第106話 月曜の楽しみが台無し

 月曜の2時間目は、私もパーシバルも授業がない! だから、上級食堂サロンで話し合うのが慣例化している。

 週末も会ったけど、メアリーが監視しているから、自由に話せる時間は貴重なの。

 なのに、何故かアルーシュ王子とザッシュが一緒なのだ! ぷんぷん!


「授業はどうされたのですか?」

 パーシバルが質問している。私は気分を害しているから、口を開きたくない。

「ああ、国語はパスする事にした。それで昨日説明された上級食堂サロンに来たら、お前達がいたので、履修要項について質問しようと思ったのだ」

 まぁ、中等科は単位制だから、慣れてないと分からないかな?

「学期初めでしたら、テストがあるから合格か修了証書が貰えますが、今は期末まで待つしかありません。魔法使いコースは、私は詳しくないのですが……」

 パーシバルも、邪魔されて、少し素っ気ない態度だよ。

「ふむ、必須科目はそうするしかないだろうが、選択科目で悩んでいるのだ。パリス王子は、何科目か合格しているからな」

 えええっ、私しか答えられないじゃん。

「私も家政コースと文官コースですから、詳しくはありませんよ」と断ってから、ごく常識的なアドバイスをする。

「錬金術と魔法陣、薬学と薬草学はセットで履修しないといけません。私は、錬金術はキューブリック先生、薬学はマキアス先生に教えて頂きました。マキアス先生は、かなり厳しい先生ですが、怠けずに薬草に浄水をやれば合格できます」

 他の科目は取っていないから、わからないよ。

「そうか、ならその科目を履修しよう!」

 あっ、一つ忠告しておこう。

「マキアス先生の教科書は最低限のことしか書いありません。一度、授業で言った事は2度と言われませんから、よく注意する必要があります。それと、座学は教科書を読むだけですが、試験には教科書以外の問題もでますから、図書室で調べないと合格は取れません」

 アルーシュ王子は、ケタケタと笑う。

「つまり自主性が重んじられるのだな。気に入った!」

 なんて言っているけど、座学はそろそろ終わりじゃないかな? まぁ、頑張って欲しい。


「ペイシェンスもパーシバルも文官コースなのだな。ザッシュは、文官コースだからどの授業を取れば良いのか教えてやってくれ」

 パーシバルも少し驚いたみたい。だって、ザッシュは常にアルーシュ王子の側を離れない感じだもの。

「文官コースは、簡単に単位が取れる退屈な授業をする先生と、ディベートやレポートなど面白い授業ですが、かなり下調べをしないと合格できない先生がいます。あっ、行政と法律は教科書丸暗記ですから、期末テストまでに頑張れば修了証書を取れますよ」

 アルーシュ王子は「どちらにする?」とザッシュに訊く。

「折角、王立学園に留学したのですから、面白い授業を受けたいです。アルーシュ様のお側を離れる時間が多くなりますが、宜しいでしょうか?」

 カカカ……とアルーシュ王子は笑う。

「その方が良いだろう」

 意外とザッシュとの関係は自由みたいだね。

 パーシバルも今年から文官コースなので、ザッシュに履修の取り方を教えている。


「外交学は、自国とカルディナ帝国に分かれてディベートか! 面白そうだな!」

 嫌な予感がするよ!

「私も文官コースの面白い授業だけ、受けよう!」

 えええ、やめて欲しい。

「単位が足りなくなるのでは無いですか?」

 傲慢そうにフン! と鼻を鳴らす。

「王立学園を卒業する必要はないのだ。ロマノ大学に入学できるだけの学力を証明したら良いだけだ」

 まぁ、最初からロマノ大学に留学したいと言っていたから、さっさと大学へ行って欲しい。

「ローレンス王国の学生は、王立学園を卒業していないと、ロマノ大学には入学できませんが、留学生は試験に合格すれば認められますからね」

 パーシバルも、さっさと厄介な王子にはロマノ大学に行って欲しいみたい。婚約者を第一夫人にしてやるとか言われたくないよね。


「ペイシェンスは、もうロマノ大学に進学できるのではないか?」

 うっ、そりゃ家政コースでなら、織物も染色も生活魔法を使えば、一発で修了証書が貰えるのだ。

「文官コースで卒業したいと思っていますから、まだ単位が足りませんわ」

 パーシバルも「そうか!」と少し驚いている。

「ペイシェンス様は、文官コースでも来年には卒業できますね」

 そうなんだよ! パーシバルと一緒に卒業して、一緒にロマノ大学に入学しようと思えばできるのだ。


「でも……マーガレット王女の側仕えですし、これから領地管理も勉強したいですから」

 他の文官コースのは来年で単位は取れそうだけど、2年生からは領地管理も履修しようと思っているのだ。

「そうか、それがありましたね」

 領地管理は、父親もワイヤットも何も知らない。普通の貴族なら、ざっと習って、後は親や管理人に聞けば良いのだけど、一からだからね。

「ええ、基礎からきっちりと学びたいのです。また土地を手放す結果にはなりたくありませんから」


 グレンジャー家が何故土地を手放したのかは、父親から聞いた。港の整備に莫大な資金を投資して、失敗したのだ。

 その当時は、文部大臣としての俸給があったから、法衣貴族として地代の半分にみたない年金でも貴族の生活を送れていたのだ。

 それにしても、転生した時のグレンジャー家は貧乏過ぎない? 年金っていくらなのかしら?


「あっ!」そうだ、この異世界には個人情報の保護などない! 貴族年鑑に収入も書いてあるじゃん!

「どうされたのですか?」

 パーシバルに怪しまれたよ。

「いえ、少し思いついた事があったのです」

 にこりと微笑んで誤魔化す。でも、パーシバルは何か勘づいたみたい。

「ペイシェンス様、後で話し合いましょう」と釘を刺された。

 気がつきすぎるダーリンは誤魔化せないな。

「ええ、それと少し考えている案があるので、それも相談に乗って頂きたいのです。遠浅なら、遠浅を生かす方法もありますし、モラン伯爵領までの運河も作りたいと思っています」

 ふふふ、リチャード王子と訪問した爺様の錬金術師に会いに行かなきゃ! バーミリオン・バルーシユ、生きているかな? かなりの高齢だったけど?

「ペイシェンス様、お願いだから、話し合いましょう!」

 えっ、かなりパーシバルは危機感を持ったみたい。

「ええ、勿論!」

 初めから、話し合うつもりだったよ! おかしいな? 

「ペイシェンスの婚約者も大変そうだな。だが、面白そうだ! いつでも引き受けるぞ」

 いや、本当にやめてほしいよ。


 2時間目の終了の鐘がなり、マーガレット王女とリュミエラ王女がやってきた。

 ちっともいちゃいちゃできなかったよ。いや、普通の話し合いも少ししかできなかった。ぷんぷん!


 パリス王子はいつも通り、マーガレット王女に粉を掛けているけど、カレン王女の件はどうなったのかな? 私は横でもやもやする。

 でも、アルーシュ王子ですら、知らないわけでも無さそうなのに知らん顔だ。

 やはり、外交官とか性格的に向いていなかったのかもしれないね。

 全員が和やかに会話しているけど、私はパリス王子の真意が知りたい。まぁ、それはマーガレット王女も同じだと思うよ。


 昼からは、染め物だ! 今度からは大きな織り機でやるから、染め物も慎重にしないと柄がずれたら大変だよ!

 大きな織り機、これはこれで良いけど、前世の布はもっと幅が広かったよね?

 それと、ジッパー用の狭い幅の布というか平たい紐を織りたい。

「ダービー先生、もっと広い幅の布は織れませんか?」

 ダービー先生は苦笑する。

「横糸のシャトルを飛ばせる距離はこれで限界だわ。前に男の織物職人を育成して、もっと幅の広い布を作ろうとした人もいるけど、あまり成功しなかったみたいね。織物は女の人の仕事だとのイメージがあって、なかなか育成できなかったの」

 なるほど、男の人なら腕のリーチも長いし、握力もありそうだ。

「そうなのですか……」

 つまり、幅の広い布を織る機械を作る時に注意しなくてはいけないのは、横糸をまっすぐに緩まないで飛ばす機能だ。

 これは、ちょっと勉強しないと難しいかな? あれっ? 魔法省の動く的、応用できるかも?

「ペイシェンス? 何か考えているの?」

 織り子の女の人の職を取っちゃう事になるかも?

「ええ、でも手織りは、手織りの良さがあります。より高度な柄を織る腕が必要になるかもしれません」

 前世の色々な柄物は、コンピューター制御で織られていたのだと思う。少なくとも私には無理だから、平織りか縞模様程度だよ。

「そうなのね……でも、布が安価になると助かる人もいるし、難しい問題だわ」

 産業革命でも問題は起こった。でも、この世界には化石燃料がないのだ。魔石では、大した事はできない。

「まだまだ先の話になりそうです」

 カザリア帝国の太陽光から魔素を取り出して、エネルギー源にする方法が必要になる。

 ゲイツ様は、かなり解明しているみたいだけど、グース教授に教える気は無さそう。

 魔導船には乗りたいけど、それが戦争に使われるのを危惧しているのかな? 私も嫌だな!

 となると、太陽光発電ならぬ太陽光発魔は駄目なのか? よく考えないといけない問題だ。

 この問題もパーシバルと話し合いたい。領地の開発もだし、貴族としての義務も私は知らないのだ。

 やはり、アルーシュ王子に邪魔されたのが腹立つよ!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る