第107話 貧乏な謎

 今週も金曜の錬金術クラブは行かずに帰宅する予定だ。何故なら、土曜はロマノ大学の教授達を招いての昼食会だから。準備しなくてはね!


 その分、火曜の錬金術デーは目一杯頑張ったよ。

 午前中は、収穫祭の音楽クラブの舞台装置や、蛍の光で振るペンライトを作った。それと、くけ台もね。勿論、チョコレート3樽も滑らかにした。前はちょっと疲れたけど、コツを掴んで楽チンだ!


 木曜のゲイツ様からの攻撃魔法の練習は、私が動く的の魔法陣に興味を持っているのを訝しく思われた。

 この動かす魔法陣って、シャトルを飛ばすのに使えそうだよ。

「また何か思い付かれたのですね! エクセルシウス・ファブリカの書類が山の様に届いています」

 あっ、相談するの忘れていた。

「私は、冬の魔物討伐は、何処に属するのでしょう? 王立学園の学生で良いのかしら?」

 ゲイツは、くすくす笑う。

「ああ、一部の参加者は討伐数を気にしていますね。ペイシェンス様は王立学園の学生だから、そこで良いでしょう。でも、私の側から離れない様にして下さいね」

 それは、全員から言われているよ。

「今回の討伐に便利なマットレスやシュラフを作ったのです。マットレスは学生の分は発注済みですし、騎士団は早い者勝ちですわ。魔法使いの方々の分はどうしたら良いのかしら?」

 ゲイツは、自分とサリンジャーとその従僕達の分は欲しいと言い切った。

「他の者は、情報を手に入れるのが遅い罰を受けたら良いのです。それに、濡れない様に魔法を掛ければ済む話ですからね」

 ひぇぇ〜! 前から感じるけど、ゲイツ様の部下って大変そう。

 まぁ、サリンジャーさんがなんとかするのでは? 少なくとも上級魔法使い達の分ぐらいはバーンズ商会に発注しそう。


「それより練習ですよ!」

 今回は、ビッグボアだけでなく、空を飛ぶ魔物の討伐訓練だ。

 練習場にワイヤーが張られて、そこを大きな鳥が飛ぶ。当てにくい!

「鳥系の魔物の肉は美味しいし、羽は布団に使えますよ!」

 近頃、ゲイツ様は私の弱味をついてくる。そうか、焼き鳥を食べたいし、布団も分厚くしたいと思っていたのだ!


「おお、凄い的中率が上がりましたね! アイツらは身体はでかいし、風の魔法を打ってきます。だから、本当は土の魔法が良いのです」

 そうか、ゲイツ様の見本を見て、前世のBB弾を思い出して、剣の先から連射する。

「これなら、鳥の肉が食べ放題ですね。鳥系の魔物は、騎士団より魔法使いの方が有利なのです。弓で射ても風で逸されますからね。でも、大きな魔物は魔力も強いですから、もっと土を強く早く打たないと、逸らされますよ」

 ふうん、そうなんだね! では、映画で見た機関銃のイメージでやってみよう。

 ダダダダダダ……的が壊れたよ。


「まぁ、これなら大丈夫かな? でも、木っ端微塵にすると肉や羽が痛みますから、首を狙って下さい」

 なるほど! 首は鳥も急所だからね。首に集中させる。

「おお、これなら一撃ですね!」

 今日は、ここまでになった。サリンジャーさんが呆れている感じだけど、機関銃のイメージは良くなかったかも。


 ゲイツ様の部屋で、少し相談に乗ってもらう。

「バーンズ公爵から織機の開発をお願いされたのです。大体の発想は思いついたのですが、動力源で行き詰まっています」

 ゲイツは、メアリーに持ってきてもらったチョコレートの箱から嬉しそうにさくらんぼのチョコを摘んで食べていた。

 今回は、相談に乗って貰いたいから、少しご機嫌取りにチョコレート一箱プレゼントしたのだ。

「ああ、カザリア帝国の太陽光から魔素を取り出すシステムを使いたいのですね。でも、それをグースが活用すると厄介だと分かっているから悩まれているのか……やはり、ペイシェンス様は優しいですね」

 私は、前から考えていたアイデアをゲイツ様に話す。

「魔石は高価だと思っていましたが、クズ魔石はとても安価なのですね。この前、錬金術クラブでいっぱい使いましたが、本当に安くて驚きました」

 2個目のチョコを口に入れて、続きを話せと手で促される。

「クズ魔石は、スライムからも取れる。だから、ローレンス王国でも安価なのだと聞きました。このクズ魔石を固めて、大きな魔石にしたら、動力源に困らないのでは無いでしょうか?」

 プッと、さくらんぼチョコの軸を手に吐き出して、ゲイツ様が笑う!

「はははは……! やはり、ペイシェンス様は変わっている。でも、それは無理だから誰もしていないのでは?」

 ぶー! 初めから否定しないでよ。

「魔法伝達の良い物質で、クズ魔石を固めるのです。ヌガーでナッツを固めるみたいに!」

 ゲイツ様は、考え込んだけど、ナッツヌガーが食べたいからじゃないよね。

「それは、実験してみる価値がありますね。冬休みにしてみましょう。それと、卵の浄化箱も開発するのを忘れていますよ」


 ゲゲゲ……、冬休みはモラン伯爵領に行くのだ。

「冬休みは、旅行ですから……」

 普通の大人は、これで察してくれるのだよ。婚約したばかりの令嬢が、行く場所なんて相手の領地でしょ。

「ずっと、旅行では無いでしょう。それと、弟さん達に魔法も教えたいし、暗記術も教える約束でしたからね」

 うっ、それは習いたいし、弟達にも教えて欲しい。狡い!


「領地を見て回ろうと思っているのです」

 これで、冬休みの旅行がどれほど大事か理解してもらえた筈。

「ふうん? モラン伯爵領の近くにグレンジャーという土地がありますね。港がライナ川の土砂で埋まって使えなくなり、整備工事に失敗して、王家に返上したのでしょ? 何かする気ですね!」

 無茶苦茶詳しい! この件をパーシバルと話し合いたいのに、なかなか時間が取れないのだ。

 それと、何故、あんなにグレンジャー家が貧乏だったのかも調べたい。なけなしの貯蓄をモンテラシード家に貸しただけでは無さそうなのだ。


 貴族年鑑で、グレンジャー子爵家の年金を調べた。年金は、領持ち貴族(子爵)の半分以下だけど、金貨800枚は貰っていたのだ。

 男爵家よりも収入は少ない! グッスン!

 ロマノ大学の学長の俸給はまだ載っていなかった。数年に一回、改訂版が出るみたいだね。

 私の準男爵の年金は金貨250枚! メアリーに記帳してもらったからわかったよ。

 確かにドレス代にはなると思う。ワンピースが金貨20枚、ドレスは40枚から60枚。あの高いドレスメーカーでも、何枚か新調できる。

 普通の貴族って衣装代が半端ないの? でもソフィアは、姉のお下がりだと愚痴っていたね。他のハンナ達も1着しか新調はしないと言っていた意味が分かったよ。

 ただ、私の場合は……残高がものすごい事になっていた。良いのかな? 億万長者になっているのだけど?

 

 金貨100枚あれば、女中や下男を雇って暮らせるレベルみたい。なのに、グレンジャー家は何故あんなに貧乏だったのか?

 あの屋敷の固定資産税が高いのかも? 父親がアマリア伯母様に屋敷の維持費だけで年金の殆どが無くなると口喧嘩していたような?

 でも、私が生活魔法で補修するまで、カーテンや絨毯、それに温室も壊れたままだったよ。

 だとすると新居の固定資産税も高いかな? 今の残高なら払えるけど、幾らかわからないのは不安だ。パーシバルと相談したい。


「ペイシェンス様?」

 金のことばかり考えていたよ。

「そうですわ! ゲイツ様のお母様にお礼状を書きましたが、お会いする事があれば、私がとても喜んでいたと伝えてください」

 ゲイツ様は、ティアラの件を知らないみたい。

「ベネッセ侯爵夫人は、とても母を可愛がって下さっていたと父から聞きました。母が亡くなった時、治療代のツケが払えずティアラを売りに出したのを買って保存して下さっていたのです。それを王妃様から頂きました」

 経緯を話すと、ゲイツ様は笑った。

「ペイシェンス様の母上は生活魔法を使われたのですね。母は、ジェファーソン大叔母様の件で、曽祖父に腹を立てていたから、身内の生活魔法使いの母上に優しくしたのでしょう。それにしても、ティアラは娘に譲るだろうに……そんなに貧窮するのは変ですね」

 だよね? 

「何かきな臭い感じがします。調べてあげますか

ら、チョコを2箱に増やして欲しい。バーンズ商会からは1箱しか届かないのです」

 えっ、親切だなぁと感心したのに、やはりゲイツ様だよ。

 でも、お願いしておく! 私も領地経営が不安だもの。家族を飢えさせたり、凍えさせたりしたく無い。

「チョコレートを1箱持ってきますわ!」

 まぁ、探偵代としたら安いよね?


 木曜の放課後は、音楽クラブだ。火曜の錬金術デーで作ったペンライトを持っていく。

「ほう、これを振りながら歌うのか? なかなか良い演出だ」

 アルバート部長も、他のクラブメンバーもペンライトを振ってみる。

「楽器を演奏しながらは振れないが、歌を歌いながら振れるかな?」

 コーラスは楽譜台がない。自分の手で持って歌うか、暗譜だ。

「『再会の歌』なら、暗譜で歌えると思いますわ」

 マーガレット王女が、そう発言したのに全員が同意した。

「なら、グリークラブのメンバーにもペンライトを配ろう」

 まぁ、舞台で振ったら、統一できるかもね。バラバラでも良いけど、見栄えが良いのは揃っている方だよ。

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