第126話 基地キャンプ

 馬車は基地キャンプに戻った。

「1時まで休憩にしましょう!」

 ゲイツ様は魔法使いのテントに戻る。

 サリンジャーさんは、ビッグバードを討伐した位置を解体部隊に伝えている。

 疲れたから長かったように感じるけど、ほんの1時間しか経っていない。


 メアリーが心配そうに駆け寄るけど、先ずはトイレだ。

「本当に良かったわ!」

 基地キャンプに着いた時も使ったけど、私が考案した、囲いや、座る便器もできている。水洗じゃないけど、スライム粉が穴の中にあるから匂いはしない。

 これは、本当に提案して良かったよ! 穴に板を渡しただけのトイレは嫌だもん!


 私は女子テントの中で少し休憩する。メアリーが気を利かせて、沸くポットでお茶を淹れてくれた。

「ああ、あったまるわ!」

 やっぱり沸くポットと紅茶のティーバッグを作っておいて良かった。

「そろそろお昼ですわ」

 他の学生達は、未だ帰っていない。


 さっきは、お互いに引率者に急かされていたからね。ユージーヌ卿も、4人の騎士コースの女学生を引率して大変そうだった。

 魔法使いコースの2人とはまだ会っていないのだ。

「メアリーは、参加された人の名前を聞いている?」

 できた侍女の鑑だよ。ポケットからメモを取り出して渡してくれた。

 キャンプで荷解きしている従者に訊いてくれたみたい。

「騎士コースの中等科3年のカミラ・シュナイダー様とアリエット・ダーソン様は腕も良いと聞いたわ。中等科1年のリンダ・レナード様とジェニー・ウェバー様。そして魔法使いコースは2年のルーシー・ランバード様と1年のアイラ・チェスター様」

 ふむふむと読んで、暗記する。


 メアリーは寝る場所も把握している。ゲイツ様は入り口付近は寒いから奥が良いと言われたけど、騎士コースの学生達は敢えて入り口付近を選んだみたい。

 つまり、私とメアリーの近くは魔法使いコースのルーシーとアイラだ。

 その次がリンダとジェニー、カミラとアリエットとユージーヌ卿と入り口に近くなる。

 全員のエアマットが膨らませてあり、従者のエアマットの脚元には衣装櫃が置いてある。

 私の衣装櫃には、組み立て式の机も入れてあったので、メアリーとのマットレスの間に設置して、カンテラ型の魔導灯を置いてある。


「メアリー、そろそろお昼だと思うわ」

 ゲイツ様に誕生日プレゼントされた腕時計を見るともうすぐ12時だ。

「お嬢様、お昼を取って来ましょうか?」

 それは、過保護だよ。

「いえ、それにパーシー様に会いたいから、食事場に行きましょう」

 だって、まだパーシバルに会っていないのだ。

「綺麗になれ!」私とメアリーに掛けてから、食事場に行く。


 食事場は、匂いでわかったよ。お腹がぐぅと鳴りそうな肉の焼ける匂いが満ちている。

「ペイシェンス、やっと会えましたね!」

 パーシバルもお昼を食べようと来たところみたい。ラッキー!

「ええ、会えないのかと思っていましたわ」

 女子テントだから、パーシバルは中に入れないものね。

「ペイシェンスは、もう30羽も討伐したのですね?」

 えっ、何故知っているの?

「あそこに貼り出されるのです。やはりゲイツ様がトップです!」

 ああ、ビッグバードは25羽だったけど、アルミラージを20匹討伐されていたからね。

「私は、ゲイツ様に打ち損じたのは仕留めるからと言われて、夢中で魔法を放っていただけですわ。もっと冷静に魔法を放てと注意されました」

 なんて事を話しながら、トレイを持って並ぶ。

「まぁ、大きな肉ですね!」

 バーベキューの網の上には、肉がじゅうじゅう焼かれている。

「さぁ、肉を貰って食べましょう」

 私達の後ろには、パーシバルの従者トムとメアリーが並んでいる。

 討伐では、従者も一緒に食べるみたい。


 皿に肉を何枚もドサッと置かれて、後は飲み物とパンだ。飲み物は、温かいお茶にする。

「あそこに座りましょう!」

 まだ食事場のテントは人も少ない。

 4人でも十分に座れるスペースが空いていたから、そこで昼食だ。

「後から届いた箱には、色々なソースが入っていて、とても有難いと思いました」

 うん、この肉もとても美味しいけど、塩味だけだものね。

「こんなには食べられませんわ」

 食べる前に、パーシバルに肉を2枚取って貰う。

「沢山食べないと昼からの討伐で疲れてしまいますよ」

 心配してくれるのは嬉しいけど……あああ、邪魔者が登場だよ。


「パーシバル、ペイシェンス! 凄いな!」

 アルーシュ王子とパリス王子が従者を伴って、横に座る。

「学生チームは、ペイシェンスがトップだな。パーシバルも10匹は流石だ!」

 アルーシュ王子とパリス王子も8匹討伐したみたい。

「私は、ゲイツ様にビッグバードの巣に連れて行って貰いましたから、それを魔法で撃っただけですわ」

 その通りだからね。

「ペイシェンスには負けそうだが、パーシバルには負けないぞ!」

 えええ、それは何? まぁ、ゲイツ様効果かも?

 それにしても、アルーシュ王子とザッシュは、お肉のお代わりをしているのだけど、かなり大盛りだったと思うのにさ。


 もっとパーシバルと一緒にいたいけど、お昼からの討伐前にトイレも済ませておきたいから、私とメアリーは席を立つ。

 トイレを済ませて、女子テントに行くと、やっとユージーヌ卿が騎士コースの女学生を引率して帰って来た。

「お疲れ様です」と声を掛けたくなるほど、女学生達は疲れているみたいに見えた。

 馬からヒラリと降りると、従者が馬の世話をする。

 学年が下の女学生達も疲れた顔だけど、馬からはヒラリと降りる。私みたいに乗馬台が無いと降りれない人は騎士コースは取らないよね。


「さぁ、昼食だ!」ユージーヌ卿はキビキビと命じるけど、その声に応じるのはカミラとアリエットだけだ。

「リンダとジェニーは、少し休んでから昼食を取りなさい。昼からは討伐に参加しないで、解体部隊の手伝いだ!」

 金髪のリンダと濃い茶髪のジェニーは、力無く抗議したが、体力の限界なのは見て取れる。

「騎士になるなら、上官の命令には従わないといけない。明日の午前中には、討伐に連れていくから、昼からは身体を休めて、雑用を手伝っておけ」

 二人の従者は、馬の世話をしているので、メアリーに温かいお茶を淹れさせる。

「どうぞ、疲れが癒えますわ。少し休憩してから食事場に行かれたら良いですわ」

 貴女は誰? という視線で、自己紹介していなかったのに気づいた。

「私は、ペイシェンス・グレンジャーです」

 2人は、ハッとして笑う。

「あのパーシバル様の婚約者様ですね!」

 やはり、学園中の人が知っているのだ! 2人が名乗って、同じ学年だと笑い合う。

 お茶を飲んで、少し元気になったみたい。

「ありがとう! 他の人に付いて行くので精一杯だった。明日は、頑張るぞ!」

 頑張って欲しい。女性騎士は成り手が少ないみたいだからね。


 魔法使いコースの2人には会わないまま、1時になったので、ゲイツ様と討伐に出かける。

「昼からは、もう少し大きな魔物を討伐しよう。小物で数を稼いでいると言われたくないからな」

 へぇ、ゲイツ様でもそんな事を気にするのだね。

「ペイシェンス様が下さった沸くポットと紅茶のティーバッグ、とても重宝しています」

 あっ、サリンジャーさん、まだチョコレートはゲイツ様に内緒みたいだね。それにソースも!

「ああ、あれは良いアイデアだ! 食事場に行かなくても、温かいお茶が飲めるからね」

 なんて呑気な会話をしていたけど、2人の従者がいない意味を私はわかっていなかった。


「ここら辺でしょう」

 サリンジャーさんが御者に馬車を止めさせる。

「少し森の中に入るけど、歩けますか?」

 森の中は雪が積もっていて、歩きにくいけど、私はゴム長靴を履いているから平気だよ。

 でも、ゲイツ様とサリンジャーさんの歩いた跡にしよう。


 少し開けた場所に立ち止まる。

「彼方からだな!」

 2人が見ている方向から、何かドスドスと音がしてきた。

「ああ、これは大勢を引き込んで来ましたね」

 森の中から馬で全力疾走している従者2人!

 その後ろから、あああ、小屋みたいなビッグボアが団体で駆けてくる。

「さぁ、ペイシェンス様、お肉ですよ」

 その言い方、やめて欲しい。でも、そう言われると頑張る気になる。

「首チョッパー! 首チョッパー! 首チョッパー!」

 段々と近寄ると焦っちゃう。

「もっと冷静に狙わないといけませんよ」

 えええ、無理! 迫力ありすぎる。

「ほら、あそこの右のを狙いなさい」

 ゲッ、小屋よりデカそう。

「首チョッパー!」

 狙った首に回転する金属板を剣の先から飛ばすイメージで唱える。

 ドサン! 首が血を撒き散らして飛んでいくと、小屋より大きなビッグボアが倒れた。

「おお、上出来です。あらら、大丈夫ですか?」

 私を片手で支えたまま、ゲイツ様は15頭のビッグボアを討伐し、サリンジャーさんは10頭を討伐した。

「ふう、血で気分が悪くなったのですね」

 馬車で少し休憩だよ。それに、凄まじい光景と匂いに酔ったようで、気分が悪い。

「一番の大物は、ペイシェンス様が討伐しましたね!」

 はぁ、やはり私は討伐に向いてないよ。

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