第130話 集団討伐

「集団討伐に参加する者は、広場に集まれ!」

 大きな声で、あちこちで叫んでいる。

 ゾロゾロと広場に参加者が集まる。

 強面の冒険者が、チラリと私達を見て、嘲笑し掛けたが、バッシィが必死で止める。

「あの方はゲイツ様のお弟子様達だ。関わらない方が良いぞ」

 まるで危険物扱いだよ。ザザザーと冒険者達が側からいなくなった。

「お弟子なのはペイシェンス様だけなのにね! でも、良い気分だわ」

 ルーシーは、なかなか良い性格をしているね。

「ふふふ、ペイシェンス様の弟子だから、ゲイツ様の孫弟子ですね!」

 いや、アイラを弟子にした覚えはないからね。


 そんなことを言い合っていたら、お偉い様達がテントから出てきたよ。

「皆、聞いてくれ! 午後からは全員で協力して魔物の討伐をすることになった。冒険者、騎士団は魔物を発見して、この箇所に追い込んで欲しい。学生達は、二手に分かれてその手伝いだ。魔法使い達は、ここに集まった魔物の討伐だ」

 大きな地図が掲示板に張り出された。


「おおい、騎士団は一番遠くから魔物を追い込むから、乗馬が得意な者はこちらに参加してくれ!」

 第一騎士団長の声は、マイク無しで遠くまで響く。

「パーシバル様、お気をつけて!」

 学生の騎士コース達は、ほぼ全員がこちらだよ。上級回復薬を2本渡しておく。

「冒険者のチームは、近場から魔物を発見して追い込む。それと、騎士チームが追い込む魔物が横に逸れないようにしないといけない。かなり厳しいから腕に自信がある者だけ参加してくれ」

 カエサル達、錬金術クラブメンバーはこちらだ。パリス王子、アルーシュ王子もここのグループだね。

「カエサル様、上級回復薬を渡しておきますわ」

 2本渡しておくよ!

「ああ、私も持ってきているが、ありがたく貰っておくよ」

 やはり、皆も用意しているみたいだ。


 他のチームが出発してから、魔法使いチームも出発する。上級魔法使いと下級魔法使いと私とルーシーとアイラだ。

「ああ、これで数がかなり減らせますね」と言うけど、ゲイツ様の顔は少し緊張している。

 珍しいな? 何か異変を感じているのかな?

「何かいつもと違うのですか?」

 私の質問に肩を竦める。

「今年の冬が厳しいからだと言う人もいるが、北から魔物の大軍団がやってくる予感がする。スタンピードの前触れで無ければ良いのだが……」

 スタンピード? それってラノベで読んだ事があるけど、凶暴なドラゴンとかから逃れようとして、魔物がパニックになって逃げ出す事だよね?

「ええええ、と言うことは、凶悪な魔物がデーン王国にいるって事ですか?」

 ルーシーとアイラも2人で抱き合っているよ。


「いや、スタンピードというより、魔物が爆走している感じだが……このスピードが凄いのだ。それに驚いて、周りの魔物も走り出している感じだな」

 それとスタンピードの違いは何処にあるのかな?

「凶悪な魔物のオーラは感じませんよ。ただ物凄い数の魔物が爆走しているのです」

 サリンジャーさん、それはフォローになっていませんよ。

「いつ頃、その暴走した魔物達がローレンス王国に到着するのでしょう?」

 2人は考え込む。

「木曜辺りから、先陣が到着しそうだな。本陣は金曜から土曜か? それまでも、後ろの動きに驚いた魔物達がやってきそうだ」

 ゲイツ様の推測が当たるなら、日曜も討伐は終わりそうにないね。やれやれ、長期戦だよ。


 魔物が追い込まれる予定地には、魔法使い達が馬で集まっていた。

「皆様、馬で移動されていますけど、良いのですか?」

 私が乗馬が下手だから?

「ゲイツ様はいつも馬車ですよ。寒いのが嫌いだから」

 サリンジャーさんの言葉で、ホッとする。馬車の中でも寒いけど、吹きっさらしの馬よりは風だけでも防げるからね。


「他の方も寒いのでは無いかしら?」

 ゲイツ様は無関心だけど、こちらの馬車を羨ましそうに見ている人がいるよ。

「なら、馬車で来たら良いのです。禁止はしていませんが、たまに馬車が魔物に潰されたりしますからね」

 えええ、それは誰も乗ってこない筈だよ。馬車は高いからね!

 馬は集めて、少し離れた場所に繋いでいる。


「そろそろですね!」

 私達が馬車から降りると、かなり離れた場所に止めて、馬達は外して、もっと離れた場所の木に繋いでいる。

 少し待っていたら、ドドドドと地響きがしてきた。

「ああ、多いな! 皆、横に広がって、誤射は避けるように!」

 サリンジャーさんが指示すると、広場の手前に横に広がる。

「ペイシェンス様とルーシーとアイラは、私とサリンジャーの側を離れないように! まぁ、このくらいなら大丈夫ですよ」

 

 ビビっている私達にゲイツ様は笑いかける。

「追い込んでいる騎士達は大丈夫なのでしょうか?」

 自分のこともだけど、追い込んでいるパーシバルや横に逸れる魔物を追い込む冒険者チームのカエサル達も心配だよ。

「騎士は、まぁ、大丈夫ですよ。魔物は走り出したら立ち止まりませんからね。後ろから追い立てるのは安全なのです」

 えええ、って事は横から逸れないようにする冒険者チームが一番危険なの?

「ペイシェンス様、魔物を迎え撃つ魔法使いチームが一番大変なのですから、他の心配より、より多くの魔物をなるべく遠くで討伐する事を考えて下さい」

 サリンジャーさんに注意されて、私達3人は頷く。

 

「魔物の先頭の脚を止めるぞ! 横一列に一斉魔法を放て!」

 ゲイツ様の号令で、森から見えてきた魔物に一斉に魔法を放つ。

 私は大きなビッグボアの首をチョッパーするよ!

 ゲイツ様は縦にダダダ……と倒している。


 ルーシーとアイラの様子など気にする余裕は無かった。

 森から次から次へと魔物が押し寄せてきたからだ。

「さぁ、踏ん張りどころですよ!」

 ゲイツ様は、今度は横一列を倒した。

 ああ、これは草刈り鎌みたいだね。真似しよう!

「横一列、首チョッパー!」

 剣を横に振って、首を連続で刎ねていく。

 ああ、少し疲れてきたけど、まだまだやってくる。

「ハハハ、騎士団が頑張りすぎたみたいですよ!」

 ゲイツ様も呆れている。

「横一列の魔法攻撃を、私、サリンジャー、ペイシェンス様で交代でします。討伐し逃したのを個別攻撃しなさい」

 

 先ずはゲイツ様が横一列の攻撃を放つ! ほぼ撃ち漏らしはない。

 次はサリンジャーさんだ! 数頭撃ち漏らしたのを、上級魔法使い達が討伐する。

 私の横一列の攻撃も、数頭撃ち漏らした。素早く、上級魔法使い達が討伐してくれた。


 これを3回ほどしたら、魔物が少なくなった。

「ペイシェンス様は、もう良いですよ! ほら、他の人はもうひと頑張りです!」と言いながらも、ほとんどはゲイツ様が倒したよ。

 そりゃ、サリエス卿が騎士が何人いても勝てないと言うだけあるよ。

 魔物が討伐され終わって、私は馬車にヨタヨタと辿り着く。


「今回は、馬車は大丈夫でしたね!」

 はぁぁ、今、それを言う? 

「後は、騎士チームと冒険者チームに任せて、魔法使いチームは、基地キャンプに帰りましょう」

 確かに、一番疲れたのは魔法使いチームかもね!

 私は、馬車の中で、黙ってポシェットからチョコレートを出して、割って皆に配る。

「ああ、美味しいですね! 今夜は、甘味噌ソースにしようか? いや、カレースパイスも捨てがたい」

 お悩み中なゲイツ様以外は、誰も口を開く元気もないよ。


「もしかして、木曜はもっと大変なのかしら?」

 そして、本隊は金曜から土曜に到着するのだ。

「ペイシェンス様、先の事を心配しても仕方ないですよ。だから、今は夕食のソースだけを考えていれば良いのです」

 いや、皆も考えているでしょう。でも、爆走を止められないなら、考えても仕方ないのかも?

「私は、カレースパイスにしますわ! 少し刺激が欲しいですから」

 魔物の肉は、とても美味しいけど、ずっと食べていると飽きてきている。これが魚なら、平気なのにね! 


 ああ、ロマノに帰ったら、パーシバルとカルディナ街に行って、新米を買い、ビッグボアのすき焼きを食べよう! 卵は浄化して生卵で食べるぞ!

「ああ、ペイシェンス様が、また美味しい物の事を考えている気がします。お願いですから、招待するか、精神防衛魔法を最強クラスまで引き上げて下さい」

 今は、最強クラスに引き上げる魔力が残っていないのを分かって言っているよね? でも、今回の討伐では、かなりお世話になったから仕方ないかな?

「招待しますわ。サリンジャー様もね!」

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