈夫だけど、血の匂いに酔ったみたいだわ」
エアマットレスに座って、メアリーの淹れてくれたお茶を飲み、エバのシュトーレンを薄く切って貰って食べたら、少し元気になった。
「無理をしないで、お休み下さい」
メアリーに言われて、寝袋を出して貰って少し眠る。温かい。
「わぁ、凄い大きさだ!」
テントの外の歓声で目が覚めた。
「まぁ、まだ寝ていても宜しいのに」
メアリーは止めるけど、お昼寝して元気になったからね。
それに、3時のお茶の時間だよ!
「もう大丈夫よ! お茶とシュトーレンを食べましょう。それにチョコレートも少し!」
2人でチョコレートとシュトーレンを食べながらお茶を飲む。
「雪の白の上に血がドバァとなって、気分が悪くなったの。でも、これでお肉はかなり貰えそうだから、弟達やお父様にも食べさせてあげれるわ」
メアリーは、普通の令嬢は、そんな事は考えないのだと首を横に振る。
さて、お茶も飲んだし、冒険者ギルドの販売部でも見に行こう!
メアリーとテントから出たら、小屋のようなビッグボアが何頭も運ばれていた。
「おお、ペイシェンス様! 元気になられたようで何よりです。昼からは大物狩りをしていました」
これらは、ゲイツ様が討伐したの?
「あの一番大きなのは、ペイシェンス様が倒した奴ですよ」
ふう、今見ても大きいよ!
「うん? 何かいい香りがします!」
ゲッ、そういえば香りを魔法で追跡できるぐらいだから、シュトーレンやチョコレートの香りも感知するのかも?
「サリンジャー様にスイーツも渡していますわ。お茶にされたら如何ですか?」
ゲイツ様の顔色が変わったよ。
「サリンジャー! ペイシェンス様からスイーツを貰っているのを内緒にしていましたね!」
ははは、内輪揉めは勝手にしてね。
冒険者ギルドの販売部には、綺麗なお姉さん達が売り子をしているからか、かなりの人がいた。
「先ずは名札を買わないといけないみたい。あっ、10枚束なのね。2束買っておきましょう」
横で見ていた冒険者がクスッと笑う。ふん、嫌な感じ。
「お嬢ちゃん、そんなに名札を買っても無駄だろう」
無視して買おうとするのに、回り込んで邪魔する。
「退いて下さい」
ちゃんと聞こえたよね?
「お嬢ちゃんは、王立学園の魔法使いコースの学生さんかい? 討伐なんかに参加しないで、お家で刺繍でもしていれば良いのさ」
私の手から名札を取り上げようとする。ムカつく!
「この男を拘束しろ!」
周りは雪だから、氷で手足を拘束する。
「これをいただきますわ」
あっけに取られている売り子のお姉さんに、名札を差し出す。お金はメアリーが支払うよ。
そのまま出ようとしたら、拘束された男が怒鳴っている。
「おい、これを解いてくれよ!」
「あら、刺繍でもしているのが相応しい私の拘束すら解けないの?」
そのうち解けるでしょう?
「ハハハ、バッシィ、謝った方が良いぞ。そのお嬢様は、今年一番の大物のビッグボアを討伐したのだからな。お前さんでは、その拘束魔法は解けないだろう」
この人は、ヨシュア・ギルド長だね。
「まぁ、解けないのですか?」
本当に驚いたよ。
「ハハハ、ゲイツ様やサリンジャー様を基準に考えてはいけませんよ。さぁ、バッシィ、ゲイツ様の愛弟子に謝りなさい」
ゲッという顔をして「ゲイツ様のお弟子様に失礼な真似をして申し訳ありません。どうか、拘束を解いて下さい」と丁重に謝る。
「いえ、解けると思っていただけなのです。解けろ!」
パチンと氷は砕けた。
「やはり、ゲイツ様のお弟子だけはありますね。あのビッグボアの毛皮や牙は本当にいらないのですか?」
牙は、武器になると聞いたけど、ヘンリーはもう良い武器をゲイツ様から貰っているからね。
「あっ、そうか! ナシウスの剣を忘れていたわ。牙と肉と魔石だけ貰います」
少し訂正しておく。
「わかりました。そう解体部に言っておきましょう」
ヘンリーが騎士志望だから、ついそちらばかり考えてしまうけど、ナシウスの剣も必要だよね。
夕食までは時間があるから、パーシバルを探そう。
パーシバルは見つからなかったけど、カエサルとベンジャミンとアーサーとブライス達も名札を買いに購買部に来たよ。
「おお、ペイシェンス! 凄いじゃないか!」
ベンジャミンが大物討伐を祝ってくれる。
「ええ、でも血で気分が悪くなって、昼からはあの1頭だけですの。お昼寝したら、気分は良くなりましたわ」
カエサルに笑われたよ。
「今、学生チームのトップがいう言葉とは思えないな。だが、気をつけるのだぞ」
それは、本当だね。
「ええ、ゲイツ様の側を離れませんわ」
錬金術メンバーは笑ってくれたけど、後ろから来た2人の女学生はフンと鼻を鳴らした。
ああ、この2人が魔法使いコースの戦闘狂だね。黒髪と赤毛のコンビだけど、髪の毛がグジャグジャだよ。
「フン、錬金術クラブなら、変人らしくクラブハウスでちまちました魔道具を作っていれば良いのに! 何故、ゲイツ様は、こんな女を弟子にするのかなぁ!」
あっ、この2人とは無理みたい。
「パーシバル様とも婚約したそうだから、男を誑かすのが上手いんだよ」
むかつく!
「この2人を拘束!」
冒険者のバッシィよりも厳重に氷で拘束しておく。
「貴女達は、あのエアマットレスを使う資格は無いわね」
錬金術を馬鹿にする人に使って欲しくない。
「おい、あれは学生会からの支給品だぞ!」
「まぁ、それが何か? あら、穴が開いたらエアマットレスは使えないわね」
私が喧嘩していると面倒臭い男がやってきた。
「ペイシェンス、魔法クラブのメンバーを拘束するなんて、錬金術クラブはやはり我がクラブに敵意を抱いているのだな」
ああ、そんな事を言ったら、女学生同士の喧嘩には口を出さなかったベンジャミン達も乱入しちゃうよ。
「アンドリュー、それは聞き捨てならないな。この2人はペイシェンスを侮辱したから、拘束されているのだ。それに魔法クラブのメンバーなら、この程度の拘束ぐらいすぐに解けるだろう」
2人は、あれこれやっているけど解けないみたい。
「おい、拘束を解け! そして私と決闘だ!」
黒髪の魔法使いが騒ぐけど、無理じゃない?
「拘束も解けないのに、決闘なんて無理でしょう。さっきの言葉を取り消せば、拘束は解いてあげるわ」
こちらのやりとりに面倒臭い男が横から余計な真似をする。
「ルーシー、アイラ、助けてやるぞ! 氷なら火で溶けるだろう!」
ちょっとやめて! アンドリューの口を封じるよ。鼻は塞いで無いから呼吸はできるでしょう。
「火なんか使ったら火傷しちゃうでしょ! ああ、もう面倒だから解除!」
ついでにアンドリューのも解除しておく。
でも、解除しなきゃ良かったよ! ルーシーとアイラに決闘を申し込まれちゃった。
「ルーシー・ランバードは、ペイシェンス・グレンジャーに決闘を申し込む!」
「アイラ・チェスターもペイシェンス・グレンジャーに決闘を申し込む!」
やれやれ、厄介だよ。
「お嬢様が決闘を申し込まれるなんて……」メアリーは私の後ろで気絶しそうだしさ。
「ペイシェンス様、何事ですか?」
ああ、パーシバルの登場で、2人は顔を強張らせる。
「2人に侮辱されたから、拘束したの。その解除すらできなかったのに、決闘を申し込まれて困っています」
どうやら、パリス王子やアルーシュ王子に購買部で名札を買う案内をしていたみたい。
「ふぅ、学生会は決闘を禁じています。でも、それではこれから一緒のテント生活が難しくなりますね。魔法使いコースの方は、時々、魔法の訓練決闘をするみたいですから、それなら良いのでは?」
えっ、決闘もどきをしなきゃいけないの?
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